第730話 あなたの見立てどおり

「ふぅん、なかなかやるじゃない……といってあげてもいいけれど、これはまだ小手調べの魔法……それに対応できただけで有頂天になってもらっては困るわよ?」

「ええ、安心してくれていいわ……私もまだ、小手調べの段階だから」

「うふふ、いってくれるじゃない……それでこそ……ッ!!」

『おぉっと! ノアキア選手の背後に突然2人目のファティマ選手が出現し、鉄扇を一閃!! だが、しかし! ノアキア選手は見事に回避しましたッ!!』

『どうやらファティマさんは魔法を撃ち合っているあいだに幻影とすり替わり、ノアキアさんの背後を取ったのでしょう』

『なるほど! 準決勝のゼネットナット選手との対戦でも使っていた幻影魔法ですね!?』

『はい、実に上手くすり替わったものです……ですが、ノアキアさんもさるもの、きっちりと見抜くことができたようです』

『うぅ~む、一度見て予測できていたとはいえ、素晴らしい対応力ですね!?』

『はい、来ると分かっていても対応できない……なんてことも往々にしてあるのにもかかわらず、それだけでなく高い技術力を持ったファティマさんの陽動による攻撃でしたからね……ノアキアさんの対応力を褒めるしかないといえるでしょう』


 まあ、ファティマは隙を突いた攻撃とか得意だもんねぇ……


「ファティマちゃんの幻影魔法……気付かなかった……」

「俺も……どのタイミングですり替わったのか、全く分かんなかったぜ……」

「凄いよ、凄い! ファティマちゃんは大天才だねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

「それにしても、あのエルフ族相手に幻影魔法を仕掛けるだなんて……ファティマさんのチャレンジ精神には恐れ入りますねぇ」

「まあ……普通は無理だと思ってやらんわなぁ……」

「今回は残念ながら決まらなかったが、ファティマちゃんならいずれ決めてくれるって気がしてくるよな!?」

「もちろんだよ! ファティマ様は至高の存在だから!!」

「そうだ! そうだ!!」

「ファティマちゃんに不可能はないッ!!」


 ふむ、確かにエルフ族は魔法が得意だから、見破られる可能性は高いだろうね……

 とはいえ、それはエルフ族に限ったことではなく、魔力操作等の鍛錬をしっかり積んでいる者なら誰でもといえるだろう。


『さぁて、ファティマ選手の一閃により、舞台上は魔法の撃ち合いから物理戦闘へ移行したようです! そこでスタンさん、これはやはり魔法戦闘より物理戦闘のほうが有利だとファティマ選手が判断してのことと考えていいのでしょうか?』

『確かに、ノアキアさんは魔法戦闘のほうが得意といえそうですが……とはいえ準決勝でのパルフェナさんとの試合を観ても分かるとおり、物理戦闘が全くの不得意というわけでもありませんから、それだけでファティマさんの有利と言い切るわけにはいかないでしょう』

『おっしゃるとおり、ノアキア選手にはパルフェナ選手の物理攻撃を見事耐えきったという実績がありましたね……』

「お願いだ、ファティマちゃん! パルフェナちゃんの無念を晴らしてくれぇっ!!」

「そして! 俺たちの無念も一緒にッ!!」

「くぅぅぅっ! あとちょっとだったんだ! あとちょっとでパルフェナちゃんが決勝の舞台に立っていたっていうのにぃっ!!」

「パルフェナさんの闘う姿……もう一度見たかったな……」

「嗚呼、豊穣の女神よ……痩せ果てた大地にお恵みを……」


 パルフェナヲタたちは、パルフェナの友達であるファティマの応援に回っている。

 とはいうものの、やっぱりパルフェナが決勝の舞台に上がっていないことについての嘆きを抑えきれないようだ……


「私とパルフェナの試合を観ていたのでしょう? それなのに、よく物理戦闘を仕掛けてくる気になったわね……私の見立てでは、あなたの物理戦闘能力はパルフェナに及んでいないわよ?」

「まあ、あなたの見立てどおり……パルフェナのほうが物理戦闘は得意かもしれないわね……」

「あら、それを分かっていて物理戦闘を仕掛けてきたというの? 不思議な子ねぇ……」

「別に、不思議でもなんでもないわ……ただ単純に、パルフェナの攻撃を耐えきったあなたのレイピア術を私も体験してみようと思っただけのこと」

「ふぅん……それなら、存分に味わうといいわ! ただし、そんな余裕もいつまで持つかしらね!?」

「ふふっ、それはあなたの技術をひととおり学び終わるまで……といったところかしら?」

「まあっ、自信家だこと! でも、いいのかしら? 私だって、あなたの技術を学び尽くしてしまうわよ?」

「あら、プライドの塊みたいなあなたが、私から学ぶ気があっただなんて驚きだわ……思ったより謙虚だったのね?」

「……ふ、ふふっ……本当に口の減らない子ねぇ」

「どういたしまして」

「褒めたわけじゃないのだけれど……ねぇッ!」

「……ッ!! ……良い突きね、今みたいのをもっと見せて欲しいわ」

「では、ご希望どおり! 見せてあげるわッ!!」

『ファティマ選手のリクエストに応えて、ノアキア選手の連続突きが繰り出されましたッ!!』

『速いだけじゃなく、一つ一つの突きが正確……なんとも卓越した連続突きですね』

『しかしながら! ファティマ選手も巧みな鉄扇捌きで丁寧に防いでいきますッ!!』

『うん、よく視えていますよ』

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