第23話 まだ子供じゃないか

 1日の大半を馬車移動というのはなかなかにシンドイもんなんだね。

 その間ずっと魔力操作の練習を続けてたから、どっちかというと練習疲れかもしれないけどね。

 だけど、ゼスの話ではもう少しでソレバ村に到着らしい。

 今日のところは村長に挨拶をして、状況を聞いた上で緊急性がなさそうなら、周辺を軽く確認して早めに休むかな。

 さすがに、今日でイッキに討伐してしまうっていうのはムチャかなって思うし。

 そんなことをつらつら考えながらも、魔力探知で周囲の索敵は疎かにしていない。

 ……ん? わりと小さめの人間らしき魔力に、5体のモンスターらしき魔力が少しずつ範囲を狭めて近づいて行ってるぞ、これはマズいかもしれん。


「ゼス、緊急事態だ、悪いがちょっと行ってくる! ここで待機しててくれ」

「あ、ちょっと! アレスの旦那ぁ……行っちゃった」


 ふむ、まだ襲われてはいないみたいだ……間に合いそうもなかったらマーキングしたモンスターらしき魔力にひとまず吹き飛ばしを目的としたエアーボールを撃つか。

 これなら誤って人間に当たったとしても死にはしないだろう。

 それにしても、懸命に走ってはいるのだけど、いかんせんまだ足が遅いからね……


「何だお前ら! 来るな!! 来るなぁ!!」

「ちぃ、もう少しだってのに……仕方ない、エアーボール」

「ガギャ!」「ギギャ!」「グギャ!」「ゲギャ!」「ゴギィ!」

「え?」


 よし、とりあえず最悪は回避できたみたい。


「ふぅ、ふぅ……到着、よし、ちゃんとモンスターにだけ当たって良かった」

「え? え!?」

「ギャ!」「ギギャ!!」「ギャァ!!」「ギィヤァ!!」「……ギ、ギィ」


 俺がエアーボールをぶつけたのに気付いているのか、えらい剣幕で威嚇してくるゴブリン5体……いや、なんか怖気づいてるのもいるな、当たり所が悪かったかな?


「うん、君らに用はないんだ、だからバイバイ」


 そう一言添えてつららを5本射出。

 5本とも各ゴブリンの眉間を正確に撃ち抜く。

 どうだい? 俺の魔法もなかなか鮮やかなもんだろう?


「さて少年、大丈夫だったかい?」

「あ、うん! ありがとう兄ちゃん!」

「どういたしまして。それで、君はソレバ村の子かい?」

「そうだよ! オイラはリッド!」

「そうか、俺はアレス。ところで、なんでこんなところに1人でいるんだ? 村から出ちゃいけないって大人の人に言われなかったのかい?」

「それは……」

「ここだと、また襲われるかもしれない。とりあえず、こいつらを回収して移動しながら聞くよ」

「う、うん」


 何やら話すのに心の準備がいるっぽいので、ゴブリンの死体を回収しながら、その時間をあげることにした。

 まぁ、ゼスも待たせてるからね。


「それで、理由を聞かせてもらえるかな?」

「わかった……少し前、ゴブリンが村の近くに集落を作ってて、その討伐にうちの父ちゃんも参加してたんだけど……してたんだけど、やられちゃったんだ……それを聞いた母ちゃんはショックで倒れて、それからずっと体調が悪いんだ……日に日に弱ってく母ちゃんを見てるとオイラ、村で大人しくなんてしてられなくて……そのとき、この森にすんごくよく効く薬草があるって昔聞いたことを思い出してさ、気付いたら村を飛び出してたんだ」

