第56話 この時間が至福のとき

 学園に戻り夕食を食べ、基本ルーティンの魔力操作筋トレと精密魔力操作をこなしつつ、エリナ先生に教えてもらった魔力の隠蔽の練習も行った。

 明日の補習に向けて自分で出来るだけのことはしておきたかったからね。

 そうして、眠る時間が来るまで、練習を行った。


 翌朝になって目が覚めたあとは朝練。

 昨日と同じように魔力操作音読ウォーキングを1時間こなし、シャワーを浴びて朝食のため食堂へ移動。


「昨日さ、あの身の程知らずを街で見たんだけど、なんかモンスターの討伐に行ってたみたい」

「ああその話か、俺も聞いたよ、なんでもオークを5体討伐してギルドで得意そうな顔してたらしいな」

「オークかぁ、丸焼きにして食べると美味しいんだなぁ」

「はぁ、君は食べることばっかりだね……アレといい勝負だよ」


 丸焼きか……アリだな。

 っていうか、腹内アレス君が興味を示しちゃったよ……わかった、悲しいことだけど明日で補習が終わるから明後日オーク狩りに行こう。

 大自然の中で狩ったばかりのオークを丸焼きでいただく、いいねぇ、楽しみになって来たよ。

 ってマズい、解体方法知らんかった。

 今まで戦闘能力の向上ばっか考えてたからね、仕方ない部分もある。

 まぁ、大自然で食べるのは別の機会にするとして、街でオークの丸焼きを提供している店を探そう、腹内アレス君もそれで許してくれたまえ。


「それにしても、オーク如きで調子に乗れちゃうなんて羨ましいよね、貴族家の人間ならわりと誰でも出来ることなのに」

「ホント、そうだよなぁ、まぁあの身の程知らずは辺境出身だし、その辺の基準がよくわかってないんじゃないか?」

「西の辺境名物、オークの骨でダシを取ったオークボーンラーメン、あれも格別なんだなぁ」


 なんなのあいつ、腹内アレス君が反応してしょうがないんだけど……

 そして、主人公君への陰口がひどいね、たぶんだけどそんなドヤ顔してなかったんじゃないかと思うよ?

 まぁ、平民出身の冒険者たちの間で1人でオークを狩れたら1人前みたいな風潮があるらしいからね、そこまで至っていない冒険者が嫉妬してそんな風に感じたんじゃないかと思う。

 しかも、13歳の新人で5体っていうのは一般的な冒険者にとっては驚異的な数字になっちゃうんだろうし。

 まぁ、俺でも出来るっていうか、魔力探知をフル活用すれば2桁も余裕だと思うけどね……無駄に張り合ってみた。


「でもさ、あの身の程知らずもそろそろ大人しくならざるを得なくなるだろうね」

「ああ、あっちこっちで鬱憤を溜めた奴が集まりだしてるからな、近いうちに身の程を教え込まされるだろうさ、ざまぁみろってんだ」

「集まるんだったら、みんなでバーベキューをしたらいいと思うんだなぁ」

「「お前は(君は)そろそろ食べることから離れろ!」」


 主人公君、近いうちにわからされちゃうみたいだね、可哀そうに。

 でも、下手したら逆にモブの群れの方がわからされちゃうかもしれないけどね。

 ああ、ちなみにだけど、こんだけ言いたい放題の中、主人公君の反応がないのはね、ここにいないからさ。

 実はここ、男子寮の食堂なのよね、そんで女子は女子寮の食堂を利用してるんだけど、男女双方の寮から廊下で繋がっている中央棟に男女どっちも利用出来る食堂があって、彼はそっちに行ってるんだ。

 そんなわけで、ここにいるのは……まぁ察してあげて。

 いやまぁ、俺みたいに学園の小娘に用のない奴や、今回は男同士でメシっていう奴もいるだろうけどね。

 さて、お腹もいっぱいになったことだし、授業を受けに行きましょうかね。

 俺はエリナ先生に会えるこの時間が至福のときなのさ。


 そうして授業を受け、昼食を食べ、エリナ先生の補習を受けに行く。


「いらっしゃい、アレス君」

「今日もよろしくお願いします」

「ええ、それじゃあさっそく始めましょうか、今日は昨日の続きで魔力の隠蔽の調節ね」


 それから2時間ほど、みっちり魔力の隠蔽の調節を練習した。

 これにより、一般的な平民から宮廷魔法士レベルの魔力量までだいたい調節できるようになった。

 まぁ、今の俺の技量では、魔法士の上位層には見抜かれてしまう可能性が高いみたいではあるが、それはこれから練習あるのみってことで。

 そして、今後は学園内ではまあまあ優秀ってレベルに魔力量を隠蔽することにした。

 魔力量が多すぎて変に警戒されても面倒だけど、そうかといって少なすぎて見縊られて絡まれるなんてことは避けたいからね。

 それから、学園外では俺のことを知っている人間は貴族家ほど多くないだろうから、基本的にはあまり魔力量を多く見せないことにした。

 やっぱさ、異世界転生の先輩諸兄がやってた実力隠すムーブを俺もやってみたくてさ。

 もちろん、状況に合わせて調節するのは大前提なんだけどね、普段はそうしとこうかなって感じ。


「魔力の隠蔽はこれでだいたい基礎が出来上がったって感じかしらね、ここからは日々の練習で熟練度を上げて行くといいわ。そして、練習を続けるうちに気になることが出てきたら、その都度質問に来てちょうだい」

「はい、わかりました!」

「じゃあ、今日はこれぐらいにして、お茶にしましょうか」

「喜んで!」

「それじゃあ、淹れてくるから、ちょっと待っててね」

「はいっ!」


 よし、ここで昨日買ったドライフルーツたっぷりのパウンドケーキをスタンバイだ!

 エリナ先生喜んでくれるといいなぁ。


「お待たせ。あら、今日はパウンドケーキなのね、とっても美味しそう」

「お口に合えば幸いです」

「ふふっ、楽しみね」


 そして、今日もまた魔法談議に花を咲かせつつ、お茶とお菓子を楽しむ優雅な時間を過ごした。


「今日のパウンドケーキも美味しかったわ、特に中に入っていたくるみが香ばしくて食感も抜群によかった、アレス君はお菓子を選ぶセンスがいいのね」

「いやぁ、そんな風に褒められると照れてしまいますよ」


 そんな感じで、今日の補習を終えた。

 あと1日だけかぁ、エリナ先生は補習に関係なく、いつでも来ていいとは言ってくれるけど、節度ってもんがあるからね。

 現に主人公君は王女殿下とお茶しまくってるせいで、周りからは王女殿下の迷惑を考えないクソ野郎扱いされてるし、俺も気を付けないとだね。

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