第346話 気持ち

 そこまで飛ばしていなかったということもあり、約1時間ほどで屋敷に到着した。

 そして屋敷に到着したとき、義母上の怒った顔もカワイイだなんてとんちんかんなことも一瞬考えてしまったが……

 そんな浮ついた気持ちも落ち着けなければなるまい。


「アレス、私は怒っています……ですが、先にあなたの釈明を聞きます」

「恐れながら、リューネ様……」

「ギド……私は今、アレスと話をしています」

「失礼いたしました……」

「それで、どうなのですか?」

「……はい、なんとなく気分的に少しザワザワしており、魔法のひとつでも思い切り放てばスッキリするかと思い、外を出歩きました」

「そう……確かに、少し前に重い話もしました……だから、そうしたことが影響して心のバランスを崩すこともあるでしょうし、昨日のあなたの様子からもそれは感じていました……そうでありながら、様子を見るにとどめた私にも落ち度はあります」

「いえ! そんなことはありません!!」


 義母上は、先日の話によって俺のメンタルがやられたと思っているっぽい。

 タイミング的にそう思ってしまっても仕方ないが、これはマズいな……


「本当にそれとは関係なく、ただ単純に軽率な行動を取っただけなのです!」

「……分かりました。あなたがそこまでいうのなら、そういうことにしておきましょう……ですが、あなたのその行動で周りがどれだけ心配したか分かりますか?」

「はい、申し訳ありません」

「おそらく……今のあなたを害することができる存在など、そう多くはないでしょう……そうであっても、心配というものはしてしまうものなのです……そこのところをよく理解して、これからの行動を考えるように……分かりましたか?」

「はい、猛省します」

「……本当に、分かった?」

「……はい」

「分かればいいのよ、これからは出かけるとき一声かけてね?」

「はい! 必ず!!」

「うん……それじゃあ気を取り直して、お帰りなさい、アレス」

「ただいま、義母上」


 義母上に敬語調で話されると、ちょっとキツかった……

 でも、最後はいつもの調子に戻ってくれてホッとした……

 次からは気を付けなくちゃだな。


「それから、屋敷のみんなも心配していたんだからね?」


 その言葉により周囲を見渡してみると、出迎えに集まっていたみんなが一様に頷いている。


「……みんなも、心配をかけてすまなかった!」


 そうして屋敷のみんなの安心した表情を見て、やはりここは実家なのだと思った。

 もう、原作アレス君の記憶にあるような、寂しいばかりの場所ではないのだ。


「それから、アレスの専属使用人の子たちは特に心配していたのだから、部屋に戻ったら改めて謝っておくのよ?」

「はい」

「よし、それじゃあ朝食にしよっか?」

「はい、喜んで!」


 こうして義母上による説教が終わり、食堂に移動して朝食である。

 また、兄上がそこでレジャー施設構想を義母上に語り始めた。


「そう、一面の雪景色ね……」

「そうなんだよ、あれにはなかなか驚かされたなぁ……母上もあとで見てきたらいいよ」

「ふふっ……リリアン様を思い出すわね……」


 そういいながら、義母上はどこか遠くを見るような目をしている。

 おそらく、在りし日の母上の姿を思い浮かべているのだろう。

 それを察してか、兄上もいったん言葉を控える。

 そういえば俺も、ギドに刻み付けられていた自滅魔法の解除を母上に協力してもらったんだった。

 あとでお礼も兼ねて、お墓参りに行こうかな。

 場所は原作アレス君の記憶にバッチリあることだし。

 ……さすがに、ここまでは記憶にロックがかかってなくてよかった。


「……あらあら、私ったらごめんなさい」

「いや、僕もリリアン義母上のことを思い出したからねぇ……気持ちは同じだよ」

「……同じ? セスったら随分と知ったふうなことをいうのねぇ?」

「あ、しまった……」


 兄上にも悪気はなかったのだろうし、事実として同じ気持ちではあったのだろう。

 だが、おそらく言葉のチョイスを間違ったのだろうな……

 何気に義母上は、リリアンガチ勢みたいだからね……「お前ごときの熱量と一緒にすんな!」みたいな感覚なんじゃないかな。

 俺も前世では、アイドル好きの鈴木君に似たような場面で軽はずみに「分かるよ」って口走ってしまい、「君は何を分かっているのか?」って静かにキレられた記憶があるからね。

 そんな感じで、共感の言葉っていうのは地味に繊細なところがあって難しいんだよな……


「母上! 僕が浅はかでした、お許しくださいっ!!」

「……いえ、いいのですよ?」


 また敬語調……こりゃ兄上のレジャー施設構想も実行に移す前に頓挫かね?


「アレスからもなんかいってぇ……」

「えっと、義母上……ここは『にわか』への度量を示すところでは?」


 鈴木君なら、基本これで収まった……果たして義母上は!?


「……そうね、私もちょっと大人げなかったわ」

「………………助かった」


 おお、なんとか丸く収まったみたいだ……これも前世知識といったところかな?

 ただ、義母上の前で、母上について軽はずみな物言いをするのは避けたほうがよさそうだ……

 まあ、今日に関しては、俺が心配かけたのも影響してるのだろうけどね。

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