第348話 お前はどうするつもりだったんだ?

「おやすみなさい、アレス様!」

「ああ、おやすみ」


 俺の部屋に集まっていた使用人たちが部屋を出ていく。

 そしてギドが最後に残ったところで、質問をひとつ投げかけられた。


「アレス様……私が魔族であることをリューネ様たちにお伝えしなくてよろしいのですか?」

「ああ、義母上たちを信用していないわけではないが……こういうことは知っている人数が少ないほうがいいと思うからな、この家でお前が魔族であることを知っているのは俺だけということにする」

「そうですか」

「というか、ソエラルタウト家に紛れ込んでいる魔族というのはお前だけか?」

「はい、そのはずです……と申しますのも、私たちは基本的に単独行動を好みますのでね。そのため、ほかの貴族家に潜入している者も特別な事情がない限りひとりと考えて問題ないと思います」


 まあ、俺が今まで遭遇したマヌケ族もみんなひとりだったからな、そんなもんなのかもしれん。


「なるほど、それならあとはお前の上役とやらにバレなければいいというわけか……上手いことやれよ?」

「心得ております」


 といいつつ、ギドが魔族だったって話も、あのうさんくさい導き手から聞いた話だからなぁ……


「まあ、いつバレてもいいように、しっかり鍛えておくしかないな!」

「そのためには、魔力操作! ですね」

「ああ、そのとおりだ!」


 ここでふと気になったのだが……義母上やギドは俺の転生に関係なく、原作アレス君を大切に思っていたはず。

 それなのに、原作ゲームで追放されたときは特に動いた様子もなかった……なぜだ?


「……そういえば、魔族の計画どおり俺が追放されたら、お前はどうするつもりだったんだ?」

「そうですね……追放されたら、というより前に、貴族の子女が学園で問題を起こした場合、まずは実家に戻されて謹慎、それから追放処分という流れでしたので、アレス様がソエラルタウト家に戻ってきたところで、リューネ様にアレス様が魔族に狙われていることを明かして、あとをお頼みするつもりでした……おそらくリューネ様のことなので、ご実家のライントメイント伯爵家で秘密裏に匿われたか、そうでなくともどうにかなされたはずです……他人任せというのが情けないところですが……」

「……待て、実家に戻されて謹慎だと?」

「ええ、それが基本的な流れですし、魔族に伝わるこれまでの事例もみなそうなっておりましたが、それが何か?」

「なるほどね……そういうことか……」

「……?」


 確か、原作ゲームでは学園で問題を起こしたあと、実家に戻されることなく追放処分がクソ親父から下されていたっけ……

 そうか、クソ親父のためらいのなさが、ギドのもくろみを駄目にしたというわけか……

 そして義母上が知る前に原作アレス君はマヌケ族に取り込まれてしまった……だから追放を止めるような動きも原作ゲームでしていなかった、というかできなかったんだな……

 マジでなんてことしてくれたんだよ!

 とはいえ、マヌケ族から原作アレス君を隠し切れたかどうかってところは未知数ではある。

 でも、少なくともそういう動きにはなってたはずなんだなぁ……

 まあ、この辺は原作ゲームの制作陣が描いたストーリーによる強制でもあるわけだから、仕方ないともいえるけど……やっぱクソ親父はクソ親父だな!!

 ……っと、いかんいかん、親父殿と呼ぶんだった。


「……結局のところ、どうあってもお前は死ぬつもりだったということか」

「そういうことになりますね……しかし、その暗い未来もアレス様が明るく変えてくださいましたし……アレス様の学園での活躍を耳にするたび、もしかしたら問題を起こさず過ごされるかもしれないという期待もしていましたよ」

「……うん? 俺が問題を起こさなかったらどうなるんだ?」

「その場合は、計画失敗により私が魔族の中で無能扱いされるといったところでしょうか……ああ、でも、アレス様は特別中の特別ですから、ほかの魔族が諦めきれずに何度かちょっかいをかけようとしたかもしれませんね……とはいえ、既にふたりもアレス様にやられていますし、なるべく関わらないようにしようと上層部が考える可能性もありますね」

「ということは、これまでにも魔族たちが陥れようとしたけど、道を踏み外さなかった奴がいたということか?」

「ええ、いくらでも……というのは言い過ぎかもしれませんが、いましたよ」

「なんと……」

「まあ、私たちの企てが露見することのほうが問題でしたのでね……あまり無理はできなかったというわけです」

「ふむ……だが、もう魔族たちの暗躍も王国に知られてしまったぞ? これからはどうなるんだ?」

「そうですね……そこまで私も詳しく教えられていないので確かなことはいえませんが……慎重を期すためほとぼりが冷めるまで10年でも20年でも行動を控えるか、多少雑でも急いで事を進めるか……今頃は上層部で熱い議論が交わされているのだろうと思います……それで結論が出るまでのあいだはとりあえずの現状維持といったところでしょうか」

「なんか、それだと永遠に答えがまとまらなさそうだな」

「フフフ、そうかもしれません……そのため、先走る者が出てなし崩し的に……といったことになりそうですね」

「さっさと諦めて人魔融和派にでも転向してくれれば楽なんだがな……」

「私のように、ですかね……ただ、末端の者は自滅魔法を刻まれているので、自分の意思ではなかなか難しいでしょう」

「ああ、それがあったな……実に厄介な魔法だよ」

「ええ、とっても」


 最後はそんなぼやきへと至ったところで、使用人がひとり部屋に入ってきた。


「おいギド! なかなか戻ってこないと思ったら……アレス様の眠りを邪魔するんじゃない!!」

「いえいえ、アレス様がお眠りになるまでのちょっとした話し相手になっていただけですよ」

「えぇい! 屁理屈をこねるんじゃない!」

「やれやれ、それではアレス様……いい夢を」

「おう、またな」


 こうして、本当に眠りにつくのだった。

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