第345話 それはそれで
屋敷に戻る前、少しでも雪や氷が解けてしまわないよう防壁魔法で覆った。
さすがに今回は、規模的に防壁と呼んでいいかなって感じ。
また、今のところレジャー施設構想という方向性が決まっただけなので、地属性などの物理的な壁で覆うことはしなかった。
下手に物理的な壁で覆ってしまうと、あとからいじくるときに壁の残骸を撤去するのが面倒になるからね……
そこで今回のように魔力的な壁なら、つぶしたあとは魔素となって空気中に還元されていくので残骸問題も気にしなくていいってわけさ。
フフフ、やっててよかった壁系統の魔法の練習といったところかな?
というわけで、そろそろ屋敷に向けて出発である。
このとき、兄上や領兵たちは来たときと同じように馬に乗り、俺とギドはウィンドボードに乗って帰る。
そしてこのウィンドボードだけど、最初はちょっと狭くなるけどギドと二人乗りになるかなって思っていた。
しかしながら、ギドもあらかじめ自分用のウィンドボードを用意していたというね。
なんというか、さすが筆頭……とでもいえばいいのかな?
といいつつ、独自のネットワークで俺がウィンドボードを使っていたことも把握していた可能性はあるか。
別に俺も隠してたわけじゃないしさ。
そんなことを思いつつ屋敷に向かって進んでいるとき、兄上から話しかけられた。
「それにしても、あれは見事な防壁魔法だったねぇ……それだけでも、各地の領主たちがアレスのことを欲しいって思うだろうなぁ」
「まあ、都市防衛などにはうってつけでしょうからね」
「本当にそう! 僕も父上に代わって領地経営をしていると特にそう思うよ……仕事柄、モンスターに襲われた他領の街や村の情報とかも送られてきたりするからね……」
「なるほど……であるならば、壁系統の魔法の訓練も重要ですね」
「だね……そしてここにアレスという素晴らしい手本がいるのだから、今のうちに領兵たちに見習うよういっておこうかな」
「手本だなんて、お恥ずかしい限りです……とはいえ、魔法は魔力とイメージが占める要素が大きいので、結局は魔力操作の練習をどれだけ積んだか、という話になってしまうのでしょうね」
「アレスのいうとおりだね……でも、そのイメージって部分で、アレスの魔法を見て学ぶことはとっても役に立つだろう」
「兄上にそういってもらえると、自信になります」
「………………僕もアレスを見習って氷系統の魔法をもっと頑張んないとだなぁ」
最後は誰にいうでもなし、兄上は独り言を小さく零したのだった。
もちろん、地獄耳のアレス君には聞こえてるんだけどね……聞こえなかったフリをするけどさ。
しかしながら、こんなことを呟くってことは……よく知らんけど、兄上って氷系統の魔法が苦手なのかな?
親父殿は得意なのに?
加えて、アレス君も得意なのに!?
まあ、兄上のことだから使えないってこともないのだろうけど、「並」って感じなんだろうなぁ。
というか、その辺も親父殿のイラつきポイントだったのかもしれんね……
きっと「よりにもよって、なんでコイツが……」って親父殿は忌々しく思っていたことだろう。
なんか、いろいろ聞いてるとこの世界って、地味に親父殿の精神をチクチクするのが好きなのかなって思っちゃうね。
今回だって、心底嫌っている子供がソエラルタウト領の文化的発展のきっかけになろうとしているわけだし。
それも氷系統の魔法を使ってね!
……って、その親父殿の許可なく、こんなプロジェクトを計画していいのか!?
「そういえば兄上……親父殿の許しもなく、勝手にレジャー施設を中心とした避暑地などを形成してよいものなのですか?」
「フフフ、アレスもなかなか律儀だねぇ……でも、それぐらいの権限は持たせてもらっているから、安心していいよ」
「それは……『それぐらい』といえるレベルなのですか?」
「うん、領主代理に任命されたとき『将来を見据えて、自分の思うとおりに領地を栄えさせてみろ』っていってたからね、領地経営に関してはかなり自由が利くんだよ」
「そ、そうなのですか……」
う~ん、言葉の上ではそうなんだろうけど、親父殿の想定の中には俺の関わりっていうのは一切ないんだろうなぁ……
なんてことが容易に想像できる。
それは兄上も同じだろうに……なんて思いながら視線を向けてみると、兄上は少しばかりいたずらっ子のような笑みを浮かべた。
あ、コイツ、分かっててやりやがったな!
原作アレス君の記憶に加えて、俺がソエラルタウト領に帰省してきた当初の印象では、穏やかな性格のイケメンなんだろうなぁって感じだった。
しかしながら、この感じからして、意外とワルガキなのかもしれん。
なんて奴だよ、まったく!
さらに仲良くなれそうだって思っちゃうじゃないか!!
これは、フレンドリーボーイ計画を本格的に実行に移していいのかもしれんね。
フフフ、これは義姉上の嫉妬を頂戴しちゃうかなぁ~?
とまあ、そんな感じで楽しいひとときを過ごしながら屋敷へ帰ってきた。
ただ、そんな楽しい気分もそこまでだった……
なぜなら、屋敷の玄関前で、義母上が怒ってますという表情で立っていたからだ。
でもさ……怒った義母上の顔も、それはそれでカワイイなって思ってしまうんだよね……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます