第28話 遺した物

「ゴブリンの討伐を終え、戻ったぞ」


 村の門番的な男に帰還を告げると、大慌てで村長に報告に行った。

 ぽつんと一人残された感があるが、まあいいか。

 うん、俺も村に入っていいよね。

 入っちゃうからね!

 そんな感じで、入口から少し進むとリッド君が待ち受けていた。


「アレス兄ちゃんお帰り!!」

「おおリッド君、ただいま。もしかして今までずっとここにいたのかい?」

「うん! アレス兄ちゃんのことが気になって、気になって!」

「そうか、無事帰って来たし、ゴブリンの討伐も完了したからもう安心して大丈夫だよ」

「おぉ~凄いや!」

「アレス殿~よくぞ戻られた! ゴブリンの討伐も成功したとのこと、村を代表して感謝申し上げる!! 依頼書に達成のサインをしますゆえ、一度我が家にお越し下され」

「ああわかった。ごめん、リッド君。ちょっとお腹すいちゃったからさ、ナミルさんにお昼ご飯の用意をお願いしてもらってもいいかな?」

「うんわかった! じゃあ、オイラも母ちゃんと一緒に用意して待ってるよ!」

「ありがとう、じゃあまたあとでね」

「うん!」


 こうして村長宅に移動。

 リッド君を先に家に帰したのは、村長に村人の遺品を渡す際に、おそらくあるであろう父親のものを見せていいものか自信がなかったからである。


「改めて、ありがとうございました。こちら、サインを致しましたので、ギルドにお渡し下され」

「ああ。それと……ゴブリンの集落で村人のものと思われる遺品をいくらか回収してきたのだが、村長から遺族に返してやってもらえるか?」

「ええ、もちろんです」

「助かる。で、どこに出せばいい?」

「そうですな……村の集会場にお願いしてもよろしいですかな?」

「ああ」


 結構な数があるからね、集会場にみんなを呼んだ方が手間が省けるよね。


「ではここにお出し下され」

「わかった」

「……ああ、その鎧は……」


 遺品を一つ一つ集会場に並べる度に、村長の嘆きの声が漏れる……

 ゴブリンジェネラル……アレス君の体というある種のチートを持つ俺だからこそ脅威に感じなかったが、序盤とはいえボスという肩書は伊達じゃない。

 経験を積んだベテランの冒険者でも1対1なら普通に負ける程度には強いモンスターだ……しかも、ヒーローに進化できるポテンシャル持ちだったからなアイツ……

 そうして並べ終わったわけだが、ゴブリンの集落で回収した物品の全てを出したこともあって、結構な数になった。


「村人の所有物ではないものがあったとしても、村の方で自由に処分してくれて構わない」

「お心遣い、感謝致します」

「では、リッド君が待っているので、これで失礼する」

「はい、今日はゆっくり休んで疲れをお取りくだされ」


 村長と別れ、リッド君の家まで戻って来た。


「待ってたよアレス兄ちゃん! ご飯の準備も出来てるよ!!」

「おお、ありがとう」

「お帰りなさい、アレスさん。無事にお帰りになられて、ホッとしております」

「只今戻りました。ありがとうございます、ナミルさん」

「さぁさ、冷めないうちに早速食事にしましょう」


 食事が終わり、食器を片付けるためナミルさんが立ち上がろうとして、バランスを崩して倒れそうになった。

 テーブルに手をついて体を支えたので転倒は避けられたが、どうにも顔色が悪い。


「大丈夫ですか、ナミルさん」

「ええ、少し立ち眩みをしただけですわ」

「母ちゃん……」


 しかし、歩き出そうとして、またも倒れそうになる。

 ……もしや、治ってなかったのか?

 いやしかし、だいたいの病気に効くと言われている中級だぞ? そんなことあるか?

 それに、中級で対応出来ない病気なら、もっと深刻な状況になっているはずだぞ?


「……この前とおんなじだ」

「……そうね、この少しずつ体力がなくなっていく感じ……病気が再発したのかしら」


 少しずつ体力が減っていくのって……ゲームで言うところの継続ダメージってことだよな……まさか!?


