第25話 親子の姿
ここがリッド君の家だったな、ドアをノックして返事を待つ。
「はーい」
「やぁリッド君、ただいま」
「アレス兄ちゃん! おかえり!!」
「さっき、リッド君のお母上の体調が思わしくないって言ってたよね? もしよかったら回復ポーションを試してもらおうと思ってさ、来てみたんだ」
「ありがとうアレス兄ちゃん! 入って入って!」
「お邪魔するよ」
「母ちゃん、アレス兄ちゃんが来たよ!」
「初めまして、冒険者のアレスと申します」
「あらあら、ご丁寧にどうも、リッドの母のナミルでございます。先ほどは危ないところを助けていただいたそうで、なんとお礼を申し上げれば良いか、本当にありがとうございます」
「いえいえ。それで、リッド君から聞きましたが体調が優れないとか、回復ポーションなどは試されましたか?」
「ええ、ここのところずっと体が重怠く、ろくに体を動かせず、横になってばかりです。回復ポーションは……村にゴブリンの脅威が迫っている今、戦士の皆さんに使ってもらおうと思い、飲んでおりません」
「そうですか、ではこちらをお飲みください。私の持ってきた物なので、村のみんなには迷惑がかかりません」
「え!? そんないけません。それは明日アレスさんが使うためのものでしょう?」
「大丈夫ですよ、たくさん持ってきましたから」
「でも……」
なるほどね、リッド君が自力で薬草を手に入れようと思ったわけがわかった。
自分が採取してきた薬草なら母親も気兼ねなく使ってくれるだろうとか思ったんだろうね。
「母ちゃん、アレス兄ちゃんがいいって言ってるんだから飲ませてもらおうよ」
「飲んでください。何よりリッド君のためにも、元気なナミルさんの姿を見せてあげてください」
「……わかりました、それではお言葉に甘えさせていただきます」
「どうぞどうぞ」
この世界ではだいたいの病気は中級ポーションで治るらしい。
ナミルさんの病気がどの程度のものなのか医者じゃないからわからんので、だいたいのものに効くと言われている中級を渡してみた。
この世界のポーションは過剰回復で逆に体に悪いみたいなことが起こらないみたいなので、安心して飲ませられる。
ちなみに、不治の病と言えるレベルの難病でも上級や最上級のポーションで対応できちゃうらしいと知ったときは正直驚いた。
そのときばっかりは、前世にもこの世界のポーションがあればいいのにって思わずにはいられなかったね。
それはともかく、見るからに病人という雰囲気だったナミルさんだったが、中級ポーションを飲んだ直後からみるみる血色が良くなり、完全な健康体という見た目になった。
効き目凄いね。
「体が軽い……もう、大丈夫……リッド、心配かけてごめんね、お母さんもう大丈夫だからね」
「母ちゃん!」
うんうん、回復を喜び合う親子の姿……美しい光景だね。
このシーンを一枚の絵画にして飾っておきたいぐらいだよ。
というか、ゲームでは今回の依頼がイベントとしてシナリオになかったけど、もしあったら、この場面がCGになってたんじゃないかな?
