第304話 すぐにご用意いたします

 せっかく用意してくれた服を着ないのも悪いかなって気がしたので、一応ド派手な貴族仕様の服を着ることにした。

 そんなド派手な服で身を包み、風呂場から出たところで、ギドに声をかけられる。


「アレス様、アイスミルクコーヒーをご用意いたしました」

「お、おう、すまんね」


 前世の記憶を持つ俺がこっちに来てからというもの、風呂上りはいつもポーションだった。

 しかし、原作アレス君の記憶によれば、風呂上りはいつもアイスミルクコーヒーだったみたい。

 ただ、たまにフルーツミルクとか炭酸系のジュースにしろと急にゴネ始めて使用人を困らせるってこともあったみたいだけどさ。

 まあ、そんな感じで、ギドはいつもの習慣としてアイスミルクコーヒーを用意したという感じだろう。

 それに、前世でも風呂上りにはコーヒー牛乳って風潮があったからね、そういう意識が原作ゲームの制作陣にもあって、こっちの世界にも影響を与えているのだと思う。

 そんなことを思いつつ、まずは一口。

 うん……あま~い!

 いや、そうなんじゃないかなって、うすうすと感じてはいたけど、やっぱりだったか……

 とはいえ、味自体は美味しいからね、飲めなくはない……でもやっぱり甘い。


「ギドよ……最近俺は味覚が少し渋くなってきたのでな……次からはもう少し砂糖やミルクを控えてくれんか?」

「これは申し訳ありません。今後気を付けます」

「いや、味自体は美味いからな……別に怒っているわけじゃないんだ」

「アレス様のお心遣いに痛み入ります」

「そ、そうか……うむ」


 ちょ~っと大げさじゃね? って思わなくもないが、コレがアレス付きのスタンダードみたいだからね、ある程度は仕方あるまい。

 というのも、原作アレス君は気に入らないことがあればすぐキレる、暴れる、破壊する……しかも、あの巨体でだ。

 それはさぞ恐ろしかったことだろう。

 そんな感じで、原作アレス君の傲慢な振る舞いに耐え切れなくなった使用人は配置換えを希望するっていう流れだったみたい。

 ただし、その中でこのギドという男は、なかなかの根性者だったようだ。

 なぜなら、アレス付きになってから一度も配置換えをしていないみたいだからね。

 そんなわけで、ほかの奴が逃げまくったせいで、最終的にギドがアレス付きの最古参であり筆頭の地位に上り詰めたというわけだ……見た感じ、まだ若い奴なのにね。

 とまあ、そんな出来過ぎの奴……マヌケ族なんじゃないかって思うよね?

 でもなぁ、俺が今までに遭遇したマヌケ族ってさ、無駄にプライドだけは高かったし……原作アレス君の振る舞いに耐えられなかったんじゃないかって気もしなくもないんだよね。

 付け加えるなら、エリナ先生が始末したマヌケ族もそんな感じで人間族を見下してたらしいから、なおさらそんな気がするし。

 でもまあ、そんな印象だけでシロと断定するのもマズいだろうからね、コイツのことも注意しておこう。

 といいつつ、そんな危険人物の用意した飲み物を飲んじゃう俺……実にワイルド。

 とはいえ、俺の全身を巡る魔力を舐めないでもらいたいところ。

 危険なものが体内に侵入した場合は、即座に浄化や回復がかかるようにしてあるのだ……これも日頃の魔力操作の賜物というわけだね。

 フッ、やはり魔力操作は偉大なり!

 さぁ、みんなもレッツ! 魔力操作!!

 そんなことを考えつつ、アイスミルクコーヒーを飲み干した。


「おかわりは、いかがですか?」

「……うむ、いただこう」


 俺がというより、腹内アレス君がご所望だったからね。

 ちなみに、ギドの用意した飲み物に毒などの危険物質は混入されていなかった。

 まあ、殺しちゃうと魔王復活のためのエネルギーを奪えなくなっちゃうだろうからね、そもそもそんなにキツイものは入れられないんだとは思うけどね。

 そして、ギド以外にもアレス付きの使用人はいるみたいなので、その中にマヌケ族が潜んでいる可能性もある。

 そいつらに対しても、注意しておかねばならんだろう。

 なかなかにスリリングなかくれんぼ、果たして結果は!? って感じだね。

 ……いや、遊びじゃないんだけどね……ついついそういう軽口を叩きたくなっちゃう。

 それにしてもこの服……いろいろとうるさいんだよなぁ。

 テーブルに宝石が当たってコツコツいう音とか、光が反射してピカピカしているのもうっとうしいし……

 やっぱ、替えてもらおうかな?


「なあ、ギド……服なんだが、もう少しこう、シックで落ち着いた感じのものはないか?」

「これは失礼いたしました……すぐにご用意いたします」

「お、おう……すまんね」


 てっきり、「そんなものはねぇ!」ってなるかと思った。

 だってさ、原作アレス君の服だよ?

 そんな落ち着いたデザインのやつなんて、あるわけないって思うじゃん?

 でも用意できるとは……さすが侯爵家、その地位は伊達じゃないといったところか。

 もしくは、ギドがどんな要求にも応えられるよう、予め準備していたってことも考えられるな。

 フッ、ギドめ……なかなかやるじゃないか。

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