第464話 逆鱗に触れたといっていい

「これでぇ、潰れたトマトみてぇになりやがれ! オラァ!!」


 マヌケ族が急接近してきて、威勢のいい掛け声とともに、バールのようなものを振り下ろしてくる。


「おいおい、畑の作物を駄目にしようとする割に、例えは野菜なんだな……意外とベジタリアン?」


 なんて軽口を叩きつつ、マヌケ族の一撃をかわしてやった。


「うっせぇっ! ちょこまかすんじゃねぇ!!」

「さすがに、そんなもんでブッ叩かれたら痛そうだからな、避けるのは当然だろう?」

「減らず口を!!」


 レミリネ師匠との稽古、そして師匠の動きをイメージして日々脳内模擬戦をしている俺にとって、コイツの動きなど全く脅威にならない。

 さらにいえば兄上……いや、ロイターたちにすら敵わんのではないだろうか?

 おそらく、この夏でロイターたちもレベルアップを果たしているはずだからな。

 また、現在俺は平静シリーズを5つ装備している。

 そこで、俺の心づもりとしてはジャージとランニングシューズをメインの装備としつつ、苦戦を強いられるようならニット帽、クリアレンズのサングラス、そして指抜きグローブを外すつもりでいた。

 ……まあ、夜だからね、一応サングラスのレンズは色なしにしといたんだ。

 それから、指抜きグローブにはスタッズが付いててイカしたデザインであることに加え、これで殴ったら痛ぇだろうなって感じ。

 ただ、今回に関していえば、平静シリーズによる魔力操作の困難さはあんまり考慮しなくてよかったかもしれない。

 なぜなら、腹内アレス君がいつになくヤル気だからである。

 というのも今回のマヌケ族の暗躍は、食品の供給に打撃を与えるというものであるからして、腹内アレス君の逆鱗に触れたといっていい状態なのだ。

 まったく……食べ物の恨みは恐ろしいとはよくいったものだよ。

 そんなわけで、普段は主に俺ひとりで魔力操作をやっているのだが、今は腹内アレス君が手伝ってくれているので、ほとんど平静シリーズのデメリットなしといったところなのだ。


「フッ……また空振りだな?」

「クッソ……ならこれだ! 喰らいやがれぇ!!」


 足元で爆発……だが、早々に察知していたので、風歩で爆発の範囲外に離脱。


「ハッハァ! ウェルカム!!」


 俺が回避する方向を予測していたのであろう、先回りして渾身の一撃を加えようとしてくる。


「この程度、魔纏でじゅうぶんだろうが念のため……」


 障壁魔法をピンポイントで展開して防御。


「ヒャッハァッ! まだまだ行くぜぇ~!!」


 俺の展開した障壁魔法に、マヌケ族がバールのようなもので滅多打ちしてくる上、タイミングをずらして魔法も撃ってくる。


「まあ、攻撃力はそれなりにあると評価してやってもいいかな……それじゃあ、そろそろ俺からも行かせてもらおうか」


 そういいつつ、腰にマウントしていたトレントのマラカス……ミキジ君とミキゾウ君の柄を握って構える。


「……なッ!! そのマラカス……オメェもしかして、アレス・ソエラルタウト……なのか?」

「いかにも……というか、俺のことを知らないのかと少し心配していたぐらいだぞ?」


 俺ってそれなりにマヌケ族の中で有名なつもりだったんだけど、今までコイツは俺のことを知らないっぽい雰囲気だったからね……

 だが、それは単純に俺だと気付いていなかっただけのようだ……何気に、ちょっと安心。


「聞いてた格好と全然違ぇだろが! なんだそのダセェジャージは! 貴族ならもっとそれらしい格好しとけやァ!!」

「そんなこといわれても、知らんがな」

「それに! 今頃は学園都市にいるハズじゃねぇのかよ!?」


 まあ、一応みんな余裕を持って学園都市に到着できるよう予定を組んでいるみたいだからね……


「フッ……俺レベルになると、この程度の距離は1日で移動できてしまうからな、なんの問題もないのさ」

「……チッ!」

「おやおや、もう戦意喪失かい? やっぱザコっちゃんだったみたいだね?」

「クソウゼェ……が、まあいい……テメェを捕獲すりゃ、魔族の中で名が上がるってなもんだ! せいぜいオレの武勇伝の糧になりやがれぇ!!」


 言葉では威勢のいいことをいっているが、微妙にカラ元気感を隠し切れていないような気がする。

 まあ、コイツこそ俺のマヌケ族に対する武勇伝をそれなりに耳にしているだろうからね……

 ちなみに今回、手加減武器としているミキジ君とミキゾウ君をチョイスしたのには理由がある。

 それは、抵抗できなくなる程度にダメージを負わせたあと、コイツに俺の実験に協力してもらおうと思ったからだ。


「……ッ!? この悪寒は……?」

「ほらほら、ビビってないで全力でおいでよ!」

「クッ……! いわれるまでもねぇ!!」


 とまあこうして、マヌケ族の男が悔いを残さない程度に全力を出し切らせてやったところで、ボコボコにしたった。


「カヒュゥ…………カヒュゥ……ぐ……ぞぉ」

「さて、これからお前にはもうひと頑張りしてもらおうと思う」

「な……にを……?」

「まあ、気を強く持つことだな……」

「ヒッ! ……く、来るんじゃねぇ! こっちに来るなァァァ!!」


 何か感じるものがあったのか、怯えだすマヌケ族。

 それには構わず、全身に光属性の魔力を漲らせ、聖者(仮)にフォームチェンジ。

 そう……実験とは、自滅魔法の解除である。

 いや、実験というより、練習といったほうがより適切かもしれんがね……

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