「……ああ、ごめんなさい、アレスさんを置いてはしゃいでしまって。いただいたポーションでこの通り、元気になりました、ありがとうございます。リッド共々お世話になりっぱなしで、このご恩にどうやって報いればいいか……」
「いえいえ、どれも私が勝手にしたことですから、お気になさらず。お礼なども不要で……いえ、既にお二人の笑顔というお礼をいただいておりますので……なんてクサすぎましたかね、ははは」
「まあ、なんという……リッド、あなたもアレスさんを見習って素晴らしい人になるのですよ」
「うん!」
「お恥ずかしい、私などまだまだですよ」
「そんなことないわ。でも、私たちばかりお世話になって申し訳ないわね……」
「ねぇ母ちゃん、アレス兄ちゃんにうちに泊まってってもらおうよ!」
「「え?」」
「空いてる部屋だってあるし、母ちゃん、いいでしょう?」
「そうねぇ、たいしたおもてなしも出来ませんが、アレスさんさえ良ければ何日でも泊っていってくださいな」
「ね! アレス兄ちゃん、泊まってってよ!!」
「う~ん、わかった、それじゃあお言葉に甘えさせてもらうよ。ナミルさんも、よろしくお願いします」
「やったぁ!」「ええ、もちろん!」
まぁね、このままだとナミルさんたちは借りを作りっぱなしって感じで心苦しいだろうからさ、こちらも泊めてもらうってことでイーブンな関係に戻れればいいかなって。
あ、一応ゼスに言ってこなきゃかな、どこ行ったんだって心配するかもしれないし。
「そうと決まれば、私がこちらに泊めてもらうことを連れに伝えてきます」
「あらあら、かえって手間をかけさせてしまいますね」
「いえいえ、それでは一度失礼します」
「オイラも行く~!」
そういえば宿の場所を聞いてなかったな、見りゃわかるだろうと思ってたのもあるんだけどさ。
でもま、今回もリッド君に案内してもらうからあんま関係ないね。
「ここが宿だよ、他の家よりおっきいからすぐわかっちゃうね」
「そうだね。じゃあちょっと受付でゼスを呼んでもらうよ」
「うん!」
「……すまんがここにゼスという男が泊っていると思うんだが、呼んでもらえないか?」
「かしこまりました」
「アレスの旦那、呼びましたかい?」
「ああ、リッド君の家に泊まることになったので、一応伝えておこうと思ってな」
「なるほど、そういうことでしたか。わかりやした、宿のキャンセルもあっしの方でやっておきましょう」
「そうか、すまんな。もしよかったらこれで一杯やってくれ」
「いやそんな、この程度で悪いですぜ」
「ん~なら、今日一日頑張ってくれた馬に美味い干し草でも食べさせてやってくれ、それじゃあな。行こうリッド君」
「うん!」
「旦那ぁ~……また行っちゃった」
リッド君の家に戻って来た。
その間、ナミルさんは夕食の準備をしているところだった。
病み上がりなのだからと止めようとしたが、張り切るナミルさんを見て無理に止めるのもどうかと思い、手伝いを申し出るに留めた。
あと、たぶん食材が足りなくなるだろうから持ってきたのを出した。
「お口に合うかわかりませんが、どうぞお召し上がりください」
「母ちゃんの料理はとっても美味しいから、きっとアレス兄ちゃんも気に入るよ!」
「そうだね、とても美味しそうだ。では、いただきます」
うん、美味い。
なんだろう、実家に帰って来たみたいな安心感がある。
……母さん、ごめん。
「あらあら……お口に合いませんでしたか?」
「……いえ、美味しいんです、とっても……ただ、遠く離れた母の味を思い出してしまい、つい……」
「アレス兄ちゃん……」
「……ごめんよリッド君、心配かけちゃったかな? 君の言う通り、ナミルさんの料理はとっても美味しいね」
「うんっ!」
ナミルさんの料理と前世の母の料理……全然違うのだけど、根底にあるものは何も変わらないのだろう。
思わず郷愁にかられてしまい、ナミルさんたちを慌てさせてしまうという場面もあったが、とても素晴らしい食事だった。
……腹内アレス君も俺の雰囲気に一応気を使ってくれたのか、いつもよりほんの少し控え気味にしてくれた、温かいもんだね。
そうして、食後もしばらくナミルさんやリッド君とのおしゃべりを楽しんだ後、リッド君と一緒にお風呂に入って、そろそろリッド君も寝る時間というところで、俺も用意された部屋に移動。
さて、遂に明日はゴブリンどもの殲滅だ。
明日に向けて、調子を整えるという程度に魔力操作の練習を切り上げて早めに就寝した。
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