第352話 道路工事が始まる

「これからは壁系統の魔法がアツい!」

「あはははは! 私たちがソエラルタウト領の騎士、いえ、それどころか魔法士よりスンゴイ壁魔法を使えちゃったらイケてるよね!?」

「もちろんよ! よってこれからアレス様付きの使用人は、壁系統のスペシャリスト集団となるの! くぅ~っ、カッコいい!!」

「まあ、俺たちみたいな、もともと非戦闘員の使用人が非常時に街の防御を担うことができたら、領兵たちも安心して攻撃に専念できるだろうしな」

「……私はアレス様を見習って氷系統も磨くつもり」

「あらぁ~欲張るじゃないの」

「いえ、ウィンタースポーツの施設管理のことなども考えれば、必要な技術になりますわよ」

「うん、アレス様にいつでもスノーボードを楽しんでもらうためには、ウチらが氷系統の魔法を自由自在に操れてたほうがいいもんネ!」

「……それはそうと、今はこのアレス様の障壁魔法をよく観察して、まずは壁系統の魔法の熟練度を高めることに専念しましょ!」

「そ~しましょ!」


 これまでの使用人たちは、ひたすら破壊による攻略を試みていた。

 そこで昨日の訓練時に、兄上が壁系統の魔法の上達を望んでいる話をしたためか、使用人たちの障壁魔法への関わり方に変化が表れた。

 また、この王国の価値観的に「主人が凄いイコールその従者も凄い」であり、「従者が凄いイコールその主人も凄い」ってなるみたいだからね、彼らが張り切るのも分かるというものだ。

 まあ、そんな理由に関係なく、頑張るのはとても素晴らしいこと。

 というわけで、俺の障壁魔法も存分に参考にしてくれたまえ!

 なんて思いながら、しばらく寝たフリをして使用人たちが障壁魔法の理解に努めるのを見守っていた……いや、厳密には見てないから、心でだけどね!

 そして、そろそろといったところで起きたフリ。


「……おはよう」

「おはようございます! アレス様!!」

「ふむ、今日も頑張ったみたいだな……とても感心なことである」

「ありがたきお言葉に感謝いたします!」


 そんな朝の挨拶をして、着替えを済ませたら朝練だ。

 今日もしっかり走るぞ!

 そんな気合を入れながら、訓練場へ向かう。


「さて、今日も魔力操作で体力をきっちり回復しながら走る! お前たちが魔力を丁寧に扱えば、魔力もお前たちの気持ちに応えてくれるはずだ、それを忘れるなよ!!」

「はい!」

「うむ、いい返事だ! それでは行くぞ!!」


 こうして約1時間、使用人たちと共に青春の汗を流したのだった。

 そして自室に戻ってシャワーを浴びて、食堂へ向かう。


「アレス、昨日も話したけど、朝食が終わったら会議室で工兵たちが道路工事のやり方を説明するからよろしくね」

「はい、心得ております」


 この道路工事だが、普段なら公共事業として領内の土木事業者へ発注するって感じなのかもしれない。

 でも、今回はスピード重視ということで、ソエラルタウト領軍の工兵がササッと道路を作っちゃうのさ!

 まあ、そこで俺も魔法でドカンと一発手伝うんだけどね。

 とはいえこれは、施設の開発地へ人やモノの運搬を効率的にするのが目的なので、道路が完成したあとでも土木事業者たちが活躍する場はいくらでもある。

 というのも兄上は、ウィンタースポーツの施設があるちょっとした避暑地だけで終わらせるつもりがなく、将来的に街へと発展させることを狙っているみたいだからね。

 フフフ、やっぱり街の開発なんていうのはロマンがあふれるからねぇ、兄上の気持ちもよく分かるよ!

 ……ついでにいうと、ソエラルタウト領は割と新興の領地で人の流入も多いから、その受け皿となる街が欲しいっていうのもあったりするんだけどね。


「ふふっ、2人とも楽しそうねぇ」

「まあ、ワクワクした気持ちを抑え切るのは難しいものがあるね」

「そうですとも! この計画が成功すれば、ソエラルタウト領がさらに発展するのですから!!」

「息子が頼もしくて、嬉しいわぁ」

「はい、私も頼もしい夫と義弟を持てて誇りに思います」


 こんな感じで家族だんらんの朝食を済ませたあとは、会議室へ移動。

 そこで工兵に道路工事のやり方について説明を受けた。

 ……ごめん、説明を聞くまではなんとなく、その辺の地面を地属性魔法でガッチガチに固めてハイ終わりって感じだと思ってた。

 いや、もちろんそれもするんだけど、説明によると道路の構造は層が何層も重ねられていて、俺がイメージしていたのは「路床」といって最下層の部分となるらしい。

 そしてその上が「路盤」という道路に掛かる荷重を分散するのを目的とした層となり、粗さの違う砕石を下層から順に蒔いていき、粗い層、中ぐらいの層、細かい層って感じでだんだん細かくしながら、粘土なんかも混ぜて締め固めていく。

 それが終わってようやく、俺たちが日頃から目にするような石畳で舗装された表層に辿り着くというわけだ……地味に大変だね。

 まあ、前世でもまったく一緒というわけではないのだろうが、いくらか似たような感じで道路が作られていたんだろうなぁって気がする……原作ゲーム的に考えてもね。

 それで、この工事において俺が主に担当するのは最下層部分となる。

 フッ、俺の地属性魔法でガッチガチに固めてやるぜ!

 それであとは、粗さの違う砕石を適当に生成するって感じかな。

 そして、砕石を蒔くところからは工兵が地面の様子を見て調節しながらって感じになるようだ。

 まあ、俺が地面の様子を見ても、よく分からんしな。


「それではアレス様、よろしくお願いします!」

「おう、任せとけ!」


 というわけで領都から外に出て、さっそく道路工事が始まる。

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