第791話 組演武

 夕食を終え、今日も元気に練習会といきますかね!

 というわけで、運動場に集結した俺たちは準備運動としてランニングから始める。

 そこでなんとなく、走りながら参加者たちに目を向けてみた。

 さすがに1週間も経てば新規の参加者が減ってきたものの、それでも数人は初参加の子がいる。

 こちらとしては、いつでも参加歓迎なので、興味が湧いたらいつでも来てちょうだいって感じだ。

 そして、先週の地の日から参加している子の様子を見てみたところ、もともと運動などの身体を動かすことに力を入れてこなかった子でも、日に日に軽快な走りを見せるようになってきているようだ。

 おそらく本人の感覚としても、身体の調子が1週間前より上向いているのを実感できているのではないだろうか。

 そう思うと、このまま自身の成長を楽しめるようになっていってもらいたいものだ。

 ただ、今はまだ眠っていた身体が起き始めているところだったり、簡単にレベルが上がりやすい段階だったりするだろうから、それが過ぎて停滞期がきたときに「つまんな!」ってならないよう、モチベーションの維持にこちらとしても気を付けていかねばなるまい。

 前世でも、学校の先生が「人は階段状に成長していくものだから、成績が伸び悩んでいても腐らず勉強に取り組め! ガツンと伸びるときが必ず来る! その繰り返しだ!!」とか言ってたもんね。

 といいつつ魔力操作に関しては、自身の魔力を注意深く観察してみると本当に微々たる量ではあるが、やったらやっただけ増加しているのに気付くことができるので、俺としてはモチベーションの維持は比較的楽なんじゃないかと思っている。

 ……まあ、それが微々たる増加過ぎてイヤになっちゃう奴が続出していたのが、今までの状態だったみたいだけどさ。

 加えて、魔力操作に習熟していないと日々の微々たる増加に気付くことも難しいので、「成長できた!」っていう実感はやっぱり階段状になってしまうのかもしれない。

 まっ! とにかく、みんなのやる気を刺激し続けられるよう、こっちも頑張るしかないだろうね!!

 そんなことを考えつつウォーミングアップを終え、素振りを始める。

 また、ここから「一般コース」と「基礎からコース」に別れての練習となる。


「それじゃあロイターにサンズよ、今日も基礎からコースのほうを頼んだぞ!」

「ああ、任せろ」

「おそらく、今日も何人かは一般コースに上がれるかと思います」


 この、ロイターとサンズから直接教えてもらえるって状況に喜びを見出している女子も少なくない。

 ただ、武系貴族出身の女子なんかだと、本人は剣術などの戦闘技術に興味がなかったとしても基礎程度は叩き込まれていることが多く、「うちが武系でなければ……」なんて呟きをこぼす子も、まあまあいる。

 それについて、こちらとしては基本的にコース選択を自己判断に任せているので、別に基礎からコースを選んでもらっても構わない。

 しかしながら、そこはやはり貴族のマウント合戦が絡んでくるというべきか……あまり実家の恥になりそうなことはできないらしい。

 でもまあ、基礎からコースは本当に最低限の基礎だけだから、そうかからずに一般コースに上がってもらうことになるはず……だから、そうガッカリしないでくれたまえ。

 そんなこんなで、素振りや体捌きなどの基礎的な動きの練習をしてから型の練習に入る。

 そこで、いつものようにまずは見本として俺が単独演武で型を見せ、その後ポイント等の解説をする。

 そうして各自の練習に移り、講師役が周囲を練り歩きながら個別に指導を加えていく。

 しばらくしたところで、また全体を集め……


「ではヴィーン、相手を頼む」

「……分かった」


 それまでは1人でやる単独演武だったが、今度は2人でやる組演武である。

 そこで、夏からの模擬戦メンバーの中で一番模倣能力に優れていて、レミリネ流の動きを高いレベルで再現できるヴィーンに相手を頼み、組演武でみんなに型を見てもらう。


「……凄い! 息ピッタリ!!」

「な、なんて美しさなのかしら……」

「これを本当に……武術と呼んでいいの?」

「まるでお2人が、優雅にダンスを踊っているみたい……」

「できることなら、永遠に観ていたいぐらいだわ……」

「アレス様に教えてもらった眼に魔力を込める方法で……余すところなく眼に、そして心に焼き付けるのよ! 私!!」

「ウチもッ!!」


 俺が日頃からイメージのレミリネ師匠に稽古を付けてもらっているように、みんなも鮮明なイメージができるようになったらいいだろうね!


「やはり、アレス様にはヴィーン様が一番合う……」

「アレス様とロイター様の組み合わせこそが至高という私の信念に揺らぎはないつもりだけれど……ヴィーン様との組み合わせも悪くないことは認めざるを得ないわね……」

「こんな間近で……幸……せ……」

「あら、いけない……ここで気を失ってしまうのは、もったいないわよ?」

「あ、ああ……そうでした……支えてくださり、ありがとう存じます」

「ふふっ、気にしなくていいわ……だって私たち、同じ道を歩む仲間でしょう?」

「仲間……ええ、そうですね」


 ま、まあ、趣味趣向は個人の自由だけど……とにかく、レミリネ流もしっかり学んでくれよな!?

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