第302話 感謝の念を込めて返事をする

「さて、挨拶も済んだことだし、僕らは仕事に戻るとするよ」

「お忙しい中お出迎え頂き、ありがとうございます」

「いやいや、兄弟なんだからそれぐらい当然のことだよ。それじゃあ、久しぶりの実家だ、ゆっくりとくつろぐんだよ」

「またね、アレス君」

「はい、それではまた」


 こうして兄上と義姉上は仕事に戻っていった。

 ふむ、次期侯爵として兄上は業務を代行することで経験を積み、義姉上はそのサポートをしているといった感じかな。

 お2人とも……俺が将来冒険者として自由を謳歌するためにも、しっかり頑張ってくださいませ!


「アレスも帰って来たばかりだし、休憩も必要よね」

「ええ、そうですね」


 まあ、別に体力的には問題ないんだけど、ちょいと人心地つきたいって感じはするかな。


「じゃあ、ひとまずゆっくり休んで、夕食のときまたおしゃべりしましょうね」

「はい、喜んで!」


 これにより俺の出迎えに勢ぞろいしていた人たちは解散し、それぞれもとの業務へ戻ることに。


「アレス様、私もリューネ様のところへ戻ることとします」

「私もね、馬車の手入れとね、馬の世話をするんだよね」

「ああ、此度の我々の護衛任務もここまでというわけか」

「そうなんですよね……あっという間でした」

「なんだか、寂しくなっちゃうっすね」


 そうなのだ、これで3週間に渡るお姉さんたちとの幸せ旅も終わりとなる。

 ああ、楽しかったなぁ……

 大人の魅力たっぷりにときどきドキドキするような言動で振り回されたりとかいろいろあったけど、それもいい思い出。

 ああ、切ないなぁ……


「でもでも~アレス様がお屋敷にいるあいだは~私たちが時間を見つけて会いに行くこともできますよね~?」

「おう、そうだな! 訓練や模擬戦もまたやろうぜ!」

「ふふっ、また一緒に……魔力交流しましょうねぇ?」


 ホントに? 仕事とか関係なく、俺に会いに来てくれるの!?

 やったぁ! そんなふうに思ってくれるだなんて、すっごく嬉しいよ!!

 俺のお姉さん運のよさに感謝を捧げよう! これもきっと、転生神のお姉さんの加護に違いないだろうし!!


「はいっ! こちらこそ、ぜひともお願いします!!」


 そんな感謝の念を込めて返事をする。


「それではアレス様、これにて失礼いたします」

「この3週間、大変お世話になり、ありがとうございます! みなさんと過ごした楽しい時間のことは決して忘れません!!」


 そう挨拶を交わし、お姉さんたちもそれぞれの業務へ戻っていく。

 ああ、これで本当に終わったんだな……

 ……よし! 感傷に浸るのもここまで!!

 それじゃあ、俺も部屋に戻るとしますかね。

 そして俺も部屋へ向けて歩き始めようとしたところで、最後まで俺の傍にいたソエラルタウト家の使用人に声をかけられる。


「お供します、アレス様」


 えっと、コイツは……原作アレス君の記憶を辿ると、アレス付きの使用人のようだ。

 屋敷内で、原作アレス君の身の回りの世話をしており、名前をギドというらしい。

 そして、名前で察しがついたかもしれないけど……男だ。

 なんというか……これは俺の勝手な偏見かもしれないけど、異世界あるある的にこのポジションはメイドが担当するものなんじゃないの?

 そう、お姉さん感抜群のね!

 といいつつ、主人公とあんまり年齢の変わらない幼馴染みたいなメイドとかも結構いたっけか。

 まあ、その辺はいいや。

 というわけで、ギドとかいう使用人には適当に返事をして部屋に移動しよう。


「ふむ、そうか」


 こんな感じで、本当に適当に返事をして部屋へ向かう。

 まあ、部屋までの道順なんかは原作アレス君の記憶にバッチリあるので、なんの心配もない。

 しかしながら、こう記憶自体はあっても、それは前世から続く俺自身の記憶ではないだけに、知っているのに知らない家っていう感じがして、なんか不思議な感覚がしちゃうね。

 それから、やはり侯爵家というべきか、屋敷も物凄くデッカイし、部屋もたくさんある。

 それに、壁に掛かっている絵画とかその辺に飾っている壺や彫刻といった美術品たちも、すんごい高いんだろうなぁって思う。

 まあ、悪役の幼少期としてありがちな描写というべきか、原作アレス君の記憶にそれらを破壊した記憶もシッカリと存在するんだけどね。

 これについては「あちゃ~やっちまったね……」って感じがして擁護不能ではある。

 とはいえ、本当に駄目にされて困るものなんかは、宝物庫みたいなところで厳重に保管されているんだろうけどさ。

 とまあ、そうこういっているうちに、部屋に到着した。

 ちなみに、この間ギドに荷物持ちとかはさせていない。

 そもそも、持ってもらわないといけないような荷物もなかったんだけどね。

 ああ、マジックバッグはさ、他人に触らせるようなものじゃないと思うんだ。

 一応、盗難対策のため所有者にしか使えないみたいな魔法的処理も施されているみたいだけど、それも絶対とはいえないだろうし。

 それに、俺のマジックバッグの中には、まあまあヤベェものが入っていると思うからね、なおさらさ。


「それじゃあ、ひとまずシャワーを浴びてくる」

「承知しました」


 まあね、習慣だからさ、仕方ないよね。

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