第615話 大観衆の歓声の中を入場行進する

 朝食を終えたので、学園の敷地内に併設されている闘技場へ移動する。

 その道すがら……


「……魔力操作狂いだ」

「本戦では、どんな闘い方をするんだろう……?」

「さすがに、国王陛下がご覧になっている前で、ロイターとの決闘みたいなことはしないと思うが……」

「かといって、予選のときみたいなノンビリした闘い方もどうなんだ?」

「う~ん、あの人ならやりかねないかも……」


 ふむ、闘い方か……なるべくならレミリネ流剣術を前面に押し出していきたいところだ。

 そうすれば、レミリネ師匠の名を世に広めることができるだろうからね。

 まあ、それにはショボい結果で終わるわけにはいかない……故に、目指すは優勝!


「……ふむ、さすが本戦ともなると、気合の入りようが違うようだ」

「なんだよ、あの魔力圧……」

「今、お腹の底のほうにズン!! ってきた……」

「ち、ちょっと失礼するよ……」

「……あいつ、たぶんチビッたな?」

「ハハッ! そのようだね……さて、僕も少し用があるから……」

「……お前もか」


 なんて声も聞こえてくる中、男子の集団が俺のほうに向かってきた。

 その先頭にいるのは、ビムだ。

 また、その集団の顔ぶれを見てみると……予選で俺と対戦した見どころたっぷりな男たちだった。


「アレスさん、いよいよ本戦ですね……僕たちのぶんも頑張ってください!」


 そうしてみんな、口々に応援の言葉をくれた……これは嬉しい。


「諸君の激励に感謝する! あの一戦一戦の学びを力にして、俺は本戦を闘ってくるぞ!!」

「あの対戦がアレスさんの力となるのであれば、光栄です」

「ああ、とても心強い力となっている! そしてまた今度、模擬戦をやろうな!!」

「はい! そのときはよろしくお願いします!!」


 こうしてビムたちから応援を受けつつ、模擬戦の約束もついでにして別れた。

 その後は、特に足を止めることもなく進んだ。

 そして、本戦進出者が集合するよう指示されていた部屋に到着。

 ちなみに男女と学年が別々のため、それぞれ6つの部屋に分かれて集合となる。

 というわけで、この部屋には1年男子だけがいるってわけだね。


「来たか、アレス」

「おはようございます」

「ついにって感じだな!」

「フフッ、ここからはライバル同士ですねぇ?」

「ここまで来たんだ、あとはもう頑張るだけ!」

「……日頃の努力を全部出す」

「うむうむ、みんないい感じに燃えてるみたいだな? ま! 俺も負けないぐらいメラメラしてるけどな!!」


 まずはロイターたちのところに向かい、言葉を交わした。


「おっ、みんな早いね!」


 そんな感じで俺がロイターたちに言葉を返したところで、セテルタも到着。

 おそらく、今までエトアラ嬢と一緒だったのだろうね。

 そして「お互い頑張ろうね!」って声をかけあっていたに違いない……うぅむ、そのシーンを見たかったところだ。


「お前はいつもどおりだな……まあ、分かり切っていたことではあるが」

「アハハ……そうですね」

「だが! その余裕もここまでにしてやるぜ!!」

「まさしく、そのとおりですねぇ!」

「フゥ……まだ始まっていないんだ、リラックス、リラックス……」

「……」

「まずは開会式と組み合わせの抽選があるんだから、とりあえずそれまでは過度に緊張しないほうがいいね」

「ああ、まずは開会式と抽選だったな……フフッ、誰と当たるかねぇ?」


 そうこう話しているうちに、1年男子が全員集合した。

 そして集合時間になったところで、係の先生が来た。


「うむ、全員そろっているようだな……それでは、開会式の入場のため整列してもらう。名前を呼ぶから、その順番で並ぶように」


 開会式の入場行進か……なんか、前世のオリンピックとかスポーツ系のイベントを思い出しちゃうね。

 といいつつ、そこまで食い入るように見たって記憶もないから、なんとなくのイメージでしかないけど……

 そして整列の順番は、家格とか家の続いた長さなんかを基準として決めているのだろう、ロイターを先頭にして並んだ。

 ちなみに、家格が同じ侯爵家のセテルタは2番目で、俺は3番目だった。

 つまり、ソエラルタウト家よりもモッツケラス家のほうが伝統ある家ってわけだね。

 それはともかくとして、大観衆の歓声の中を入場行進する。

 なるほど……これは気分がアガるね。

 ロイターと決闘したとき雰囲気を既に体験したと思っていたけど、あのとき以上だ。

 なんというか、会場全体の興奮度がそれだけ高いって感じ。

 よっしゃ! これだけの人々の中でレミリネ流剣術を披露するのが楽しみになってきたぜ!!

 そして、入場してきた俺たち本選進出者たちは、観客席の国王陛下を中心とした貴族のお偉いさんたちを正面として整列。

 このとき、義母上やその後ろに控えているルッカさんの姿が目に入った。

 義母上の優しげな微笑み、とってもステキです。

 そしてルッカさんは、仕事柄お澄まし顔であるが、ほのかに表情が柔らかい。

 ……あと、「ザ・氷!」って感じの顔の男が、義母上の隣に座っているのも目に入ってしまった。

 そんな男の隣に座っていて、義母上……どうか風邪をひかぬようお気を付けください。

 とかなんとか考えているうちに、開会式はどんどん進んでいくのだった。

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