第496話 友情が芽生えた
エトアラ嬢と別れ、食堂の入口付近でしばしぼーっとしていた。
まあ、いろいろと驚きの展開だったからね……
そして改めて思い返してみるが、俺も一応魔力圧を強めたりして対抗はしていたつもりだ……にもかかわらず、エトアラ嬢は怯むことなく自説の披露を続けていた。
これはなかなかの胆力といえるだろう。
とはいえ戦闘用ではないし、女性ということで手加減をしていたことも確かではある……それでもやはり、侮れない相手と評価してよかろう。
そんなことを考えていると、つい最近俺の印象に残った男子の姿が目に付いた。
「セテルタ様、今日はご一緒していただき、ありがとうございます」
「こちらこそ、楽しいひとときをありがとう」
「……その、もしセテルタ様がよろしければ、またお会いしとうございます」
「ああ、構わないよ、そのときを楽しみにしている」
「なんとお優しいお言葉! 感謝いたします!!」
「ハハッ、そんな大げさな。それじゃあ、また会おう」
「はいっ! それでは、失礼いたします!!」
ふむ、セテルタ君も女子とランチだったようだ。
見たところ、セテルタ君は割と当たり障りない言葉のチョイスだったように思うが、相手の女子はメロメロって感じだった。
さっすが、モテる男! といったところかな?
そんなふうに、なんとなくセテルタ君を眺めていると、向こうも俺に気付いたようだ。
「……やあ、アレス君」
「おう、セテルタ君! なかなかモテ男のようだね!! さっきの女子なんか、目がハートマークだったよ?」
「いやいや、それほどでもないさ。それに君だって、さっきは凄かったじゃないか……」
なんていいながら、セテルタ君は苦笑いを浮かべる。
「ま、まあ……俺もちょっと、急展開だなって思わずにはいられなかったね……」
「ホントにそうだよね! まったくあの家は……勝手な都合ばかりを他家に押し付けようとする、困ったもんだよ!!」
「お、おう……」
さっきまでの穏やかな雰囲気が急変した……ちょっとコワいよ、セテルタ君……
「……おっと、急に大声を出してごめんね。あの人……あの家の横暴さを見ていたら、なんだか腹が立ってきちゃって……」
「い、いや……オッケーさ」
俺の戸惑いを感じ取ったのか、セテルタ君は声を落ち着いた調子に戻して言葉を続ける。
……でも、体から発せられる魔力の感じは怒気をはらんでいる。
「……さっきの話を受けるかどうかっていうのは、もちろんアレス君が決めるべきことなんだけど……それでも、あえていわせてもらうなら、無理しないでね?」
「ふむ……」
「確かに、アレス君にとっても悪い話じゃないとは思うんだ……でもね、それは後継者として確定すればの話さ。あの人にはほかに蹴落とすべき候補者がいる。その彼らがどんな相手を見つけるか、それによっては……どんな不幸に見舞われるか分かったもんじゃない」
「なるほど、だから俺に精進しろってことだったのか……ほかの奴に負けないぐらいの功績を立てさせるために」
「うん、きっとそうだろうね……まあ、アレス君ならその点は意外と大丈夫な気もするんだけどさ」
「フッ……その辺の奴に負けるようなヤワな鍛え方をするつもりはないからな!」
というより、主人公君がどこまで育ってくれるか分からないので、「俺が魔王を倒す!」ぐらいの意気込みが必要かなっていう思いもあるんだよね。
「ハハッ、頼もしいねぇ! ただ、貴族の世界は力だけじゃないから……特にこれからはその傾向が強いかもしれない」
「ああ、それはそうなんだろうなぁ……」
「まあ、現状ほかの候補者一派がソエラルタウト家と揉めることを覚悟してまで君にちょっかいをかけてくるとは思わないけど、そういったことも注意しつつ、どうするか考えたほうがいいんじゃないかな」
「そうか、忠告ありがとう」
「とはいえ……ここまでいっておいてなんだけど、余計なおせっかいだったよね」
「いやいや、そんなことないさ! それに、今まであんまり絡んだことなかったけど、今日はセテルタ君と話せてよかったと思ってるし!!」
「そういってもらえて嬉しいな……ああ、そういえば、僕のことは『セテルタ』と呼び捨てでいいよ」
「そうかい? なら、俺のことは『アレスクン』でいいよ!」
「……えっと、どう違うんだい?」
「それはもう、『君』と『クン』じゃえらい違いだよ! なんていうのかな……独特の甘い響きがプラスされるっていえばいいのか……」
「そ……そうなんだね?」
たぶん、ロイターたちなら鋭いツッコミを入れてくるところなんだろうけど、セテルタは若干引いてる……
ま、まあ、本格的に絡んだのは今日が初めてだからね! しょうがないよね!!
「ゴメンゴメン……冗談なんだ。俺のことも『アレス』と呼んでくれたらいいよ!」
「うん、分かった」
「それじゃあ、改めてよろしくな! セテルタ!!」
「こちらこそよろしく! アレス!!」
こうして、新たな男の友情が芽生えたのだった。
「はぁっ……とても美しいものを見せてもらったわ……」
「……いい」
「このとき、この場所、この運命に巡り合えた幸せに感謝」
「そうね……今まで生きててよかったわね」
「あんたら、そればっかり……」
……俺たちの友情の握手に魅せられた令嬢たちもいたようだった。
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