第731話 隙ともいえないような一瞬を狙って

『刺突! 刺突! 息もつかせぬノアキア選手の連続突き!! そのレイピア捌きに、華麗という言葉はノアキア選手のためにあるのではないかと思わされるほどですッ!!』

『ナウルンさんのおっしゃるとおり、実に見事なレイピア術だと思います……ですが、ファティマさんの鉄扇術も負けてはおらず、もともとの敏捷性の高さも相まって上手く対処できていますね』

『う~む! ノアキア選手の巧みなレイピア術をもってしても、ファティマ選手を捉えるのは難しいかッ!?』

「当然だ! ファティマちゃんを舐めんな!!」

「鉄扇はリーチこそ短いが、取り回しの良さではレイピアを上回るだろうからな! そう簡単にはヒットしないっつーの!!」

「しかも何より! ファティマちゃんの小柄さが回避力を高めてくれているのさ! どうだ、まいったか!!」

「そうさ、ファティマちゃんは全身に無駄なものが一切ないパーフェクトガールなんだ! その辺の無駄なウエイトを抱えた奴らとは違うんだ!!」

「余計なものを削いで、削いで、削ぎ続け……やがて本当に大事なものだけが残ったとき、究極の美へと到達する……その究極の美の体現者こそがファティマ嬢なのだろうな……」

「おう、ファティマちゃんのことをこれ以上ないぐらい的確に言い表してるじゃねぇか! やるな!!」

「いや、それほどでもないさ」

「なんだよ、照れなくてもいいじゃねぇか」

「うん、なんだかボク……キミの言葉を聞いて、思わず涙が込み上げてきちゃったよ……」

「ファティマ様の美しさは至高……それこそが、この世の真理……」


 うむ、ファティマの回避能力の高さは、魔法なしの物理戦闘オンリーで模擬戦をやっていることもあって、俺も実感しているところだ。


「うわぁ『究極の美』とか……キモッ!!」

「あんなチンチクリンのチビ女がパーフェクトガールって……あの男共、シュミ悪過ぎぃぃぃぃっ!!」

「ホントよねぇ? なんでこう、男共ってそろいもそろって見る目がないのかしら?」

「ああいうキモい男ばっかりになっていったらと思うと……この王国の行く末が心配になるわ……」

「そうねぇ……さすがにパルフェナとかが相手だったら、ウチらとしても負けを認めてあげなくもないんだけどさぁ……」

「確かに……私もあの子には、ちょっと勝てないなって思っちゃう……」

「ていうかさ、そもそも真っ平ら加減でいえば、ノアキアもいい勝負じゃない?」

「キャハハッ! いえてる~っ!!」

「まあ、身長はノアキアのほうが高いから、あんまりチンチクリンって感じはしないけどね?」

「うん、ノアキアはどっちかっていうと、スレンダーでカッコいいの部類に入る気がする」

「そういえば、カッコいいで思い出したけど……女子の中には、ノアキアを慕ってる子がいるらしいよ?」

「ああっ! 確かにノアキアさんって、ちょっと凛々しい感じするもんね!!」

「ねぇ、その『慕う』って……もしかして?」

「ふふっ、そう……ご想像のとおりよ」

「マジかぁ……」

「えぇっ! それって誰? 誰なの!?」

「それがさ……私もウワサで聞いただけだから、実際に誰がノアキアを慕ってるのかっていうところまでは分かんないのよね……」

「種族の壁も性別の壁も超えて……うぅ~ん、ロマンチック!!」

「でもまあ……恋愛感情とかそういうのはともかくとして、エルフ族の美しさに憧れる気持ちは理解できるわぁ……」

「私も! できることなら、あんな美人になりたかったなぁっ!!」

「ま、アンタの場合は美人系っていうより、カワイイ系って感じかなぁ?」

「えっ! ホント? 私ってカワイイ!?」

「まあ、それなりにね?」

「そっかぁ、カワイイかぁ……えへへ……」

「あー、あんまそういう、ぶりっ子は控えといたほうがいいよ?」

「そんなぁ! 私、ぶりっ子なんかしてないよぅ!!」

「あー、はいはい」


 パルフェナって、ファティマと同じぐらい女子たちから嫉妬を集めてもおかしくなさそうなのに、あんまりそんな感じはないんだよなぁ……

 まあ、パルフェナのほうが人当たりはいいから、その辺の差もあるのかねぇ?

 とはいえ、その人当たりっていうのもミスると八方美人って反感を買いそうだけど……パルフェナはそこんところも上手くやれてるってことなんだろうなぁ……

 それから、俺からしてみればノアキアも普通にキレイな子ってぐらいの感覚なんだけど……この世界の美的感覚からすれば、貴族令嬢ですら認めるレベルで秀でていることになるようだ。

 でもまあ……それはおそらく、原作ゲームの制作陣が「エルフは美しい!!」ってイメージを強固に持っていて、それが世界に反映されているんだろうなって思う。


『ここでファティマ選手! 鋭いカウンターッ!!』

『隙ともいえないような一瞬を狙って、果敢にカウンターを入れに行きましたか……さすがですね』

『しかしノアキア選手! なんとか障壁魔法が間に合ったようです!!』

『実に惜しかったですねぇ……しかしながら、あの一瞬を狙えたということは、ファティマさんはノアキアさんのリズムをつかみかけているのかもしれませんね』

『リズムをつかみかけている!? となると、ここからはファティマ選手が攻める番となりそうですね!!』

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