第350話 いわゆる抜擢ってやつかな?
しばし時を忘れて、母上のあたたかさに包まれていた。
『……母上、また来ます』
『母様! またね!!』
そして「次は義母上と一緒かな?」なんて思いつつ、母上のお墓をあとにする。
それから少しして、ギドたち使用人が俺の墓参りの様子について思ったことを述べてきた。
「リリアン様がお眠りなのですから、神々しい場所なのは当然ですが……アレス様によってそれがより強まったように感じましたね」
「キラキラ~って、とっても煌めいた空間でぇ、とってもキレイでしたぁ」
「わたくしも、あのような神聖な刻をご一緒できて光栄に思いますわ」
「きっとリリアン様も、アレス様が来てくれてお喜びだったに違いない」
俺の感覚だけのことかと思ったが、どうやら外からもオーラ的なものが見えてたっぽいね。
しかしながら、死してなお輝きを失わない母上は本当に「凄い」の一言に尽きるな。
だからこそ、義母上みたいなガチ勢がガチなまま残り続けるのだろう。
そして、このままの流れで教会へ行き、転生神のお姉さんや神々に祈りを捧げようかと思っていた。
だが、使用人たちの言葉を聞いて機会を改めることにした。
というのも、母上のお墓であれば「母上が凄い」でゴリ押せるのだろうが、俺が教会で祈って無駄に発光してしまったら言い逃れにひと苦労だろうからね。
そんでもって、それを見た教会関係者にメッチャ勧誘とかされても困るし……自意識過剰かもしれないけどさ。
なので、転生神のお姉さんたちには普段からしているように心の中だけで祈りを捧げようと思う。
そして学園に戻ったときに、誰もいないであろうスケルトンダンジョンの廃教会に行って本格的に祈ることにする。
もちろん、レミリネ師匠や首飾りをくれたスケルトンへのお礼の祈りもね。
まあ、そもそもとしてこういったことは気持ちが何よりも大事で、場所や形というのはそういった気持ちを高めるためにあるのだ。
……なんて言い訳じみたことも考えてみたりしながら、屋敷に戻った。
そして自室でちょいとくつろいでいたところ……
「アレス様、セス様がお呼びですので、執務室にいらしていただけないでしょうか?」
「兄上が? よし、分かった」
ふむ、兄上から呼び出しとな?
まあ、使用人の雰囲気的に切羽詰まった感じじゃなかったから、深刻な内容ではあるまい。
あるとしたら……レジャー施設関連かな?
「というわけだギド、ついてこい」
「かしこまりした」
いわずともついてきただろうが、なんとなくカッコつけてみた。
フッ、俺の「アレス様ぶり」もなかなかサマになってきただろう?
てなことを思いつつ、兄上の待つ執務室へ向かう。
そして着いたところで、使用人にドアを開けてもらう。
「お呼びでしょうか、兄上」
「やあ、呼び出して悪いね。さっそくだけど、例のレジャー施設開発の担当者が決まったから、アレスにも紹介しようと思ったんだ」
「なるほど、そうでしたか」
やっぱり、という感じだね。
それにしても、なかなか決まるのが早かったんじゃないかな?
なんて思いつつ、その担当者らしき人物に視線を向ける。
「それじゃあメメカ、アレスに挨拶してくれるかな?」
「はい。このたび、レジャー施設開発の担当者となりましたメメカ・グナッドと申します。開発にあたり、アレス様へ何かとご相談させていただくと思いますが、そのときはよろしくお願いいたします」
「うむ、遠慮せずなんでもいってくれ」
「恐れ入ります」
う~ん、若い……それに俺のお姉さんセンサーも反応していないところからして、学園を卒業して1年か2年ぐらいの娘さんって感じだね。
なんとなく、こういう責任者的なポジションに就くのは経験豊富なオッサンなのかなって思ってたけど、違うみたい。
これはいわゆる抜擢ってやつかな?
「それで、メメカはマイネの1年後輩だったんだけど、なかなか優秀な学生でね」
「いえ、私など、少々ガリ勉だっただけです……」
それが理由なのかは分からないけど、メメカはメガネっ子である。
いや、視力も回復魔法やポーションで治ると思うんだけど……伊達なのかな?
そういえば、シュウという名の武術オタクもメガネだったな……やっぱこの世界のメガネはオシャレアイテムなのかもしれない。
いや、アイツの場合はメガネに相手の戦闘能力が数値化されて表示されてそうだが……
「いやいや、僕は事実をいったまでさ……ああ、それでね、そんな優秀なメメカはなんと! マイネを慕ってウチに来てくれたいうんだから驚きだよね!?」
「ほほう、義姉上を慕ってですか」
「それは、そうですけど……」
あ、メメカがちょっと照れてる。
それにしても、そんな優秀な学生をゲットできたとは兄上もラッキーだったな。
いや、それすらも見込んで義姉上を選んだって可能性も考えられる……
ふむ、やはり兄上は侮れないお人だ。
「アレス……ごめんだけど、眼差しがちょっと熱いかな……」
「おや、これは失礼しました」
「それはともかくとして、メメカにはマイネの専属使用人になってもらおうかと考えていたんだけど、今回のレジャー施設開発で才能を発揮してもらったほうがいいかなって思ったんだ……それに、メメカの実家は王国北部だからね、より雪や氷のことも理解できるだろうし」
「なるほど、それは適任といえそうですね」
「おお、アレスも賛成してくれるかい?」
「もちろんですとも」
「よし、それじゃあ、メメカにいろいろと協力してあげるよう、僕からもお願いするよ」
「改めて、よろしくお願いいたします」
「学園に向かうまでの短いあいだとなるでしょうが、それまではお任せいただきましょう!」
こうして、メメカとの対面を済ませたのだった。
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