第58話 恥ずかしながら

 本日光の日……前世で言うところの金曜日。

 先ほど、エリナ先生と一緒に過ごせる幸せな時間……補習の3日目が終了した。

 ああ、これでしばらくはエリナ先生の研究室に行くオフィシャルな理由がなくなってしまった……寂しい。

 まぁ、魔法の練習をしていくうちに、聞きたいこととかも出てくるだろうから、そのときを楽しみにして、また頑張って行こう。

 よし、それじゃあ、昨日予定していた解体講習について詳細を聞きにギルドに行くとしますかね。

 ロアンナさんはいるかな?


「アレスさん! お久しぶりですね!!」

「ロアンナさん、ご無沙汰しておりました」

「元気でお過ごしなのはゼスから聞いておりましたので、あまり心配はしていませんでしたが……うちの解体部門が特にアレスさんのことを気にしておりまして」

「そのことなら、昨日ゼスから聞きましたよ」

「あらあら、そうでしたか」


 久しぶりに来たということもあって、ロアンナさんに暖かく迎えられた。

 やっぱ、受付嬢はこうでなくちゃだね!

 素敵ですよ、ロアンナさん!


「それで、今日来たのは解体講習について詳細をお伺いしようかと思いまして。恥ずかしながら私、モンスターの解体方法をまったく知らないものでして」

「いえいえ全然恥ずかしくありませんよ、モンスターの解体は面倒だとやりたがらない方も多く……そんな中で積極的に学ぼうとされるアレスさんの姿勢は素晴らしいことだと思います」

「褒めてもらえて、嬉しいです」

「うふふ、本当にアレスさんは真面目ですね。さて、解体講習ですが、直近の日程だと明日の闇の日、午後1時からです。明後日の無の日も同じ時間からありますね」

「おお、ちょうどいいときにあってよかった」

「内容としては、まず簡単な説明を行ってから、当ギルドの解体士による解体の実演をします。そしてある程度の流れが掴めたところで実際にゴブリンの死体を使った解体演習に入っていきます。この際も講習生1人に解体士が1人付きますので、わからないところがあればその都度質問していただければと思います」

「なるほど、それは安心ですね」

「そして講習時間ですが、これは講習生によって変わってきます。その理由としては、演習でゴブリンの死体を1体分解体したあとは講習生各自の裁量で講習を終了出来るからです。一応解体士からも出来栄えによって演習の継続を提案いたしますが、あくまでもその判断は講習生本人に委ねられます。もちろん時間が許す限り何体でも続けていただいてかまいませんし、当然のことながら数をこなした分だけ上達は早くなります」

「確かに……それなら明日は昼からずっと解体作業をやる覚悟でいた方がよさそうですね」

「ふふっ、頑張ってくださいね。それと、解体講習には費用がかかりません、しばらくの間は……これはアレスさんの活躍によるものですね。そして、解体の技術がギルドで求められる最低限度に達した場合、そこから解体報酬が支払われるようになりますので、それを目指して頑張ってみるのもいいかもしれません」

「へぇ、それは頑張りたくなっちゃいますね!」

「ふふふ、アレスさんならそう言うだろうなと思いました」

「ははは、ロアンナさんにはかなわないなぁ」

「いえいえ。それでは、明日の解体講習に参加されるとのことで、受け付けました。時間になったら解体兼保管所に直接行き、近くの職員にお声がけください。それから、解体の手引きとなる冊子を予めお渡ししておきます。講習前に読んでおくと、より理解が進むと思います」

「おお、それはありがたいですね、講習までにしっかりと読み込んでおきます!」

「はい、そうされてください」

「さて、それじゃあ、解体講習の申し込みも済みましたので、今日はこれで帰ります。明日またよろしくお願いします、それでは」

「こちらこそ、よろしくお願い致します」


 こうしてギルドを後にした。

 しっかりと冊子を読み込むためにも、今日は街中をブラブラしないでまっすぐ学生寮に帰ろうかな。

 と言いつつ、既に片手にアメリカンドッグが握られているのはご愛敬ということで。

 なんというか、屋台で売られているのが目に入ってね、ふらふら~っと足が向かっちゃった。

 そして、屋台のオッサンにケチャップとマスタードをたっぷりかけてもらって、腹内アレス君も大満足の様子。

 ……いやちょっと待って、帰りながらだから、そんなに時間のロスはしてないから!

 なんか、変に言い訳がましくなってしまったね。

 あ、最近食ってばっかだなと思われるかもしれないけど、食べる総量は昨日のオークの丸焼きは例外として、そこまで増えてないから。

 コイツ、近いうちにリバウンドするぞとか思わないでね?

 ……というか、仮にリバウンドしたところで、俺には異世界式ダイエットという強い味方がいるからね、なにも恐れる必要はないのだよ、はっはっは!

 とか思ってたら、喫茶店で主人公君と王女殿下が談笑している姿が目に入った。

 もうお馴染みの光景って気がしてきたよ。

 主人公君もオーク討伐で稼いだお金でさっそくって感じかな?

 まぁ、ゲームプレイ時もモンスター討伐でお金を稼いでデートで散財っていうサイクルが地味に出来上がってたからなぁ、そんな風に考えたら仕方ないことかもしれないなって思うよ、俺は。

 でもね、それが我慢ならん奴らがね、いるんだよ……

 あっちこっちから恨みがましい視線を主人公君に向けちゃってさ。

 そしてここ数日、エリナ先生との補習で魔力の扱いをより深く学んだせいか、彼らから負の感情を伴った魔力が漏れ出ているのがよくわかるよ。

 主人公君は気付いていないのかな?

 あの手の主人公にありがちな鈍感力でも働いているのかねぇ。

 もしくは「ダッセェ奴らの嫉妬の視線が気持ちイイ!」とか思ってたりして……もしそうならとんだクソ野郎だな!

 いや、ゲームをプレイしてたなら主人公君の性格も知ってるだろと思われるかもしれないけどね、選べる選択肢が男前なのはもちろんのこと、つまんねぇ無難なものや、ギャグとしてアホみたいなもの、クズ野郎丸出しなものとかいろいろあってさ、それの積み重ねだからプレイヤーによって地味にいろいろなのよ。

 だから、あの主人公君がどんな性格なのかはきちんと接してみないとわからないってこと。

 まぁ、俺としては主人公君とつるむ気がないから、それを知る日はほぼ来ないと思うけどね。

 それはともかくとして、あの雰囲気から察するに、彼らの我慢が限界を超えて爆発する日もそう遠くなさそうだ。

 さて、どうなることやら……

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