第792話 疲れが少々顔に出てしまっていたのでしょう

「これが……レミリネ流剣術の二刀流……なのですね……」

「うむ、実際にやってみてどうだ?」

「分かっていたことではありますが……剣が一本増えたぶん、左右にそれぞれ意識を割かなければならないので、独特の難しさがありますね……」

「ああ、そうだろうな……だが、今日初めて二刀流に挑戦したにしては、なかなかスジがよかったように思うぞ?」

「本当ですか!? 嬉しいです!!」

「そして、これから鍛錬を重ねて徐々に慣れていけばいいさ……俺も、慣れるまではそれなりに苦労したしな」

「えぇっ! アレス様でもですか!?」

「もちろんだ」

「じゃあ私も! もっともっと努力しなきゃですね!!」

「その努力が苦しいものではなく、楽しいものとなるよう願っているよ。そして、練習していて何か困ったことがあったら、遠慮せず相談してくれ」

「はい! ありがとうございます!!」


 襲いかかってくるモンスターが普通に存在するこの世界では、剣術など自衛するための技術を磨いておいて損はないと思う。

 それに貴族ともなれば、移動中に盗賊から狙われる可能性だって高いだろうし。

 とはいえ、護衛が付いているから大丈夫って考えることもできるかもしれないが……異世界ファンタジーにおいて、盗賊に襲われている馬車を助けるっていうシチュエーションはデフォだからね。

 ついでにいうと、その馬車に乗っていた少女がヒロインでしたってこと……よくあると思います!

 とりあえず俺は、今のところそういったあからさまな馬車救援イベントに遭遇していないが……もしあったら、馬車に乗っているのが小娘ではなく、お姉さんだったらいいなぁって感じだ。

 そんな俺のささやかな希望はともかくとして……剣術に費やす努力は、それなりにリターンのあるものだと俺は思うので、ぜひとも頑張ってもらいたいものである。

 そんなこんなで、ほかの子に目を向けてみると……


「……はぁ……はぁっ……もうだめぇ……腕が上がんないぃ……!」


 そう言いながら、握っていた木剣を手から落としてしまった子がいる。

 それを拾ってやりつつ……


「大丈夫か?」

「はわわっ! あ、ありがとうございましゅ! アレスしゃまっ!!」

「そう慌てず……ひとまず深呼吸をして落ち着こうか」

「ひゃいっ! すぅぅっ! はぁぁっ! すぅぅっ! はぁぁっ!!」

「ゆっくりでいいからな?」

「はぁいっ!!」


 う~ん……緊張し過ぎだねぇ……


「すぅ……はぁ……もう、大丈夫ですぅ! お気遣いに感謝いたしますぅ!!」

「うむ、限界ギリギリまで頑張っていたようだな?」

「はっ、はいぃ! 腕がもう、パンパンですぅ!!」

「そうか……ならば……」

「はわっ! はわわっ!? 温かいですぅ……アレスしゃまぁぁ……」


 軽く回復魔法を施した。

 まあ、ケガというほど深刻な状態でもないので、本当に軽くって感じだ。


「ま、これぐらいでいいか……」

「あっ、ありがとうございましゅぅぅぅ……」


 顔が緩みまくりだね……


「回復魔法まで習得せずとも、魔力操作で全身に魔力を巡らせれば、いくらか疲労も軽減させることができるのでオススメだ」

「はっ、はいぃぃっ! 頑張りますぅっ!!」

「うむ」


 まあね……回復魔法の習得は精神的なハードルがかなり高いので、気軽に勧めるわけにはいかないよねぇ……

 とはいえ、魔力操作による疲労軽減の延長線上にある技術だとは思われるので、それで下地作りには役立つだろう。

 ま! 結局のところは魔力操作が全ての土台ってわけだね!!

 そんなことを思いつつ、さらに見回っていると……うん?

 我が心の同志であるワイズ・メイルダントが、どことなく元気がないように見える。


「……ワイズよ……顔色が優れないようだが、大丈夫か?」

「おお、アレス殿……ハハッ、私もまだまだ鍛錬不足のようで、疲れが少々顔に出てしまっていたのでしょう」

「ふむ……そうなのか?」

「ええ! そのため少し休憩すれば、顔色も元に戻りますとも!!」

「そうか……くれぐれも無理をし過ぎないようにな?」

「アレス殿の心遣いに、かたじけなく思います」


 多少魔力に揺らぎを感じないでもないが……ワイズが大丈夫だと言っているのに、無理にグイグイ行くのもなぁ……

 とりあえず今は様子を見るにとどめて、揺らぎがもっと深刻そうな状態になったとき、改めて声をかけるとするかな。

 そんなこんなで二刀流の型練習を終え、本日の学びを模擬戦形式の打ち合いで確認してもらう。

 そして、それが終わったら最後に……


「皆、今日もよく頑張ったな! そこで思いっきり酷使した身体をいたわる意味でも、入念に魔力操作をしようじゃないか!!」

「やっぱり、魔力操作は絶対なのか……」

「まっ! 魔力操作はアレッサンの代名詞みたいなもんだからなぁ」

「でも僕、部屋で独りでやる魔力操作はクソつまんないって思っちゃうけど、こんなふうにみんなで一緒にやるのは意外とイヤじゃなかったりするんだよね」

「ああ、それは俺もちょっと分かる」

「おそらくだが、孤独な戦いという感じが薄まるのが良いのだろうな」

「そっか! なるほどねぇ」

「……さて、各自準備は整ったな? それでは開始!!」


 魔力操作の習熟度がある程度上がってきたら、魔力交流にスイッチしてもいいかもなぁ。

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