第732話 物理戦闘の経験が豊富に違いない!!

『……またしても! ファティマ選手の一閃がノアキア選手を襲ったァッ!!』

『徐々にですが、カウンターを繰り出す頻度が上がっていますね』

『それはつまり! ファティマ選手の読みの精度がどんどん上がり、完璧に近付きつつあるということですね!?』

『この攻防だけで完璧に読めるようになるのは難しいと思いますが、確実に精度は上がっていると見ていいでしょう』

『なるほど! では、そろそろファティマ選手の本格的な反転攻勢が期待できそうですね!!』

『はい、このまま物理戦闘を続けるのであれば、時間の問題だと思います』

「よっしゃ! いいぞ、ファティマちゃ~ん!!」

「おいおい、ファティマちゃんを誰だと思っているんだよ……どんな攻撃だって、完璧に読めるに決まってるだろ?」

「というかさ、ファティマさんは毎日アレスさんとかロイターさんたちと模擬戦を繰り返しているんだよ? いくらノアキアさんのレイピア術が優れているといっても、彼らに比べたらそれほどじゃないでしょ」

「ああ、しかもご丁寧に物理戦闘オンリーの模擬戦とかもやってるみたいだしな! むしろ、ファティマちゃんのほうがノアキアより物理戦闘の経験が豊富に違いない!!」

「ファティマ様、そろそろノアキア嬢のレイピア術もラーニング完了と判断してもでよろしいのでは?」


 まあ、もともと物理戦闘オンリーの模擬戦は魔法が使えなくなったときの保険みたいな感じで始めた気がするんだけどねぇ……

 そして俺は、レミリネ師匠との出会いによってより深く剣術を学ぶ気になった……少し前のことなのに、あの日々がとても懐かしくなってくるよ……

 レミリネ師匠……貴女の授けてくれた剣術は、俺が武闘大会で優勝するにあたってとても力になってくれました、ありがとうございます。

 こうしてレミリネ師匠に感謝の祈りを捧げていると、シュウが話しかけてきた。


「アレス君……今、レミリネのことを考えていましたね?」

「ああ……もしかして視えたのか?」

「はい、少しのあいだですが、いつもより濃く視えましたよ」

「そうか、想いが届いたんだな……よかった」


 それにしても、俺自身は眼にどれだけ魔力を込めてもレミリネ師匠を視ることができないんだよなぁ……

 そう考えると、シュウの魔眼は本当に特別な能力を持っているのだろう。

 そんな魔眼に羨ましさを感じないではないが……かといってシュウですら制御に苦労しているようなので、いいことばかりではないのだろうなとも改めて思うのだった。


「もうっ! ノアキアも動きが読まれてるんだったら、いつまでも物理戦闘にこだわってないで、さっさと魔法を使えばいいのにぃっ!!」

「そもそも論として、獣化したゼネットナットの猛攻ですらファティマのクソ女は潰せなかったんだから、あんなふうにノアキアがチクチク突いた程度じゃどうにもならないでしょうに……」

「確かにそうよねぇ、意外とノアキアって頭が固いのかしら……」

「どうせ『私は魔法だけじゃなく、レイピア術も超一流よ!』とか思ってるんでしょ……だから決まらないのが悔しくて魔法戦闘に切り替えられないのよ、きっと!」

「ていうか、その超一流のレイピア術っていっても、既に準決勝でパルフェナに押されてたと思うけどね……」

「この程度の試合では全然駄目よ……早く! 早くあの子の苦痛に歪んだ顔を魅せてちょうだぁぁぁぁぁいッ!!」

「そ……そうそう! ファティマの泣きっ面を早く!!」

「でも、ナウルン君とスタン君の話では、ここからファティマさんの攻勢が始まるみたいだよ?」

「はぁ? そんなん、ノアキアがくだらない意地を張らなきゃ、魔法でドカンと一発でしょ!!」

「そうはいってもさ、ファティマさんだって魔法が得意なんだから、そう簡単にはいかないと思うんだけどなぁ……」

「何いってんのよ! エルフ族のノアキアに、魔法でかなうわけないでしょ!!」

「まったく! アンタはサガることばっかいうんじゃないの!!」


 ファティマアンチの令嬢たちは失念しているようだが……2回戦でファティマは、エルフ族に匹敵するぐらい魔法の得意な魔族であるズミカを破っているのだ。

 よって、種族だけで判断するのはどうかと思うぞ?

 ただまあ、ズミカよりノアキアのほうが練度は高いと思うけどさ……


「ふぅん、ここまでやるとは……あなたの物理戦闘能力もそれなりに高いということは認めてあげようじゃない」

「そう? ありがとう」

「でも……それだけよッ!」

「……ッ!!」

『あぁっと!? ファティマ選手、これまでは最小限の動きで対処しながらカウンターを狙うというスタイルでしたが、急に回避行動が大きくなりました!!』

『ふむ……どうやら、ノアキアさんはレイピアに風属性のトルネードを纏わせて突きを放ったようですね』

『なるほど! 刀身ではなく、トルネードに抉られる危険があったから、回避行動が大きくなったわけですか!!』

『はい、そのとおりでしょう』

『それにしても、ファティマ選手はトルネードによく気付くことができましたね? 普通なら、それまでに慣れつつあった最小限の動きで回避しようとしたでしょうに……』

『惰性に流されず、しっかり視ていた……そして、とっさの勘も上手く働いたのだと思います』


 まあ、ヴィーンとの模擬戦によって、フェイントへの対応力も磨かれていただろうからねぇ……

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