第343話 夏なのに冬を体験

 雪や氷の活用方法を考えるため、改めて目の前に広がる雪景色を眺めてみた。

 まあ、前世の北海道の冬を視覚的にイメージしたので、辺り一面が雪と氷に覆われて真っ白である。

 そんなわけで、雪が1メートルぐらい積もっている。

 それが見渡す限りなので、数キロ先まで雪に覆われているんじゃないかな?

 とはいえ、戦闘に支障がないように身の回りだけは加減したので、足が埋まることはない。

 もっとも、足が埋まって困るのなら魔力で飛べばいいだけなんだけどね。


「それにしても、よっぽど魔力を込めたんだねぇ……この雪や氷はしばらく解けないんじゃないかな?」

「そうですね……何もしなくても数週間はもちそうな気がします」

「じゃあ、あとから魔力を継ぎ足して維持をすれば、もっともつよね?」

「はい、もつと思います」

「それなら……ここを避暑地にするっていうのはどうだろう?」

「えっ!?」


 なんか、兄上がとんでもないことを言い出したぞ……

 そこで思わずギドに目を向けてみると、にこやかな顔で頷きを返してくる。

 ギドめ……兄上がこういう発想をすることを読んでやがったな?

 だから後始末を止めてきたのか……


「夏なのに冬を体験できる! それもソエラルタウト領のような南方の土地で! イケる! これはイケるよ!!」


 やべぇ……兄上に変なスイッチが入ったっぽい……

 ちなみに、ここカイラスエント王国は前世の日本と同じように北は寒くて南は暖かい、そういう設定なのだ。

 まあ、原作ゲームの制作陣が日本人だからね……そういうイメージになっちゃうのは仕方ないよね。


「暑いのが無理な人は、ここに来ただけで涼むことができる! 最高だね!!」

「えぇと……『涼しい』を通り越して、『寒い』だと思いますけどね……」

「ああ、でも……雪や氷があるってだけでじゅうぶんかもしれないけど……もう少しこう、何かが欲しいなって気もしてしまうね……」


 駄目だ、聞いちゃいねぇ……


「おい、オメェはさっき『オイラは王国最北端の領地出身なんだなっ!!』とかいって無駄にアピールしてただろ、なんかないのかよ?」

「えぇ、なんだよそれ……俺はそんなしゃべり方したことないぞ……?」

「そんなことどうだっていいわ、大切なのはセス様が求めるような何かがあるかってことなのよ……それで、あるの? ないの?」

「う~ん、そうだなぁ……」

「はぁ……こんな日はあったけぇスープが飲みてぇなぁ」

「またお前はマイペースなことを……と思ったが、あったかいメシっていうのは悪くない発想かもしれないな」


 あっ、兄上が引き連れてきた領兵たちもワイワイし始めたぞ。

 ……腹内アレス君まで「あったけぇスープ」とか「あったかいメシ」っていうワードに反応してるし。

 屋敷に帰ったら朝ご飯だから、それまで待っててくれよな!


「……やっぱ、スキーとかスケートみたいなウィンタースポーツかな?」

「ウィンタースポーツ! お聞きいただけましたかセス様! ウィンタースポーツですよっ!!」

「ウィンタースポーツか……なるほど! イイね!!」


 完全に兄上が乗り気になっちゃったね……

 しかしながら、前世でスキーはやったことあるけど、スケートはないんだよなぁ……

 というか、異世界あるあるとして考えるなら、ここで俺が前世を参考に凄いアイディアを出すっていうのがセオリーなんだろうけどね。

 でも、この世界の人間から普通にスキーとかスケートって名前が出てきたように、そういう前世知識チートはほとんど使えないんだ……みんな知ってるからさ。

 この辺は、原作ゲームの制作陣が世界観を大幅に崩さない限り、そのまんま放り込んだんだろうなって感じ。

 だから、お決まりの盤上遊戯とか調味料なんかも既に存在するから俺の出る幕がない……

 といいつつ、調味料の作り方とか知らないけどさ。

 いや、異世界転生の先輩諸兄が説明してくれてたはずなんだけど、そういう部分ってサラッと読んだだけであんまり覚えてないんだよね。

 そんなおぼろげな俺の知識では、発酵と腐敗の線引きとかも無理だから、日本人ならコレ! みたいな感じで味噌や醤油も自力で作り出すこともできないんだ。

 まあ、ありがたいことにそれらもこの世界にはそろっているので、なんの問題もないけどさ。

 よって「神様……コメが食べたいです……」ってことにもならない、余裕でいっつも食べてるからね。

 そんなわけでさ、これから異世界転生をするであろう後輩諸君は、俺みたいに運よくそういったもののそろった世界に転生できるとも限らないから、今からいろんな知識をしっかり身に付けておくことをオススメするよ!


「……納得した顔で頷いてくれているけど、アレスもウィンタースポーツに賛成かな?」

「……あ、はい、そうですね……そうだ、兄上……私はスノーボードがしたいです」

「スノーボード……ってどんなのだっけ? 空を飛ぶ用のボードとは違うのかな?」

「セス様、ボード自体にそこまで大きな違いはありませんが、スノーボードは雪の上で乗るボードです」

「へぇ、そうなんだね」

「はい、特にナウなヤングに人気がありますよ!」

「おお、それは期待が持てるね! いやぁ~僕はそういう文化的な方面にどうも疎いところがあって……アレスはよく知っていたね?」

「そうですね……学園でその存在を知り、痩せたらやってみたいと思っておりましたので……」

「そっか、じゃあ、夢が叶いそうでよかったね!」

「はい、ありがとうございます」


 兄上のテンションがアゲアゲだ……

 この調子で屋敷に帰って、義母上に心配されなきゃいいけど……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る