第497話 冗談でしたでは済まされんぞ?

「それじゃあ、また」

「うん、またね」


 こうしてセテルタと挨拶をして別れ、自室に戻ることに。

 この際、いくつかの女子集団のアツい視線が背中に当たっているのを感じた。

 いや、アツい視線というより、アツい魔力というほうが適切だろうか……

 う~む、魔力操作を日々こなすことにより、このようなちょっとした機微を感じ取る能力も自然と育成されているかもしれんね。

 といいつつ、あのアツさは全然ちょっとしてなかったかな?

 なんてことを気まぐれに思考しながら部屋に到着。


「ただいま、キズナ君! いやぁ、さっきの昼食も大変でね……」


 なんだかこんな感じでキズナ君に驚きの出来事があったことを語る機会が増えてきたように思うのは気のせいだろうか?

 まあいいや、キズナ君だって俺とのおしゃべりを楽しんでくれているハズ!

 俺が一方的に話しているだけだけどね!!


「……ああ、それとね、このことと多少関係っていうか流れみたいなものもあったと思うんだけど、セテルタっていうナイスガイとも仲良くなったんだよ! ほら、前にちょっと話したでしょ? エトアラ嬢が誘いに来たとき、そのグイグイさ加減をたしなめようとしてくれたクラスメイトのさ!!」


 キズナ君から「ああ、アイツね」みたいな意思を感じる……つもりである。

 でもまあ、たとえ植物が相手だろうと、こうして言葉をかけていくうちに声も聞けるようになるかもしれない。

 本当のところは知らないが、前世でも植物の声が聞こえるといっていた人もいたぐらいだしさ。


「……とまあ、こんなことがあったわけなんだよ」


 そうしてキズナ君とのおしゃべりが一段落したところで、そろそろ勉強を始めるとするかね。

 そんなわけで、今日も入門書を読んじゃいます!

 さて、どんな切り口で語ってくれるのか……お手並み拝見といこうじゃないの!!


「ふむ、この本は……これといってほかの本に載っていない新しいことが書かれていたわけじゃないが、説明は分かりやすかったね。どうせなら、これを最初に読んでいればよかったかもしれないなぁ、時間的にちょっともったいないことをしたかな? それはそれとしてこの様子なら、そろそろこの分野は入門書を卒業してもいいかな? もうちょっと専門性の高い書物に触れてみるのもいいかもしれない」


 なんて偉そうに感想を述べつつ、座学から実技に移るとしましょうか。

 そしてさっきはエトアラ嬢に「精進なさるといいわね」とかいわれちゃったしなぁ……「魔力操作狂い」との呼び声高い俺が舐められちゃいかんだろうし、頑張ろう!

 そんなわけで、魔法と剣術の練習を並行しておこなった。

 まあ、魔力操作は無意識的にできるよう常に練習を心掛けているが、魔法と剣術を同時に扱うにはやっぱりそれなりの困難さがあるからね。

 気合のこもった一振りを放とうとすれば、ふっと魔法への意識が疎かになるなんてこともしばしばだしさ。

 そんなこんなで、夕方まで練習に打ち込んだ。


「……はぁ、今日はこんなもんかな? さて、シャワーを浴びて、夕食へ行きますかね!」


 そんな感じで汗を流してから、男子寮の食堂へ向かった。


「聞いたか! ビッグニュース、ビッグニュース!!」

「あぁ、魔力操作狂いの奴とエトアラさんの話だろ? もう知ってるよ」

「今一番ホットな話題ですからねぇ?」

「うむ、この学園にいて知らないほうがどうかしているといってもいいだろう」

「……あ、そう」

「おいおい、そうガッカリしなさんな」

「そうですよ、僕らもちょうどその話をしていたところですし」

「……そして、その話題の人物がほら、お出ましのようだぞ?」


 男子たちのヒソヒソ声と好奇の視線が、食堂にやってきた俺を出迎えた。

 まあ、どうウワサされても別に構わないっちゃ構わないんだけどね。

 とりあえず、まだロイターたちはいないようなので、適当に空いてる席に座る。

 フッ、男子たちよ……存分にザワザワしたまえ。

 そんな俺の思いが伝わったのか、改めてヒソヒソやり出す男子たち。


「……それにしても、あのエトアラ先輩も思い切ったことをしたよなぁ?」

「確かに……そして、トキラミテ侯爵家まで出てきたとなったら、ほかの下位貴族の令嬢たちは遠慮して奴に声をかけづらくなったかもしれないな」


 なんと! それは朗報!!


「う~ん、それはどうですかねぇ? もちろん、そうなったほうが僕らとしてはありがたいですよ。でも、かえって彼の下に殺到するかもしれません……これから誕生するかもしれない巨大な派閥入りを期待してね」


 えぇ……そうなの?


「うむ、それもあり得るな……となると、それをエトアラ嬢がどう感じるか、その見極めが大事になってくるだろう」

「しばしの様子見か……いや、早めに動いたほうが美味しいポジションを得られる確率が高まることを考えれば、賭けに出る子もいるだろうなぁ……」

「……なあ、これって令嬢たちだけの問題じゃなくねぇか?」

「そうだなぁ……俺たちも身の振り方を考えるべきかもしれん」

「……今さら感もありますけどねぇ?」

「うむ……」


 いやいや、そんなに思い詰めんでいいからね?

 そんな彼らの話に、新たな男子が加わるようだ。


「ヤッホー! 君たちにすんげぇ情報を持って来てやったぜ!!」

「どうせ魔力操作狂いとエトアラ先輩のことだろ? 知ってるって、俺もついさっきそれで恥をかいたんだからな!」

「ノンノン、そんな情報もう古いぜ! ワッハッハ、聞いて驚け! あのソエラルタウト侯爵子息とモッツケラス侯爵子息が電撃的に友誼を結んだ!!」

「な、なんだとォ!?」

「おい! ウソだろ……」

「い、一体……この学園で今、何が起こっているのでしょうか……?」

「これこそが……ビッグニュース」

「あぁっ! それを今いうなんて、ひっでぇ……」

「まあまあ、そんなこといいじゃないか」

「そうですよ……それで、確かな情報なんでしょうね?」

「ああ、冗談でしたでは済まされんぞ?」


 まあ、セテルタも前期からAクラスだったのだから、そりゃ侯爵子息の可能性もあるわな。

 それにあのときもエトアラ嬢に食ってかかってたぐらいだし、同格以上でなきゃあんなマネはできんかっただろうさ。

 ……しかしコイツら、驚き過ぎじゃね?

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