第349話 お墓参り
「腹が……減った」
というわけで、お昼をいくらか過ぎたあたりで空腹感により目が覚めた。
なんとなく、夕方ぐらいまで寝るかもなんて思っていたのだが、そんなこともなかった。
「フッ、腹内アレス君は時間に正確だね……」
なんてニヒルにキメてみたが、「そんなことより早くメシだ!」と腹内アレス君から催促される。
「はいはい、分かりましたよ~」
なんて適当な返事をひとつしてから部屋を出て、食堂へ向かう。
そして昼が過ぎていることもあって、既に食事を終えたのだろう義母上たちはもういない。
そういえば、久しぶりのおひとり様かもしれない。
といいつつ、ギドたち使用人が後ろに控えてはいるんだけどね。
そんなどうでもいいことを考えつつ食事を終え、自室に戻る。
「さて、今日はこれから母上のお墓参りに行こうと思う」
「かしこまりました、リリアン様もきっとお喜びになられることでしょう」
「ああ、そう思ってもらえれば、俺も嬉しい」
「それでは、馬車の手配をいたしますので、少々お待ちを」
「うむ」
実際のところ、歩きでも余裕で行けちゃう距離なんだけどね。
でも、公爵令嬢だった母上へのお墓参りなわけだから、貴族感をしっかり出しておいたほうがいい場面であろうことは俺にも理解できるところだ。
そしてギドが馬車の手配をしているあいだに身を清めて、着替えもしておこう。
「アレス様、こちらのお召し物はどうでしょうか?」
「ふむ……よかろう」
使用人の女子が選んだ服に対し威厳たっぷりに返事をしておいたが、正直そこまで良し悪しは分かっていない。
とりあえず、あまり華美になり過ぎないよう黒を基調としつつ、それでも生地などは最高級品って感じだろうか。
……まあ、普段の俺とあんまり変わっていないかもしれないが、ややフォーマル感が増したといえそうだ。
「アレス様! とってもステキです!!」
「お、おお、そうか」
まあね、褒められて悪い気はしないよね。
こうして着替えも済んだところで、馬車の準備ができたとギドが呼びに来た。
そして馬車に向かう途中、俺が墓参りに行くことを聞いたのか、義母上やルッカさんを筆頭とした使用人のお姉さんたちが見送りに来た。
「アレス、リリアン様のお墓参りに行くのね」
「はい」
「私も行きたいところだけど……母子水入らずのほうがいいものね」
「そんなお気を使わずとも……」
「ふふっ、いいのよ」
「恐れながら、リューネ様は頻繁に参られておりますので、リリアン様も少々うんざりされているかもしれません。そのため、今日のところはアレス様おひとりのほうがよろしいかと」
「もう、ルッカったら」
「そんなにも母上のことを想ってくださり、感謝いたします」
「私がリリアン様に会いたいからそうしているだけよ。それじゃあ、あまり長く引き止めるのも悪いわね、気を付けて行ってらっしゃい」
「はい、行ってきます」
そして義母上に挨拶をして馬車に向かうと、そこにはシノリノさんの姿が!
「短い距離だけどね、またアレス様を送迎することができて嬉しいね」
「私も、シノリノさんの馬車に乗せてもらえるだなんて感激です!」
「ありがとうね」
こうしてシノリノさんにも挨拶がてら少し話をしてから、馬車に乗り込む。
それにしても、何人かいるであろう御者のうちシノリノさんに頼むとは……ギドの奴め、なかなか分かってるじゃないか!
なんてギドにグッジョブという気持ちを込めた視線を送ってみると、清々しいスマイルを返してきた。
「むぅ、アレス様とギドがさらに仲良くなってるぅ……悔しぃっ」
「わたくしも負けていられませんわ」
「ギドは敵……認識した」
とかなんとか、使用人の女子が小声で呟き合っているのが聞こえたが……もちろんスルーだな。
でも、ギドは敵じゃないからね?
むしろ、圧倒的な味方だからね!
そこんところ、ひとつヨロシク!!
「着いたからね」
「ありがとうございます、それでは行ってきます」
「うん、リリアン様によろしくね」
もともとたいした距離じゃなかったこともあって、スグ着いた。
そして馬の世話もあって待機するシノリノさんを残し、俺はギドたち使用人を伴って母上の墓に向かう。
しかしながら、なんとまあ荘厳な雰囲気というべきだろうか……
清浄な空気が満ち満ちており、その中心というべき場所に母上の墓があった。
そこでギドたちは少し離れたところで立ち止まって控え、あとは俺だけが墓の正面に向かって進む。
そうして一歩一歩進むたびに、より一層神聖な空気が強まっていくような気さえする。
これが、母上なのか……もしかしたら俺の光属性の強さは母上譲りなのかもしれない、そんなこともふと思った。
ようやく墓の前に着いたところで、祈りを捧げる。
『母上、あなたのお力添えのおかげでギドを救うことができました、誠にありがとうございます』
『母様! ありがとう!!』
そのとき、全身をあたたかいオーラのようなものに包まれたような感じがした。
それは母の抱擁ともいうべきものなのかもしれない。
そのあたたかさに包まれて、しばしのときを過ごすのだった。
そのあいだ、俺も前世の母さんを思い出しながら……
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