第499話 上下でしか考えられない者が多過ぎる

「あ、えっと、俺たちもそろそろ行くか……?」

「そっ、そうだな……」

「え、ええ、もうお腹いっぱいですからね……」

「うむ、それがよかろう……」


 そうして、原作アレス君の逆鱗に触れかけた餓鬼と会話していた男子たちはそそくさと食堂をあとにするのだった。

 しかしながらあの餓鬼……たぶんだけど、マヌケ族が俺を陥れようとしてって感じじゃない気がする。

 そもそも学園に潜り込んでいたマヌケ族っていうのは、ある程度狩られたみたいだしさ。

 とはいえ、原作ゲームにおける魔族ヒロインなんかは学園内でときどき目にするから、全員が狩り尽くされたわけではないんだろうけどね。

 いや、アイツはあんまり目立って動いている雰囲気でもないから、今のところ見逃されている……もしくは泳がされているだけで、何かやらかしたらアウトって可能性もあるな。

 まあ、マヌケ族についてはいったん置いておくとして、あの餓鬼の口ぶり的に俺そのものというより、ソエラルタウト家の名前を落とすのが目的だったように思う。

 そうじゃないなら、単なる男同士の握手を抱擁だなんて表現はしないだろうし、親父殿……そしてソエラルタウト家のことを婚姻相手の実家を利用して成り上がった家なんて言い方をしないはずだからな。

 特に親父殿の場合、そんな形での陞爵を物凄く嫌がっていたって義母上がおっしゃっていた。

 そんな親父殿が、母上を利用するために口説いたなんて絶対にあるわけがないし、母上だってそんな男に引っ掛かるわけがない!

 いや、個人的な感想を述べさせてもらうなら、親父殿なんかに好意を持った母上の見る目ってどうなん? っていう気がせんでもないけど、それはそれ……結婚どころか異性と付き合ったことのない俺にはよく分からん。

 とまあ、そんなわけでおそらく、あの餓鬼はソエラルタウト家と敵対的な派閥の使いっぱしりで、あることないこと適当に触れ回ってるだけっていうのが実際のところなんじゃないかな?

 ただ、俺や親父殿を貶すのは一向に構わんが、それ以外のソエラルタウト家の人たち……特に母上のこととなると原作アレス君が黙ってないからな、愚かな餓鬼どもには気を付けてもらいたいところだ。

 今日のところは豪火先輩のおかげで何事もなく済んだが、次は分からんしな……

 そんなことを思いつつ、食事を終えて去っていく豪火先輩の背中に感謝と尊敬のまなざしを送った。

 さて……それにしても、ロイターたちは遅いな。

 ぼーっと待つのもなんだし、おかわりしちゃうぞ?

 それに何より、いまだにキレ気味の原作アレス君には腹内で落ち着いてもらわにゃならんからな。

 そんなわけでおかわりしてきたところ、ようやくロイターとサンズがやってきた。


「アレスさん、お待たせしてしまいましたね」

「遅くなった」

「もう! おっそいぞぉ!? あんまりにも遅いからおかわりしてきちゃったじゃないかぁ!!」

「アレスさん……その甘ったるいしゃべり方は、どうにかなりませんかね?」

「というより、遅くなったのはお前の影響でもあるのだからな」

「はぁ? 俺の?」

「ほら、お昼のことですよ……あれから男女問わず、いろいろな方々が僕たちのところにおいでになりましてね……」

「まあ、日頃から『お父上に何々をお願いします』みたいな嘆願にくる者も多かったが……今日は『派閥に入れてください』といった趣旨の面倒なことをいってくる者がひっきりなしでな……」


 うわぁ、めんどくさそう……


「それは大変だったな……でも、俺のところにはきてないみたいだが?」

「それはもちろん、まずは公爵家のロイター様にご挨拶申し上げてから……ということなのでしょう」

「こうして友人付き合いはしているものの、お前と同じく私とて派閥の形成など考えていなかったからな……断るのに苦労した」

「そうですよ、挙句に『トーリグやハソッドはよくて、どうして私たちはダメなのですか!?』なんていわれてしまいましてね……」

「あくまでもあの2人はヴィーンに忠誠を誓った者たちなのにな……」

「う~ん、そいつらにはヴィーン一行を丸ごと傘下に収めたって認識なんだろうなぁ……」

「でしょうねぇ……」

「私とサンズの関係もあって、そこまで偉そうにもいえないが、どうにも上下でしか考えられない者が多過ぎる……」

「みたいだなぁ……『上下に囚われない友情』ってものを、みんなにも分かってもらいたいもんだよ」

「それは……難しいかもしれませんね……」

「そういう考え方を嫌う御偉方も多いしな……」

「なるほどねぇ……」


 まあ、ガッチリ爵位の存在する世の中だと、危険思想とも受け取られかねないもんな。


「とりあえず、今日のところは私たちのところに来た者が多かったが、そう遠くないうちにお前のところにも行くだろうな」

「色々な意味で……頑張ってくださいね」

「うげぇ……カンベンしてぇ……」


 こんな感じで、ロイターたちがいつもより遅くなった理由を聞いていた。

 そして話題はエトアラ嬢やセテルタのことに移行していく。


「それで、なんか知らんけど……俺がセテルタと仲良くなったことについて、やたらと驚いてる奴らがいたんだよ」

「それは……そうでしょうね……」

「……うむ」

「えっ、何? どったの? 俺、なんかやっちゃった?」


 で、出たぁ~! 異世界転生名物「俺、なんかやっちゃった?」の一言!!


「お前は……気にしてないとはいえ、さすがに貴族間の関係を知らなさ過ぎだぞ?」

「ですね、ロイター様のおっしゃるとおりです……」

「ふぅん、そう?」

「まあいい、知らんのなら教えてやる」

「おう、頼んだ!」


 こうしてロイターとサンズによるトキラミテ家とモッツケラス家の関係について説明が始まった。

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