第498話 フェイクニュース

「フフフのフ~冗談なんかじゃないさ、なぜなら俺ちゃんのマイハニーが! 両侯爵子息がめちゃアッチィ抱擁を交わしていたところを見たっていってたんだからなッ!!」

「な、なんだってぇ!?」

「アッチィ……抱擁だ……と?」

「ほぉう? それはそれは……」

「にわかには信じられんが……それが本当なら、エトアラ嬢が黙っておらんだろうな」


 オイッ! 友情の握手は交わしたが、抱擁はしとらんぞ!!

 というか以前、ゴブリンハグを抱き締めて昇天するほど嫌がられたぐらいなんだからな! 俺だってその辺は気を付けてんだ!!

 でもまあ、ちょっと接してみた感じセテルタはいい奴っぽかったからなぁ、抱き締めてもそこまで嫌がらないでいてくれそうな気もするね。

 ……って! 何を想像してんだ俺は!?


「まあねぇ、君たちみたいなロンリーボーイズなら、トキラミテ侯爵令嬢の婚姻話のほうが自然と注目度が高くなってしまうだろうしぃ? それに、両侯爵子息の触れ合いはある種の刹那的な趣だったそうだからねぇ、今頃その一瞬に立ち会うことができた令嬢なんかがうっとりしながらその話を女子寮でしていることだろうさ」

「そのロンリーボーイズというのは聞き捨てならんが、とりあえず女子のあいだではその話題で持ち切りということか……」

「いや、刹那的な趣って……なんだそりゃ?」

「おそらく、耽美な世界が繰り広げられていたのでしょうね……それこそが一瞬の煌めきといわんばかりに」


 なんか、表現が微妙にヤベェ奴がいるな……

 それはそれとして恐ろしいもんだね、こうしてフェイクニュースというものが世の中に広まっていくということなのだろう。

 しかしながらお前ら、将来は貴族として王宮なり領地なりで難しい舵取りをしていかねばならんのだろう?

 あまり変な情報に踊らされんじゃねぇぞ?


「ふむ……その煌めきどうこうというのは置いておくとして、ロイター殿やヴィーン殿に続きセテルタ殿までとなると……やはり彼には男を惹きつける何かがあるのかもしれんな」

「単なる魔力操作狂いなだけだったのにな……」

「いや、それどころか奴に近づくと碌なことがないって話だったはず……どうしてこうなった?」

「とりあえず、過去のことはこの際いいじゃないですか……それよりも、彼がセテルタ氏と友誼を結んだのは素晴らしい判断だったのではありませんか? というのも、彼にはファティマさんがいるのですからね……いえ、もしかしたら彼女の存在こそが、彼とセテルタ氏を結びつける結果につながったのかもしれません」

「なるほど、ファティマちゃんか! そうだよな、ファティマちゃんを捨ててエトアラ先輩を選ぶなんて、そんなん許せねぇもんな!!」

「それもそうだし、奴はパルフェナちゃんともウワサがあるからな……」


 ファティマとはいろいろあったからアレコレいわれるのも分かるが、パルフェナとはなんもねぇよ。

 普通に友達っていうか同じパーティーの仲間だ、そこを間違えちゃいけない。

 まったく、お前らフェイクニュースに踊らされ過ぎだぞ?


「付け加えるなら……彼は最近、メノ嬢がお気に入りと聞いたな」

「フッフ~ン、よ~く知ってるねぇ? 子爵家とはいえ、ルクストリーツ家もなかなか侮れない家だからね~フフッ……さすがソエラルタウト侯爵の子息だけあるってもんさぁ」

「……ん? そこでなんで魔力操作狂いの父親が出てくるんだ?」


 そうだそうだ! なんで親父殿が出てくんだよ!!


「というか、あの父子って物凄い不仲だって話じゃなかったか? それなのにさすがも何もねぇだろ……というより、奴自身のせいもあるだろうが、どっちかっていうとソエラルタウト侯爵に睨まれたくねぇから避けてたって奴もいたはずだしな」

「ええ、彼自身の実力を認めて見直す向きもあるでしょうが、やはり当主との不仲というのは懸念材料ではありますからね……だからこそ、エトアラ嬢は思い切ったことをしたと話題になっているのですし」

「……もしやお主、父子の関係性ではなく受け継いだ人間性のことをいいたいのか?」

「ご・め・い・と・う! ハハッ、みんな忘れているみたいだから思い出してもらうためにあえて聞くけど……そもそもソエラルタウト家が侯爵に陞爵したのはどうしてだったかなぁ?」

「どうしてだぁ? んなもん、先祖の誰かが功績でも立てたんじゃねぇの?」

「いや、伯爵より上はなかなか上がれないはず……」

「……そうか! なるほど婚姻で……」

「ああ、その当時『公爵家の令嬢を嫁に迎えることができたからこその陞爵』といわれていたらしいな……」

「ウンウン、よ~やく思い出してくれたみたいだねぇ? そうなんだよ、上手いことオトした令嬢の実家の力で大きくなる……カッコつけて武系ぶってるけど、あの家の本質は政略の家ってことなんだねぇ……そ・し・て、陞爵を果たして用済みとなった彼の実の母親は……」


 あ、そろそろキレそう……

 俺というより、原作アレス君が……


「おい、そこの1年坊主、もうちっと静かにメシを食えねぇのか?」

「……はぁ? あッ! あなたはブレンラウズ家の! しっ、失礼しましたァァァ!!」


 調子に乗ってペラペラしゃべっていた餓鬼は、豪火先輩の一言によって慌てて退散していった。

 ……あのままだと危なかったかもしれない。

 俺自身のことなら割と面白おかしく聞いていられたのだが、母上のこととなると冗談では済まなくなる。

 たぶん、豪火先輩は俺の身体からほとばしる魔力を感じ取ってあの餓鬼を止めてくれたのだと思う、その気遣いに感謝である。

 そう思いつつ目が合った豪火先輩に頭を下げると、苦笑いとともに軽く頷きを返してくれた。

 それにしても……俺自身は抑えられたとしても、原作アレス君がその気になったらマズいってことか……

 こりゃ、気を付けなきゃかもしれんな。

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