第347話 いい機会だから
兄上のレジャー施設構想の説明がひととおり終わった。
「なるほど……でも、その規模の雪や氷を用意するには、定期的にアレスに帰ってきてもらわないといけないでしょうね」
「そうだね、維持をする程度ならどうにかなるけど、あれだけの量となるとなかなかね……とりあえず、ウチの魔法士だけで賄い切れるようになるまで訓練をしなきゃだから、アレスには数年……少なくとも学生のあいだは長期休みのたびに帰ってきてもらいたいね」
そういいながら、2人はこちらに顔を向けてくる。
義母上は期待のこもった表情で、兄上は朗らかな表情で。
そうか、兄上は俺が定期的に帰ってくる理由も作ろうとしていたのか……
そして「学生のあいだ」といったのも、卒業後の進路希望へ配慮もしてくれているのだろう。
これはなかなか嬉しいものだね。
よし、そんな気持ちに応えないわけにもいくまい!
「分かりました……なんらかの急用が入って帰れない場合を除けば、できるだけ帰ってくるようにします」
「ええ! ええ! それがいいわ!!」
「ありがとう、アレスならそういってくれると思ったよ」
「でもセス……アレス君にばかり頼っては駄目よ? あなただって、氷系統の魔法を使えないわけじゃないのだから……」
「マイネちゃんのいうとおりね、リリアン様みたいには無理でしょうけど……ソレス程度には使えるようになってもらいたいところだわ」
「うん、分かっているよ。いい機会だから、僕も練習するつもりさ……それにしても母上、学生時代に『氷の貴公子』と呼ばれていた父上を『程度』呼ばわりはちょっとカワイソウなんじゃない? 僕が王国騎士団に所属していた頃なんて、上官たちから『君のお父上の氷魔法は実に凄まじかった……』ってしみじみ語られることも結構あったんだよ?」
ああ、やっぱり兄上は氷系統の魔法がそこまで得意じゃないんだね。
そして親父殿も、いくらかお世辞はあったかもしれないが、それでも凄いって語られるぐらいには確かな実力があるのだろう。
でも、比べる相手が悪いって感じなんだろうなぁ……
加えて、義母上と親父殿は幼馴染だったというのだから、それ特有の気安さもあるかもしれない。
「ソレスの氷魔法が凄いことぐらい知ってるわよ。でも、頑張ればあれぐらいセスにだってできると思ってるし、ソレスも期待しているはずよ」
「セス、私も信じているわ」
「兄上! 魔力操作ですよっ!!」
「アハハ……ガンバリマス……」
こうして朝食は、最終的に兄上へ激励の時間となって終わったのだった。
そして、部屋に戻ろうかといったところで義母上に呼び止められた。
「アレス、あなたは一晩中起きていたのでしょう? ポーションを飲めば大丈夫とか思ってるかもしれないけど、少しぐらいは寝ておくのよ?」
「はい、部屋に戻ったら寝ることにします」
「それがいいわ……それと、使用人の子たちにも声をかけてあげるのよ?」
「はい、もちろんです」
「それじゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい」
まあね、体力的に問題がないとは思うんだけど、寝るのってそれだけの意味じゃないらしいからね……
そして使用人たちにも、悪いことをしたもんなぁ……
そう思いつつ部屋に到着し、集まっていた使用人の面々にお詫びの言葉を述べる。
「みんな、黙って外を出歩き……そして、心配をかけてすまなかったな」
「いえ、アレス様が無事ならそれでよいのです」
「アレス様に何事もなく、安心しました!」
「私は……リューネ様に止められなければ、飛び出していたところだった」
「アレス様、アタイたちはまだまだ頼りないかもしんない……でも、これからもっと努力して、信頼されるように頑張っから、待っててくれよな!」
「そうそっ! ウチらなしじゃいられないっ! ってカンジにしてあげっから、覚悟しといてネ!!」
「ああ、そうだな……期待しているよ」
図らずも今回のことは、アレス付きの使用人たちのやる気を刺激したようだ。
どんな成長を遂げるのか、期待が高まるね。
俺も負けないように頑張らなきゃだな。
「しっかしギド、お前がついていながら何やってんだよ?」
「ちょ~っとたるんでたんじゃない?」
「いやはや、面目ないですね」
「そのような調子が続くようなら、筆頭の地位を降りてもらわんとな!」
「へへっ、いつでも代わってやるから、限界を感じたらスグいうんだぞ? いや、今でも構わないけどなっ!」
「いや、今回は俺の勝手でこうなったのだ、あまりギドを責めないでやってくれ」
「も~アレス様はギドに甘過ぎますよ~」
「……クッ、私がもっと早く生まれていれば、もっと早くアレス様付きになれたかもしれないのにっ!」
う~ん、たぶん新人だからそう思うんだろうけど……俺という転生アレス成分のないアレス君はもうちょっと尖がってたからね……その場合は付いていけなかったかもよ?
「あいにく、私はアレス様付き筆頭を譲る気はありませんので、そのおつもりで」
「ふぅん? 今回みたいなヘマをしといて、面白れぇ!」
「全力で獲りにいくぞッl」
「よっしゃ! 誰が筆頭に相応しいか、これからじっくり見せてやるぜ!」
なんか、使用人同士でバチバチとライバル意識が燃え上がっているようだね。
まあ、それでより成長が加速するなら、それもよかろうなのだ!
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