第344話 思ったより前のめり
俺の作り出した一面の銀世界は、ウィンタースポーツをメインとした兄上のレジャー施設構想へと変貌を遂げた。
「いやぁ~ウチってさ、そもそもが武力によって成り上がった家でしょ?」
「……そのようですね」
まあ、伯爵から侯爵に陞爵したのは、母上との婚姻が理由みたいだけどね。
ただし、それは名誉的な意味合いのほうが強い。
というのが、ソエラルタウト家が伯爵だった時点で他の侯爵家に匹敵する程度には力を持っていたからなんだ。
でも、この王国の基本としてそっからが大変でね……
中央の古くから続く伝統派貴族が大反対をして、それ以上の陞爵をなかなか許してくれないのさ。
そのため、例えば実際に力のあるファティマの実家も「実質辺境伯」とかウワサされるように、伯爵止まりだったりする。
もちろん、そういう名誉的野心の薄い伯爵家もあると思う……相応に責任も増えるわけだからね。
それに、最初から諦めてる家とかもあるだろう。
そんな中で侯爵へ到達するには、政治的に上手く立ち回って後押ししてもらうか、誰も文句がいえないぐらいの圧倒的な功績を打ち立てるしかないって感じだろうか。
そこで、ソエラルタウト家の場合は結果的に前者になったわけだが、親父殿としては後者で陞爵を目指したかったのだろうね。
「そんなわけで、軍事力については問題ないと思うんだ。そして、王都への主要街道をウチで抑えているのもあって、経済力もなかなかなはず」
「はい、金銭的に不自由した覚えはないですね」
……母上を失って以降の原作アレス君は「愛はないが、金はある」みたいな状態だったからね。
まあ、だからこそ俺も学園生活を裕福に過ごせていたともいえるだろう。
特に冒険者を始めた頃にそろえた装備のよさがそれを物語っているんじゃないかな?
とはいえ、今は冒険者活動による稼ぎもあるので、その重要性は相対的に低下したともいえるが……
「ただ、ウチ……というかソエラルタウト領全体がどうにも文化的な側面が弱い気がずっとしていてね……僕自身そういった方面に強くないのもあってさ、余計に気になってたんだよね」
「なるほど、そうでしたか……」
まあ、美術品の購入とか、金をかけるだけでごまかせる部分もあるのだろうが、領全体ともなるとな……
「そこで! アレスの用意してくれたこの豊富な雪によるウィンタースポーツの振興、これだっ!!」
「は、はぁ……」
「これでウチも文化力を高められる! やったね!!」
「お、おめでとう……ございます……?」
あれ……ルッカさんの話では、兄上って家を継がずに宮廷騎士になりたかったんじゃなかったっけ?
なんか、思ったより前のめりな感じがするんだけど……
「……アレス様、環境が人を変えるということもありますよ。私もそうであったように……」
俺が兄上に若干不思議そうな顔を向けており、その理由をギドは察したのか……小声でそう告げてきた。
……いや、察し過ぎな気もしなくはないけどさ。
でもまあ、そうか……次期侯爵として教育を施され、今は実際に領地経営にも携わっているのだからな、自然と領主としての意識が芽生えてきてもおかしくはないか。
もし仮に、宮廷騎士への想いが心の底にあったとしてもね……
なんにせよ、この傾向は俺としても歓迎するところだ。
是非とも兄上には、このままソエラルタウト家にこの人ありと謳われるような立派な領主として歴史に名を残してもらいたいところだ。
あ、でも、ちょっと待てよ……
「兄上……先ほどソエラルタウト領は文化的側面に弱いとおっしゃいましたよね?」
「うん、いったよ?」
「であるならば、レジャー施設の経営などできるのですか? 下手をすれば大赤字を出して失敗しかねませんよ?」
前世でも、遊園地やテーマパークなどが経営悪化による閉園……なんてことが日本全国であったと聞いた記憶がある。
もちろん俺も、家族で昔行ったテーマパークがいつの間にか閉園していたってことがあって、それをあとから知って切なく思ったものだ。
また、オリンピック施設が負の遺産化したなんて話も耳にしたことがある。
だからこそ、レジャー施設を素人がやっても大丈夫なの? って思わなくもない。
「……確かにね、アレスの心配はもっともだ……しかしながら、僕のハニーを誰だと思っているんだい?」
「……マイネ義姉上ですよね? ……ってそうか! 義姉上は文系貴族出身なこともあって、経営能力にも優れているんでしたっけ!?」
「そう、そのとおりさ……そしてマイネ自身も優秀だが、人材を見抜く目も確かだからね……レジャー施設の経営に最適な人材を推挙してくれるはずだよ」
「なるほど、それなら安心かもしれませんね」
「だろう?」
「……それにしても、兄上自身の手で経営しようとは思わないんですか?」
「フフフ……僕自身の経営能力などたかが知れているからね、最適な人材がいるのなら任せるさ……それに、単純にそこまで手も回らないだろうし」
「……そうですか」
この辺、自分でやりたがった親父殿とは違うんだなぁって感じがした。
むしろ、その背中を見ているからこそなのかもしれないが……
「まあ、当然のことながら、アレスにもしっかりと手伝ってもらうし、学園に行っているあいだはアレスの専属使用人たちに一番頑張ってもらうことになるだろうね」
「……だってよ、ギド?」
「かしこまりました、ご期待に沿えるよう精いっぱい努力いたします」
「うん、よろしくね……よし、それじゃあ屋敷に戻ろうか……母上も心配して待っていることだろうし」
「そうですね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます