第11章 雪の街
第342話 あの頃はこうして触れ合うこともなかった
気付けば夜が明けてしまった。
そしてギドが助かったことによる感動も完全に落ち着いたところで、戦場の後始末が待っている。
……そう、この一面の銀世界をもとに戻すっていうね。
しかも、ただ雪や氷を解かして終わりってわけにもいかないだろう。
辺り一面が水浸しになっちゃうからね……
「はぁ……これは地味にめんどうだ……」
「お待ちください、アレス様」
「……どうした?」
「夏も終わっておらず、まだまだ暑い日も続きますので、この雪や氷を残す方向で考えてみてはいかがでしょう? ……ちょうど兄君もこちらに向かわれているようですし」
「……ああ、確かに兄上がこっちに向かってきているな……ってマズいぞ、『夜遊びをしていた上に、領地を荒らすようなマネをして!』みたいな感じで怒られそうだ……いや、一応それなりに迷惑がかからなさそうな場所を選んだつもりではあるんだが……」
「……あのアレス様がそのような配慮をなされるようになるとは……成長されましたね、本当に……」
「おい、そのハンカチで目頭を拭う仕草はよせ……それにハンカチも乾いたままだぞ?」
「おや、バレておりましたか……」
「いや、実に迫真の演技であったぞ……なんていうと思ったか! そんなわけないだろ!!」
「フフフ、これは失礼いたしました……と、冗談はここまでとして、私のせいで申し訳なく思うとともに、こうしてこれからもお仕えできることを嬉しく思います」
「……急にマジメな雰囲気を出すんじゃない……そして、兄上のことだから苦笑いで済ませてくれるんじゃないかと思うが、果たして……」
ここで原作アレス君の記憶を改めて探ってみたところ……いくらか悪さもしていたみたいだが、ほとんど怒られた経験がないようだ。
悪さではないが、義母上に構ってもらっていたとき親父殿から「甘ったれるな!」的な叱責を受けたことはそれなりにあるけどね。
あとは、怒られたっていうかギドがやんわりと注意を促してきたことがあったってぐらいかな。
そんなことを思いつつ、兄上を待つ。
「……ギドよ、本当に後始末を始めてなくてよかったのだな?」
「ええ、おそらくは」
「……まあいい、怒られるときはお前も一緒だからな」
「はい、喜んで」
「……まったく」
そして、ようやく馬に乗った兄上が到着。
もちろん単騎ではなく、鎧に身を包んだ領兵を引き連れて。
「とてつもなく強大な魔力を感じて来てみれば……随分と派手にやったねぇ……」
「……な、なんなんだよ、こりゃ……」
「……こ、ここら一体だけ極寒の地となってやがる……」
「えっと……今は夏……よね?」
「いや、そもそもソエラルタウト領でこんな大量に雪が積もることなんかねぇだろ……」
「俺、王国最北端の領地出身だけど……真冬の実家でもここまでの雪景色っていうのはそうそうお目に掛かれなかったぞ……」
「つーか、単純に寒ぃ」
「まあ、お前はお前で寒がり過ぎなんだけどな……」
兄上ウィズ領兵たちの感想をいただきました。
まあね、それだけギドの生成した炎が凄まじかったってことだよ。
あれを凍らせるには、俺も魔力とイメージともにかなり気合を入れなきゃだったからね。
「……兄上、お騒がせして申し訳ありません……ふと思い切り魔法を放ちたくなってしまいまして……」
「そ、そうなんだね……まあ、負の感情の乗った魔力ではかったから、そういった意味ではあまり心配はしていなかったけど……でもやっぱり、凄いね」
「お恥ずかしい限りです」
「でもまあ、昨日は元気がなかったみたいだから気になっていたけど、思いっ切り魔法を放ってスッキリできたのかな?」
「え、あ……はは……そう、ですね……元気になれました」
「そっか、それを聞いて安心したよ……それに、街にも影響が出ないよう、ここまで離れた場所を選んだんだろう?」
「一応、そのつもりでした」
「うん、それならいいよ……ただ、できれば一声かけて行って欲しかったっていうのはあるかな……母上も心配しているからね」
「それは、誠に申し訳ないことをしました……」
「ま、帰ったら母上に心配をかけたことを謝るといい……僕からはそれだけさ……ああ、久しぶりにアレスのやんちゃなところを見れて懐かしいなっていう気もしたかな……まあ、それも遠くから見ていただけなんだけどね」
「あ、兄上ぇ~」
優しい、兄上が優し過ぎるよぉ~
そう思うと、体が勝手に兄上に抱き着きにいった。
「そういえば、あの頃はこうして触れ合うこともなかったもんね……」
「……はい」
まあ、意図的に離されてたっていうのもあって、原作アレス君と兄上の接点ってマジで少なかったみたいだからね。
ここで、ふいに前世の兄を思い出してしまった。
一緒にゲームの対戦とかして遊んだよなぁ……
といいつつ、こんなふうにハグを交わした記憶は……あったっけ?
いや、覚えてないけどめっちゃ小さい頃ならあったかもしれない。
でも、ある程度の年齢になってからは気恥ずかしくてやろうとも思わんかったしな……
なんというか……この体になってから、こういうスキンシップに躊躇がなくなった気がするね。
……って、こんなこといったら原作アレス君に「人のせいにすんな!」って怒られちゃうかな?
「……さて、一段落ついたところでアレス……この一面の雪景色の活用方法を考えようか」
「……そうですね」
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