「ナミルさん、もしかするとそれは病気ではないかもしれません」

「「え!?」」

「不快な思いをさせてしまうかもしれませんが、魔力探知でナミルさんの体を調べさせてもらえませんか?」

「え? ええ、それは構いませんが……」

「ありがとうございます、それでは失礼して」


 そうして俺は、魔力探知でナミルさんの体の様子を探ってみた。

 やはり……生命エネルギーみたいな感じのが吸い取られているように、一カ所に集まっている。

 これだな。


「ナミルさん、その首飾りですが、どうされました?」

「これですか……これは、夫の形見です。あの討伐に行った日……帰ることが出来ないと覚悟した夫が、最期に私に渡すようテグに託したと聞きました」

「……テグに? ……ごめんリッド君、お父さんが身に着けていたものや、使っていた物って何かないかな、あったら持ってきてくれないかい?」

「うん!」

「えっと……どういうことですか?」

「その前に、申し訳ありませんが、その首飾りを一度外して体から離して置いてもらえませんか?」

「持ってきたよ!」

「ありがとう」

「……これでよろしいでしょうか?」

「はい……やはり」

「やはりとは?」

「ああ、すいません、これから説明します」

「お願いします」

「まず、その首飾りは『吸命の首飾り』と言って、身に着けている者の生命エネルギーを吸い取る危険な代物です」

「そんなまさか! あの人がそんな物、私に贈ろうとするはずないわ!!」

「はい、きっとそんなはずはないでしょう」

「じゃあどうして!?」

「……その首飾りの残留魔力を調べたところ、2人分の魔力しか感じられませんでした」

「え!?」

「……ナミルさんとテグの2人分だけです。そして、改めてご主人が使用されていた物品に残る残留魔力と照らし合わせてみましたが、やはりその首飾りには該当する魔力は感じられません」

「……そ、それは……どういうことなの!?」

「おそらくですが、その首飾りはご主人の遺した物ではありません」

「そ、そんな!!」

「テグがどんな意図をもってそれをナミルさんに渡したのかはわかりません……ですが、このような危険な物を人に渡すなど、どんな理由があったとしても許される事ではありません」

「……そう……ですね」

「すみませんがこの首飾り、一度預からせていただいてもよろしいでしょうか?」

「……わかりました、お預けします……ですが、アレスさんは大丈夫なのですか?」

「はい、これでもいろいろと鍛えてますから耐えられますし、このバッグに入れれば大丈夫です」

「それならいいのですが……」

「それでは、お預かりします」


 そう言って手に触れた瞬間……

 は? え? ナニコレ!? なんかお腹が減るんだけど!?

 大丈夫とか適当ほざいた手前、顔は無表情をキープしたまま慌ててマジックバッグに吸命の首飾りを収納した。

 やべぇ、過去に例を見ないぐらい腹内アレス君がお怒りでいらっしゃる。

 これまでにも食事を忘れたりして、腹内アレス君に怒られたこともあったけど、あんなん怒られたうちに入らないレベルだ。

 まぁ、ある意味ご飯を横取りされたみたいなもんだからね、頭にくるのもわかるよ……ん、この場合はむかっ腹が立つと言うべきかな?

 ごめん、腹内アレス君、一段落ついたらいっぱいご飯食べるから機嫌を直して。


「では、私はこれからテグのところに行ってきます。あ、それとこの回復ポーションを飲んでください、奪われた体力を回復します」

「ありがとうございます……それと、私も行ってもいいですか? なぜこんなことをしたのかを直接聞きたくて……」

「……わかりました」

「アレス兄ちゃん、オイラも……オイラも連れてってよ」

「……リッド君、あまり気分のいい話では……」

「それでも、何も知らないままはいやだ! 父ちゃんの名前を使って母ちゃんを苦しめたなんて許せない! どんなつもりか聞いてやるんだ!!」

「……そうか、そこまで言うのなら、もう止めないよ……ナミルさんもよろしいですか?」

「リッド…………アレスさん、親子揃って手間ばかりかけますが……よろしくお願いします」

「いえ、お気になさらず。では行きましょうか」


 こうして、事の真相を確かめるため、テグの家に向かうことになった。

 しっかし、ゲームでも登場した吸命の首飾りだけど、まさかここで出てくるとはね。

 ゲームの設定では、魔族が魔王復活のエネルギーを溜めるために製造・販売し、ある程度溜まったところを見計らって回収するって感じで、これを巡ってイベントが発生する。

 どうせテグ助も魔族に適当なこと言われて買わされたんだろうけど、どんな言葉に騙されたのやら……

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