第59話 急に怯えを見せ始めたな

 本日闇の日、前世で言うところの土曜日で学園はお休み。

 さて、まずは毎日のルーティンである魔力操作音読ウォーキングに取り組もう。

 今日の音読教材はいつもの教科書ではなく、昨日ロアンナさんにもらった解体手引きの冊子にするつもり。

 昨日の夜もしっかり読み込んだから、ある程度は頭に入っているつもりだが、それでもやっぱり余裕を持って演習をこなしたいからね。

 もちろん、指導してくれる解体士から「初めてにしては筋がいい」とか言われたいなっていう気持ちも地味にある。

 そんな感じで朝の澄んだ空気の中、朝練を行った。

 そしてウォーキング中、俺とすれ違う奴みんなギョッとした顔をする。

 一瞬、そんな顔をされなきゃならんほど嫌われているのかと思いかけたけど、おそらく解体手引きの内容が聞こえてしまったからだろうね。

 すれ違いざまに「内臓を取り出す」とか聞こえたら……まぁ、そんなリアクションになっちゃうのも仕方ないかな。

 そうして朝練が終わり、シャワーと朝食を済ませ、昼の解体講習まで久しぶりにモンスターの討伐に行こうと思う。

 たぶん、ゴブリンの在庫はまだまだあるんだろうけど、多くて困ることもあるまい。

 あと、オーク狩りにも挑戦しとこうかなって思う。

 別に今の俺にとってオークなんぞ脅威でもなんでもないから、挑戦って言い方は大げさかもしれないけどね。

 そんなことをつらつらと考えながら、学園都市周辺に広がる森に到着。


「さ~て、狩るぞぉ!」


 まずは魔力探知でモンスターの反応を探す。

 あれ? ゴブリンらしき魔力が俺の薄く伸ばした魔力に触れた途端に慌てて逃げ出して行く……前はこんなことなかったのに、どうなってるんだ?

 試しに魔力を極限まで薄くしてみても触れた瞬間に逃げ出す。

 闇属性の魔力で隠密性を高めてみてもそれは同じ。

 俺も異世界で強くなりすぎたかと思いかけたが、他のモンスターにはそのような反応がない。

 ふむ、原因として考えられるのは、狩りすぎてゴブリン界のブラックリストにでも載ったか? あるかは知らんけど。

 もしくは、ゴブリンヒーローを倒したから……か?

 まぁ、ゴブリン視点だと俺って、勇者を倒した魔王みたいなもんかもしれんしな。

 でも、ゲームでヒーローを倒した後もその種族のモンスターと戦えたはずなんだけどなぁ……その辺はゲームと仕様が違うのかね?

 それとも、ゲームの中でもヒーローを倒された後のモンスターたちは怯えながら死を覚悟して主人公に戦いを挑んでいたとか?

 う~ん、謎だね。

 ま、今度図書館でモンスター学の本でも見てみればいいか。

 それでもわかんなかったらエリナ先生に聞いてみよう。

 とまぁ、ああだこうだ考えはしたけど、探知したゴブリンの魔力にマーキングしてホーミング魔法を撃ち込んで終わりだから、討伐自体はたいした問題じゃない。

 ただ、モンスターだという絶対の自信はあっても視界外からの攻撃って、誤射がやっぱ心配になるんだよね、特に緊急じゃない場合は。

 そして、多少逃げられる分こっちの移動距離が増えるから、それの積み重ねってなると、総討伐数に影響が出ちゃうだろうし。

 仕方ない、ゴブリンの討伐は集団に絞るか。

 あとは、メインターゲットをオークに移して、進行方向上にいるゴブリンだけ相手にするって感じかな。

 そうして、オークらしき魔力反応がある方向に進む。

 オークはゴブリンよりもモンスターとしてのランクが高く、その分強いこともあって、縄張りが少し森の奥の方になる。

 だから、オークを狩るには往復にかかる距離が地味に増えちゃうし、探すのにも当然時間がかかる。

 そんなわけで、オークを狩れるだけの実力を持った冒険者にとってはゴブリンに関わる時間のロスを減らしたくて斬り捨てて終わりにしちゃうんだろうね。

 ま、俺はマジックバッグに放り込んで終わりだから、向かう方向にいる奴は全部回収して行くけどね。

 でもやっぱ、この方法だとゴブリンの討伐数が3桁に行くことはあまりなさそうだね。

 とかなんとか言ってたらオークが登場。


「ブモォ!」

「おお、元気があっていいね! よく身が引き締まってそうだ」

「……ブモォ」

「おいおい、さっきまでの威勢はどうしたんだい?」


 急に怯えを見せ始めたな、ゴブリンに続いてオークもか。

 オークヒーローとはまだ戦っていないのにな。

 やっぱヒーローは関係ないのか?

 まぁいい、つららで眉間を撃ち抜き終了。

 うん、あっけないものだね。

 ただ、ゴブリンよりは耐久力があるのか、貫通するまでに多少時間がかかった。

 とは言え、俺としては誤差の範囲でしかない。

 ふっ、俺もこっちで日々努力を重ねているんだ、これぐらい出来て当然さ。

 そんな風に考えると、レベルの上がった俺のつららに多少耐えられるオークはやはりそれなりに強いモンスターと言えるのだろうね。

 そんなことを思いながら、オークを狩っていく。

 やはりこの世界的にオークはコストが高めなのか、ゴブリンと比べて個体数が少ない傾向にあるね。

 魔力探知で反応を探ってみても、結構離れた位置に点々としている。

 ま、あれだけ美味いんだ、ゴブリンよりもレア率が上がるのは仕方あるまい。

 そして今日は昼までに学園都市に戻らなければならない関係上、あんまり奥まで行く時間がないっていうのも影響している。

 奥まで行くのはもっと時間のあるときにしよう。

 近接戦闘もそのときまでお預けにしておこう。

 それに、オークのお肉が勿体ないから、ぐちゃぐちゃにしてしまわないよう、ミキオ君の名刀モードの精度を高める練習もしておかなきゃだね。

 こう、首をスパッと刎ねられるようにさ。

 あ、それだと、俺自身の腕も上げとかなきゃいけないね。

 うん、やることがいっぱいだな。

 とりあえず、今日の昼からの解体講習で手順を学ぶのは当然のこととして、刃物の扱いに習熟するっていうのもテーマに加えておこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る