第351話 専用のボード
執務室から自室に戻ってきた。
「アレス様、明日は魔法による工事で忙しくなりそうですね」
「ああ、そうだな……とはいえ、メメカの指示どおりやればいいだけだろうから、気楽なもんだよ」
「確かに、おっしゃるとおりです」
というわけで、さっそく明日から俺の規格外の魔法が大活躍するってわけさ!
異世界転生の先輩諸兄も土木魔法とかなんとかいって、道路工事はもちろん、地形そのものを変えちゃうみたいなことをしていた。
あれを俺もやることになるのさ。
フフフ、これでまた一歩、異世界転生者らしくなれたというわけだね。
「そういえば、アレス様はスノーボードをされたいとおっしゃっていましたが、専用のボードなどはお持ちでしたか?」
「いや、専用というのはないな……ウィンドボードじゃ駄目なのか?」
「そうですね……そもそもとして一般の方がウィンドボード……空を飛ぶ用のボードを使用する理由として、魔鉄などの魔法金属により魔法を補助させるのはもちろんとして、飛行中に地上から受ける攻撃への盾としての役割なんかも期待されていますが……実際のところ、アレス様はそれらの効果が必須ではありませんよね?」
「そうだな……俺自身、ウィンドボードがなくても飛べることに気付いてからは、フウジュ君の必要性に軽く悩んだぐらいだからな」
「それでも、あえてアレス様がウィンドボードに乗るのは……ボードにこだわりがあるからでしょう?」
「うむ、そうなるな」
まあね、単純にカッコいいと思うからね。
「そこで、先ほどの問いに対する答えとしては、ウィンドボードでも問題ないといえるでしょう……ただし、やはり用途が違うため乗り心地が違うのは当然ですね……というよりも、アレス様のように魔纏でボードまで覆う場合は、そもそも雪と接しないためスノーボードをしているといえるかどうかも微妙なところになりそうですが……」
「まあ、魔纏については、身体にだけ展開すればいいのだろうが……乗り心地が違うっていうのはちょっとな……」
「それから、アレス様がウィンドボードで代用しているのを北部貴族の方が目にした場合、『分かってない』とおっしゃられるかもしれません」
「……なッ! にわか扱いされるということか!? それはいかん! いかんぞォ!!」
貴族っていうのはマウント合戦に全力というのが相場で決まっているからね……
それに、陰口を叩かれがちの俺だと、なおさらって感じがするし。
「とはいえ、近年スポーツとしての発展が目覚ましいスノーボードに比べて、ウィンドボードは武具としての性格が強いものですからね、『常在戦場を旨とするソエラルタウト式スノーボードはこれだ!』と言い張るのも、それはそれで面白そうです」
「ふむ……それもありだな……だが、乗り心地という面で、やはり専用のスノーボードもあったほうがよさそうだな……しかし、ウィンタースポーツが盛んでないソエラルタウト領にスノーボードを扱っている店などあるかね……? それに、今は夏だし……」
「そうおっしゃるかと思い、アレス様がお休みのあいだに調べてみたところ、スポーツ用品を扱う商店に少数ですが在庫があるようです」
「なんと! ギドよ、さすがだな!!」
「恐縮です」
「よし、さっそく明日の工事が終わったら、買いに行くぞ!」
「かしこまりました」
まあ、貴族なら商人に来させるのがデフォなのだろうが、面倒でいちいちそんなことしてられん! 俺は買いに行くぞォ!!
あと、やっぱりお店に足を運んで自分の目で見て選ぶっていうのも楽しいものだからね。
そんな俺の好みを察して、ギドも在庫確認にとどめたのだろう。
とまあ、そんな話をしていたところで、空腹感がやってくる。
そろそろ夕飯の時間ってわけだね、教えてくれてありがとう腹内アレス君。
というわけで、食堂へ。
「アレス、リリアン様にご挨拶できたみたいね」
「はい、母上と素晴らしい時間を過ごすことができました」
「そう、それはよかったわ。今度は一緒に行きましょうね」
「はい、喜んでご一緒させていただきます!」
やはり、母上のオーラは当然のこととして受け止められているようだね。
とすると……このまま俺も魔王に吸収されることなく天寿を全うして埋葬された場合、オーラ全開の墓になるのだろうか?
やべぇ、それはカッコいいな!
とはいえ、前世が前世だっただけにこっちの世界では長生きしたいと願いつつ、そういう変なワクワク感を持つのもどうかと思うけどね……
なんてことを頭の片隅で考えつつ、義母上と約束をして夕食を終えたのだった。
そして夕食後は、もちろん訓練場へ。
「今日は魔纏の練習を重点的におこなう!」
「はい!」
兄上の物言い的に、壁系統の魔法は是非とも上達してもらいたいみたいだからね。
というわけで、まずはアレス付きの使用人たちに広義には壁系統に含まれるであろう魔纏の練習をしてもらうことにした。
まあ、それだけだと飽きるかもしれないので、魔纏を展開しながら模擬戦なんかもしていくつもりだ。
そんな感じで爽やかな汗をかいたところで、最後は嬉し恥ずかし、魔力交流のお時間だ!
フッ、「全然気にしてませんよ」っていう顔をしても無駄さ。
ソワソワとした気持ちが魔力に乗っているのを隠し切れていないからね。
……特にそこの2人! お互いにまんざらでもないのはお見通しだよっ!!
こんな感じで、使用人同士でカップルが成立していってくれたら、とってもステキなことだなって思うね。
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