第24話 ためらわれる

「アレス兄ちゃん、ここがオイラの家だよ! それじゃあ、今日はありがとう、あと、調査頑張ってね!!」

「ああ、リッド君も村の案内ありがとう、頑張ってくるよ」


 村長宅を辞し、リッド君とも別れ、テグの案内で周辺の調査に出た。


「おい、村長の話では凄腕らしいが……今回の依頼、甘く見ない方が身のためだぞ」

「ほう?」

「単なるゴブリンなら俺たちだけでも討伐できたんだ……あいつさえいなければ!」

「ああ、噂の上位種か?」

「そうだ……あいつは普通じゃない……屈強な戦士であるはずの男たちが何人もあいつに……モヌでさえ……」

「モヌというのは確か、リッド君の父親だったな」

「ああそうだ。モヌはこの村一番の戦士だ。村に残らず冒険者になっていれば、きっと今頃高ランクになっていたに違いない男だ……そんな男ですら時間稼ぎがやっとだったッ……!!」


 どうやらリッド君の父親は仲間に慕われていたようだな。

 リッド君も良い子だったからな、その父親だ、当然と言えば当然か。


「忠告ありがとう。仇は必ず俺が取って来ると約束しよう」

「ふん、精々返り討ちにあわないことだな」

「ははは、心配には及ばない、任せておけ」

「……」

「さて、おしゃべりはこれぐらいにして、ゴブリンの集落はこっちでいいのか?」

「ああ、まだ距離があるが、ここからまっすぐ進めば奴等の集落だ」

「ふむ、では魔力探知で探ってみるから一旦止まってくれ」

「な!? まだ距離があると言ったばかりだぞ!!」

「大丈夫、もう届いた」

「ッ!!」


 なるほど、かなり大きな集落だ

 ゴブリンがワラワラいるよ。

 うん、ロアンナさんの危惧した通りたぶん500は余裕で超えてる……下手したら1,000行ってるんじゃない?

 それから、デカめの魔力を探してみると……まあまあヒットするな。

 学園都市周辺でもナイトやマジシャンクラスと何度か遭遇したからわかるが、そのクラスがこの集落にはゴロゴロいるぞ。

 あとは……見つけた、噂の上位種はこいつだな、周囲に比べて圧倒的にデカい魔力を持ってやがる。

 ロアンナさん、貴女の危惧がまた当たりました、たぶんジェネラルです。

 よし、敵の様子はわかった、あとは人間が捕まってたりしないか調べてみるか。

 ……人間らしき魔力は感じない、これはいないと判断して良さそうだね。


「集落の様子はだいたいわかった。あとは村周辺の様子を確認して今日のところは戻ろう」

「……お前が納得出来たなら、俺が言うことは何もない」

「よし、それじゃあ道案内の続きをよろしく」

「……ああ」


 ん~どうもテグ助は俺の実力が信じられんみたいで、微妙にトゲのある態度なんだよね。

 いや、気持ちはわかるよ、こんなガキんちょで本当に大丈夫かってね。

 しかも、普通なら複数パーティーの合同であたるような案件らしいし?

 そんなところにクソ生意気な小僧1匹と来たもんだ、イラつくなって方がムチャだと思う。

 

「おっと、いらっしゃい、ゴブリンの団体さん」


 10数体のゴブリンそれぞれにつららを撃ち込んであげた。

 明日に向けて、魔力探知でマーキングしてつららを撃ち込むっていう戦い方の練習をしておく。

 やっぱね、なんか無意識のうちにつららばっか撃ってたせいで、一番使い慣れた魔法になってしまった気がする。

 他の属性も一応使えるように練習はしてるんだよ?

 でもなんかね、とっさのときはつららを撃ち込んじゃう。

 あとやっぱ、どうしても森林火災が気になって炎系は特にためらわれる。

 前世の学校とかで環境問題に関する映像とか話を何度も見聞きしたからかな? なんか記憶に残ってるんだよね。

 正直今回もさ、ゴブリンの集落を包み込む極大ファイヤーストームとかを放った方がカンタンだと思うんだけど、妙に二の足を踏んじゃう。

 これは下手したら、俺の弱点として周辺の被害を気にして本気を出せない、みたいなことになってしまうかもしれないな……まさかの逆前世知識チートってやつか?

 おかしいな、もっとハードルの高そうなモンスターの殺傷はなんともなかったのに……

 ううむ……地味に困ったぞ。

 ……いや、待てよ……余裕があるうちは存分にためらってもいいんじゃないか?

 どうせ俺のことだ、本当にヤバくなったらアッサリと前言を撤回して、あっちこっち火の海にすることも辞さない気がする。

 やる、俺はそういうことを平気でやれちゃう側の人間だ、少なくとも転生後の微妙にバイオレンス思考な俺ならね。

 ……それに、ちらっとモンスターの丸焼きが頭に浮かんだ瞬間、腹内アレス君が反応した。

 腹内アレス君にとってはバーベキュー感覚なんだね、これは行けるわ。

 なんだ、別にたいした弱点じゃなかったね、よかった、一瞬マジで心配しかけた。


「お、そこにもいるね」


 今回は敢えてファイヤーボールを撃ってみた。

 炎に包まれたゴブリンたちの合唱が森に木霊する。

 なるほど、これぐらいなら周りに火が燃え移らないみたいだね。

 あ、それでも火力が強過ぎたのか、ゴブリンが焦げて炭化しちゃってる。

 あーあ、これじゃあ買取不可だろうね。

 ……やっぱ駄目だ、炎系は控えよう、もったいない。

 そうだ、気付いてないだけで、どっかに火の粉が飛んでるかもしれないから、この辺に軽く水魔法でも撒いておくか。


「……」


 そういやテグ助が妙に静かだな。

 さっきまでわりとおしゃべりさんだったのに。

 はは~ん、さては俺の魔法のテクに見惚れてるな、テグだけにね!

 うん、しっかり見て勉強するといい、魔法は何歳から挑戦したって遅くないよ! たぶん。


「……そろそろ、村の周辺を一回りしたと思、います」

「そうみたいだな、では戻るとするか」

「……はい」


 こうして村周辺の調査は終わった。


「案内ご苦労、助かった」

「……いえ、それでは」

「ああ、そういえば、今日で森の様子はだいたいわかったから、明日の道案内は不要だ。ではまたな」


 テグ助と別れた俺はふと、リッド君のお母上の体調が思わしくないという話を思い出した。

 うん、回復ポーションを届けるぐらいならこの時間でも問題ないだろうし、リッド君の家に寄ってみよう。

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