第57話 なかなかに迫力があるね
2日目の補習も、大変すばらしい時間だった。
そんな思いでいっぱいになりながら、エリナ先生の研究室を後にした。
そして今は、りんご飴を片手にオークの丸焼きを提供してくれる飲食店を探して街中を歩き回っている。
……腹内アレス君がね「待てない」って言うんだ、しょうがないよね。
あとさっき、図書館でオークの調理法の本をちらっと見てみたんだけど、美味しい丸焼きには弱火でじっくりと火を通すのに数時間、下手したら10時間ぐらいかかるみたいで、狩ってすぐっていうのは現実的じゃなさそうだった。
まぁ、味とか気にせず食べるだけなら、火属性魔法を強めに一発決めればいいだけみたいなんだけどね。
やっぱ、どうせ食べるなら美味しい方がいいじゃない?
それに最近の腹内アレス君、味にこだわりが出始めてきてるし……
そんなわけで、専門的なお店で頂くことに決定し、今に至るってわけ。
「旦那じゃねぇですか、なにか探してるんで?」
「おお、ゼス! いいところに!!」
「へ?」
「オークの丸焼きの美味い店を知らないか?」
「もちろん、知ってますぜ! これから行くってんなら、案内しやしょうか?」
「助かるよ。それと、今日の仕事はもう終わりか? よかったら一緒に食べよう」
「へい、お供しやす」
たまたまゼスに会えたのはラッキーだったな。
これで腹内アレス君の満足度もバッチリ高まることだろう。
そうして、お店に連れて行ってもらった。
「いらっしゃいませ! あ、ゼスさんじゃないですか! よく来てくれました!」
「おうコリノちゃん、2人なんだけど、オークの丸焼きを1体丸ごと注文するから大人数用のテーブルに案内してくんねぇか?」
「わかりました! ではこちらにどうぞ!」
元気のいい看板娘だな。
店も客がたくさんいて活気がある、ますます期待が膨らむね。
そして案内された席につき、オークの丸焼きの到着を待つ。
前世では豚の丸焼きとかテレビで見たことがあるってぐらいだったからな、そういった意味でも楽しみなんだよね。
オークなんかと一緒にすんなって豚に怒られるかもしれないけどさ。
「昨日のことだけどよ、ギルドの買い取りでオークを5体出してるガキがいてな、そいつ『これぐらい普通のことですよ?』みてぇな澄ました顔してやがって、それがえれぇムカついてよ!」
「ここ数日話題のオーク狩りの新人のことですね?」
「へぇ、この前まではゴブリン狩りで今度はオーク狩りか……最近はヤベェ新人ばっかだな」
「あらぁ、知らないのぉ? 学園都市では毎年のことよぉ?」
「そうですね、お貴族様の子女が集まる学園都市ならではですね」
「そうなのか、俺はこっちに来てから間がなかったからな、知らなかった」
「チッ、生まれながらにして高ぇ魔力を持ってるからって……運に恵まれただけのくせに偉そうに!」
「もぉ~飲み過ぎよぉ」
ここにとてつもない運に恵まれた男がいますよ、なんというかごめんね?
でも俺の場合、ゲームでは破滅する設定のアレス君だからさ……それでプラマイゼロってことでひとつよろしく。
「旦那、ありゃただの酔っ払いの戯言だ、真に受けちゃいけませんぜ?」
「まあそうだな。ただ、事実でもあるとは思ってな」
「あっしも今までいろんな奴を見てきやしたが、最初はよくても後で駄目になる奴もいれば、その反対の奴もいる、いろいろでさぁ……ま、日々努力を重ねている旦那には関係ねぇ話でしたね」
「いや、俺も努力を忘れないように気をつけようと改めて思ったよ」
「そうですかい」
「オークの丸焼き、お待ちどおさまです!」
「お、来やしたぜ、旦那!」
「おお!」
「ごゆっくりどうぞ!」
オーク1体丸ごと……なかなかに迫力があるね。
では、さっそく。
……皮はパリッパリ、肉は濃厚でジューシーな味わいがガツンと来る。
こいつは美味い!
「どうです? この店秘伝のスパイスがよく効いてやすからね、味が引き締まってるでしょう?」
「ああ、引き締まりまくってる!」
「ははは、気に入ってもらえてようござんした」
部位ごとに食感や味の濃淡もそれぞれ違うし、食べ飽きない、素晴らしい!
それになにより、腹内アレス君の喜びようが凄まじい。
この前のソーセージのときもそうだったが、どうやら腹内アレス君、オーク肉がお好みのようだね。
まぁ、俺も前世では基本豚肉派だったし。
あと、初めて家族で牡丹鍋を食べたときなんかは猪の肉ってこんなに美味いのかって思ったなぁ、ああ懐かしい。
「そういえば旦那、最近いろいろあってモンスターの討伐に行けてなかったでしょう? ザムトルが寂しがってやしたぜ」
ザムトル……ああ、解体士のオッサンか!
確かになぁ、そろそろゴブリンの解体もピークは過ぎてそうだしな。
「まぁ、下っ端どもは旦那の名前が出るたんびに無言になりやすがね、がっはっは」
「ははっ、無言か……でもそうだなぁ、俺もそろそろオーク狩りに挑戦しようかなっていう気はしてたんだよな」
「おお! いいですねぇ」
「本当は、オークの丸焼きも自分で狩ったやつでやろうかなと思っていたんだけど、思ったより時間がかかりそうだったからなぁ……」
「なるほど、それで」
「あと、実は俺、解体の仕方をまだ知らないんだ……まぁ、学園で野営研修が始まる頃ぐらいには習うと思うけど」
「そうですねぇ、なんだったらギルドで解体の講習を受けてみたらどうです? お試しの短いのだったら数時間で終わりやすぜ? しかも今ならゴブリンの素材がたくさんあるし!」
「ふっ、たくさんか……そうだな、講習を受けてみるのもいいな、明日の昼間は大事な用事があるから、夕方頃にでもギルドに行って聞いてみるかな」
「それがいい、ザムトルの奴も喜びやすぜ!」
「そうか」
あの話好きの解体士のオッサン、なかなか面白い話をしてくれるからな、俺も結構楽しみだ。
そんな感じでゼスとの会話を楽しみつつ、食事の手は止まらない。
「それと、この前の品物の買い取りがもう少しで終わるんで、そのときグベルとエメちゃんも呼んで集まりやしょう」
「あれか、思ったより早いな」
「まぁ、御者なんかをやってると商人の知り合いも増えるもんで」
「確かにそうだろうなぁ、なんにせよ、グベルがあんまり家を空けなくても済むように、しっかり高値で売ってやってくれ」
「へい、任せてくだせぇ」
こうして、次にまた集まる約束をしつつ、ゼスと2人で……ほとんど俺1人でオークを1体丸ごと平らげた。
何気にコリノは全部食べ切れるのか半信半疑だったみたいだが、俺の食べっぷりを見て、なにやら納得した顔をしていた。
しかし、今日は羽目を外して食べ過ぎた気もするな、しっかり運動をしてカロリーを消費しなくちゃだね!
今晩は魔力操作筋トレをしっかりやって寝よう。
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