「……そうか、君は思いやりがあって、勇敢な男なんだね。その志には敬意を表するよ。……だが、無謀でもあった。一度周りの大人と相談するべきだったね」

「……うん」

「まぁ、君の気持もよくわかる。俺が同じ立場なら、きっと同じことをしただろう。だからあんまり気を落とさなくていい、反省して次につなげる、それだけさ」

「アレス兄ちゃん……ありがとう」

「お、馬車が見えてきたな」

「アレスの旦那ぁ、いきなり飛び出すんだからびっくりしましたよぉ。それに、走ってる馬車から飛び降りたら危ないですぜ!」

「……偉そうなことをいいながら、俺もこんなものだ、はははは」

「……ふふっ、あはははは」

「急に笑い出して、あっしには何が何だかサッパリでさぁ」

「すまんすまん、何があったのか説明するよ。あ、それとこの子だけど、ソレバ村の子だから、村まで一緒に乗せていくことにするよ」

「わかりやした」


 こうしてゼスに今回の出来事を説明しながら、ソレバ村への馬車移動が再開される。


「着きやしたぜ、アレスの旦那」

「おお、ここがソレバ村か」

「そうだよ! ようこそソレバ村へ、アレス兄ちゃん!!」


 返事の代わりにリッド君の頭を撫でてやった。

 うん、素直な良い子だ。


「ふむ、まずは村長に挨拶に行くとするかな」

「それならオイラが案内するよ!」

「そうか、助かるよ。ここからはリッド君に頼むから、ゼスは先に宿に向かってくれ」

「へい、わかりやした」


 ゼスと別れ、リッド君の案内のもと村長宅へ。


「村長~お客さんだよ~」

「おお、リッド、ご苦労じゃったな。して、お客さんとはあなたですかな?」

「ああ、ギルドから依頼で来た冒険者だ。そして、これがその依頼書になる」

「おお! お待ちしておりましたぞ、冒険者殿!! おっと、立ち話もなんですから、ささ、お入り下され」

「邪魔するぞ」


 村長に促され、応接室へ。

 何気にリッド君も俺について来たが、村長も特に咎める気もないようなので、そのままにしておく。


「改めまして、私はソレバ村の村長をしております、ソッズと申します」

「冒険者のアレスだ」

「オイラはリッド!」


 リッド君の背伸びして大人の会話に参加してる感が妙に可愛らしく感じたので、思わずまた頭を撫でてしまった。

 ……アニマルセラピーってこんな感じなのかな。

 すまんリッド君、失礼なことを思ってしまった。

 まぁ、アレス君もまだ13歳だから、客観的に見たら俺も背伸び感があるかもしれないけどね。


「ギルドからも説明があったと思いますが、現在の状況も踏まえてお話いたします」

「ああ、頼んだ」


 村長の話を箇条書きでまとめるとこんな感じ。


・ある日、ゴブリンの集落が出来ていたのに気付く。

・村の戦える男を集めて討伐に向かった。

・最初は順調に討伐が進んでいたが、体の大きな個体が出てきて状況が変わった。

・村の男たちが次々と倒されていく。

・敗色濃厚となり村一番の戦士(なんとリッド君のお父さん)がしんがりとなって時間を稼ぎ、討伐隊は撤退。

・その後はゴブリンの逆襲に備え、村の防備を固めて様子を見る。

・その間、冒険者ギルドに依頼を出し、冒険者の到着を待っていた。


 そんでようやく、俺が到着したってワケ。


「なるほど、理解した。その大きな個体というのが上位種の可能性があると」

「おそらく、討伐に参加した男たちの話からすると、ゴブリンとは思えないほどの強さだったそうです」

「ふむ、大きさはどれぐらいだったか聞いているか?」

「はい、我々成人男性と同じかそれ以上はあったと言っておりました」

「だとすると、ナイトを超えているかもしれんな」

「やはり……」

「それから、奴らが攻めてくる気配はあるか?」

「いえ、今のところは」

「そうか、では今日のところはゴブリンの集落周辺と村の周りの様子を確認し、明日から本格的に討伐に向かうこととしよう」

「わかりました、村の男に案内させます。リッド、テグを呼んできてくれ」

「わかった!」


「村長、冒険者が来たって?」

「おお、テグ。そうだ、こちらが冒険者のアレス殿だ」

「……まだ子供じゃないか」

「何を言うか! こちらはギルド推薦の凄腕の冒険者殿だ!! 滅多なことを言うものでないわ!! アレス殿、テグの失礼な発言、申し訳ありませぬ」

「そうだそうだ! アレス兄ちゃんは凄いんだぞ!!」

「いや、確かに成人に至っていないのだから、事実を言われたに過ぎない、何の問題もない。リッド君もありがとう」

「かたじけない……お前も頭を下げんか!」

「……すまない」

「まぁそんなことより、早速周辺調査を行いたい、案内してくれるな?」

「……ああ」


 まぁね、実際のところテグの反応が普通だと思うね。

 だって、冒険者と聞いて来てみたらこんな子供でしたってんなら「えっ! マジか……」ってなると思うよ?

 どっちかっていうと村長の反応の方が意外な気がするし。

 まぁ、依頼書を見せる際に、村長に渡してくれって言われたギルドからの手紙に俺の評価が高めに書いてあったんだろうけどさ。

 それはともかく、まずは周辺の調査に集中しなきゃだね。

 そんなわけでテグ、道案内よろしく。

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