第26話 慟哭

「では、行ってきます」

「無事にお戻りください」

「アレス兄ちゃん! 頑張ってね!!」

「頼みましたぞ、アレス殿!」

「ゴブリンの野郎どもをやっつけてくれ!」

「兄さんの仇を取ってきて下さい!」

………………

…………

……


 ナミルさんとリッド君親子に村長、その他村人たちに見送られて村を出た。

 みんなの想いに応えるためにも、きっちりとゴブリンを討伐してみせる。

 ……とまぁ、決意を固めてみたものの、正直そんなに困難な戦いになるとは思っていない。

 だって、噂の上位種と予想されるゴブリンジェネラルってゲームだと序盤のボスキャラでしかないし、中盤以降はザコキャラに格下げされてちょこちょこ出てくる程度だ。

 たいした努力もなしでゲームの主人公相手に終盤まで食らいついて行けたアレス君からすれば、何の脅威でもない。

 それに加えて、まだ1カ月にも満たないとはいえ、エリナ先生に魔力操作の伸びを認めてもらえる程度には鍛錬も積んだんだ、いくらかは強くなっているハズ。

 そう思えば実力的に負ける要素はなにもない、自信を持って行こう。


「さて、距離的にはこの辺でいいかな」


 村からしばらく歩き、俺の魔法が届く距離までゴブリンの集落に近づいた。

 魔力探知で改めて集落の様子を確認。

 ふむ、昨日とほぼ同じだね。

 集落の中に人間らしき魔力がないか最終確認も済んだ。

 噂の上位種らしき強い魔力の持ち主も含めて、全てのゴブリンにマーキングも済んだ。

 準備完了。


「お集りの皆様、これより『春なのにつらら祭り』の開会を宣言します」


 なんとなく一声かけてから、マーキング先に向けてつららを発射。

 今の俺の魔法操作では同時に撃ち出せるのが10数本程度なので、つららを生成しては射出をひたすら繰り返す。

 数分後、全てのマーキング先につららの射出が完了した。

 そこまで深刻な魔力の消費感はないが、それでも自然回復だけではしばらく時間がかかりそうなので、念のため魔力ポーションを飲んでおく。

 そういえば、魔力ポーションを飲むのは転生してきてから初かもしれんね、回復ポーションはスポーツドリンク感覚で頻繁に飲んでたけどさ。

 下級ぐらいでもいい気はするけど、今回は奮発して中級を飲んじゃえ。

 ……うん、魔力も満タンになったことだし、そろそろ集落に向かおう。

 おそらく盾とか鎧で防御出来たナイトクラスとかだろうね、弱々しい魔力が一つ、また一つと消えていく。

 ジェネラルらしき奴はまだ生きてるね……というか徐々に回復してる。

 どうやら隣に回復役がいるみたい、なるほどねぇ。

 どれ、アレスさんが直接引導を渡しに行ってあげようじゃないか。


「へぇ、君が噂の上位種君かい?」

「グ……ガァ!」

「ギッ」


 うん、予想通りジェネラル君でした~

 そんでお隣はプリーストちゃん……かな?

 なんかね、ジェネラル君は体中のあっちこっちにつららが刺さってるんだけど、プリーストちゃんは多少かすり傷っぽいのはあるけど、ほぼ無傷。

 あれだね、ジェネラル君が身を挺して護ったって感じかな?

 さっすが、男の子って感じだね!

 ……いや、俺が性別の見分けがついてないだけで、ジェネラルさんとプリースト君かもしれないし、もしかしたら同性かもしれない。

 ただなんとなく、ジェネラルの方がイカツめフェイスなのに対して、プリーストの方がゆるふわ感あるなと思ったからなんだけどさ。

 そんで、さすがに立ってられないのか、仰向けで倒れているジェネラル君にプリーストちゃんが一生懸命に回復魔法をかけてるって状況だね。

 でもやっぱ、ゴブリンプリーストごときの回復魔法じゃ一発回復っていうのは難しいみたいで、ジリジリと少しずつ回復してるって感じ。

 なんか、いたたまれない気もするけど、ちょこちょこ回復されるのも邪魔だからね。


「……とりあえず、ウザいからその回復魔法やめてもらっていいかな?」


 そう一声かけて、プリーストちゃんのコメカミにライトバレットを撃ち込んだ。

 一応プリーストだし、光属性の方がいいかなっていう俺なりの配慮。

 魔法の発動に気付いたジェネラル君もとっさに庇おうとしたみたいだけど、仰向けの姿勢じゃ間に合わなかったみたいだね。

 まぁ、だからこそ、こちらも光の属性だからか弾速の速いライトバレットを選んだっていうのもあるんだけどさ。

 それはともかく、コメカミを撃ち抜かれたプリーストちゃんは力なくゆっくりと倒れていく……

 それを抱き支えるジェネラル君。


「……悪いけど、戦闘中に回復されると面倒だなって思ってさ……そのプリースト、君の彼女だったのかな? お詫びと言ってはなんだけど、君も同じところに送ってあげるね」

「……ガアァ! ガアァァァァァァ!!」


 ジェネラル君の慟哭が辺りに響き渡るが、それには構わず止めのつららを発射した。


「ガァ!!」

「……驚いたな、俺のつららをコブシで砕くなんて……君、なかなかやるじゃないの」

「ガアァァァァァァァァァァァァァ!!」


 ん? ジェネラル君の様子がなんかヘンだぞ。

 いや、ヘンって言うか、体中から光を発して輝いてる。

 ……あ! もしかしてこれ、進化かな!?

 すげぇ、モンスターの進化シーンを見るの初めてだよ! 動画に撮って前世の同好の士の皆様にも見せてあげたかった……

 ジェネラルからだと何に進化するんだろう? キングかな? 飛び越えてエンペラーまで行っちゃう!?

 ええい、ワクワクが止まらん!

 あ、ちなみに俺ってさ、これでも悪役転生者の端くれだからね、相手の変身中に攻撃なんて出来ませんよ。

 マナー違反だって怒られたくないからね。

 とかなんとか言ってたら、もう間もなく変身完了だね。

 いや~いいものを見せてもらった、感動した!

 さてさて、ジェネラル君は何に進化したのかな?

 そうして、眩いばかりの光が収まり、新たな姿を得たゴブリンがその姿を現す。


「……おいおい、マジかよ…………ゴブリンヒーローって……その可能性は考えてなかった……」

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