第303話 シャイン

「着替えはこちらにご用意しておきます。それでは、ごゆっくりどうぞ」

「おう、頼んだ」


 そんな感じで、ギドと軽く言葉を交わし、いざお風呂へ!

 そして風呂についてだけど、原作アレス君の記憶によれば、ソエラルタウト家の屋敷にもなかなか立派な大浴場がある。

 そっちに浸かりに行くのもアリっちゃアリなんだけど、今はアレス君の部屋に備え付けられている風呂にした。

 まあ、そっちまで移動するのが面倒っていうのもあるからね。

 ちなみにアレス君の部屋だけど、家族の中でひとりだけメッチャ離れたところに追いやられている。

 フッ……アレスとは孤独を知る者の名というわけさ。

 これは当然、クソ親父が決めた配置だ。

 とはいえ原作アレス君としても、あんなクソ親父の近くで生活しないほうが精神的に楽だったかもしれないけどね。

 ただ、必然的に義母上とも部屋が離れてしまうのが切ないところ。

 それと、兄上も幼少の頃はクソ親父たちの近くで暮らしていたみたいだけど、結婚を機に部屋を移動して義姉上とイチャイチャ空間を構築しているみたい。

 そこで、イチャイチャつながりで思ったんだけどさ、少しでも早く兄上夫婦が子宝に恵まれることを祈らずにはいられないよね。

 というのもルッカさんたちによれば、実は兄上もそんなに次期侯爵の地位に執着してないって話でしょ?

 そして、いうまでもなく俺も継ぎたくない……

 となれば、兄上の子供に期待って感じになるじゃん?

 いやまあ、その子も継ぎたくないってなったら、どうしょうもないけどさ。

 とはいえ、兄上自身がどこまで次期侯爵として妥協的な覚悟を決めているかも分かんないから、ここで俺がウダウダ考えても無駄かもしれないけどね。

 ただ、いずれにせよ子供が早いとこ生まれるにこしたことはないんじゃないかなって思うんだ。

 ……あとで兄上に「これを飲んで頑張ってください!」ってポーションを差し入れてみようか?

 う~ん、俺の意図が伝わらず、下手したら次期侯爵への嫌味かと思われちゃうかな?

 というか、そもそも兄上と原作アレス君って、クソ親父の意向もあって接点も少なく、当たり障りのないめっちゃうっすい関係性だったみたいだからなぁ。

 たぶん、そういうふざけたノリも伝わらないかもしれない……

 ああ、でも、さっきの兄上の態度って、こちら側に歩み寄ろうとしてたように感じるよな。

 特に俺の「ご当主」発言をたしなめてきたところとか、割と踏み込んできたなって気がするし。

 そんなふうに考えれば、もしかしてオッケーかも?

 よし、ここはひとまず観察を密にして様子を見る……そしてイケそうだと判断したらレッツでゴーだ!

 ……そういえば、兄上ってアレス君の6歳年上なんだっけ。

 するとアレス君が13歳だから、兄上は19歳ということになる……それって前世の俺と同い年ってことじゃん?

 おお! なんか、急に親近感が湧いてきたな!!

 よし、イケそうだってなったら、すんごいフレンドリーボーイでいこう!

 兄上……俺たち、思ったより上手くやっていけそうだね!!

 ああ、そうなると義姉上が嫉妬しちゃうかな?

 こう、「アレスとかいう弟面したクソガキが、私のセスに馴れ馴れしいんですけど」みたいな?

 いやまあ、弟面も何も、異母兄弟だから血はつながっているんだけどね……つながっているのがクソ親父の血というのは気に入らんが……

 とまあ、冗談はさておき……先ほどの様子から義姉上も、俺に対する嫌悪感がなさそうだったので一安心だ。

 ただ、義姉上は兄上の1歳年下って話だからなぁ……俺の感覚的にお姉さんには少し足りないって感じなんだよね。

 だからといって、小娘扱いするつもりもないけどさ。

 でも……せっかくの義姉上なのに、ちょっと残念っていうのが正直なところなんだよなぁ。

 それから、出迎えでズラリと勢ぞろいしていた使用人たちだけど……

 俺が馬車から出てきた瞬間は、やはりというべきか、俺の体型の変化に驚いていたみたい。

 なんか軽く固まっていたし。

 まあ、それはルッカさんたちも似たような感じだったから、割と普通の反応といえるかもしれない。

 ……あれ、そういや義母上はまったくといっていいほど驚いた様子がなかったな。

 兄上でさえ使用人たちと同じように「……!」って反応だったのにさ。

 義母上はなんの躊躇もなく俺のことをアレスと判断してたっぽいのが、今にして思えば不思議ではある。

 その辺のところ、機会があったら聞いてみようかな?

 そんで、ちょっと脱線したけど……俺が義母上と熱い抱擁を交わしていたとき、ヒリヒリとした雰囲気を出していた使用人がいた。

 加えてその使用人たちは、さっきも少し触れたように俺の「ご当主」発言にもピキッってなってた。

 そうした反応からおそらく、ソイツらはクソ親父派ってことなんだろう。

 そのため、基本的にソイツらは俺の敵となり得る存在として認識しておいたほうが無難な気がする。

 それ以外だと、特に思うところはありませんって感じの人、俺がどの程度の奴か見定めようって感じの人、そして俺に興味アリって感じの人っていうのがだいたいのパターンだったかな。

 まあ、パッと見の印象で雑に分類しただけだから、割と適当だけどそんなにハズレてはいないと思う。

 ……そして、その中の誰かがマヌケ族ってわけだ。

 フッ、これはさしずめ「異世界かくれんぼ・イン・ソエラルタウト家」ってところかな?

 さてさて、マヌケ族ちゃんはどこかな~?

 なんてことをツラツラ考えながら、のんびりお風呂タイムを楽しんでいたのだった。

 まあ、夕食まで時間もあるからね、義母上や使用人のお姉さんたちに恥ずかしくないよう「シャイン・アレス」に磨きをかけるのさ!


「じゃあ、そろそろ上がろうか」


 そして風呂から上がり、着替えようとしたところ……


「これを着るのか……」


 思いっきり原作アレス君のセンスで選ばれたであろう、ジャラジャラと宝石とかが散りばめられたド派手な貴族仕様の服が置いてあった。

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