第465話 絶対に屈服するんじゃないぞ!!

「では、実験を開始する……」

「じ、実験って……なんなんだよォ!?」

「いいか! 己の誇りにかけて、絶対に屈服するんじゃないぞ!! オリハルコン並みの強い心で耐えるんだ!!」

「な、なんだよそりゃぁ……オレに何をする気なんだァ!?」

「フッ……お前に施された自滅魔法の解除だ!!」


 たぶんこの瞬間、コイツの脳内では「ババン!!」とか「ドドォーン!!」って感じの効果音が鳴り響いたことだろうね!


「はぁっ? ……薄々感じてたが、オメェはバカか! んなもん、できるわけねぇだろうが!!」

「ふむ……果たして本当にそうかな?」


 というか既に、ギドに対して一度成功しているからね。

 まあ、たくさんの方から協力を得た上で、奇跡的に成功しただけともいえるけどさ。


「本当も何もそうだ! そうに決まってる!! コレを解除できんのは、族長クラスの魔族だけだ!!」

「ああ、そうらしいな……」

「分かってんなら、無駄なことはやめろォ!!」

「……無駄なことだと? 何をいっている! 挑戦する前から諦めてどうするんだ! 無理とか無謀とか、そんなチンケな言葉に惑わされんな! たとえ失敗してもいいじゃないか! そこでまた立ち上がって挑戦すればいいんだ!! 何度でも何度でも! 命尽きるそのときまで、俺たちは偉大な挑戦者であるべきなんだ!! なあ、そうだろ!?」

「……ふざけんな! テメェみてぇな頭のオカシイ野郎の相手なんてしてられるか!!」


 そうして、フラフラながらも逃げようとするマヌケ族の男。

 しかし、俺が最初に展開しておいた防壁魔法が男の行く手を阻む。


「ほらな、防壁魔法を展開しておいた意味があっただろう?」

「ちっ……ぐしょぉ……こんなところで……オレは終わんのかよぉ……」

「いやいや、まだ終わってないぞ? 俺も頑張るからな! お前も全身全霊をかけて己の運命に抗うといい!!」


 ただ、ここまでいっておいてなんだけど、内心では成功する確率があまり高くない気もしている。

 というのが、俺はコイツに対して思い入れがなく、助けたいという意識が一切ないからである……というより、明確な敵だとすら思っているからね。

 特に腹内アレス君なんかは、この荒れ果てた畑がマヌケ族による影響だと分かった段階から静かに怒りを溜め始めていたぐらいだし。

 それに、今回は母上や転生神のお姉さんたちに力を借りることもできない。

 なぜなら、どうやっても本気の祈りにならないので、届くわけがないのだ。

 そんなわけで、俺1人の力で自滅魔法の解除を試みなければならんのである。

 どうだろう、その難易度の高さを分かっていただけたであろうか?

 ……かといって、全く勝算がないわけでもない。

 というのが、あの日から今日まで俺なりに多少はレベルアップしているのだ。

 平静シリーズを手に入れてから魔力操作の上達速度も上がっているはず。

 その上、ここ数日なんてソリブク村の村人相手にほとんど1日中魔力交流をしていたわけだからね……あのときとは違うんです。

 おっと、いかんね……もっと集中力を高めなければ成功するものも成功しなくなってしまう。

 こうして俺自身の中に眠る、まだ活性化されていないであろう「光」を目覚めさせるようなイメージをする。

 いや、どっちかいうと陰キャの俺に「光……?」という疑問もないではないが、それはそれとして意識を集中させる。


「……なんなんだ、この光は……クソッ、気を抜くとあったけぇって感じがしちまうじゃねぇか……」

「さあ、自滅魔法という鎖を断ち切ろう……」


 そうして限界まで高められた光属性の力をマヌケ族の男に照射。


「ぐぅ……おぉっ……!」

「気を強く持て!」

「んなこと……いったって……」

「負けんな! お前が生き残る術はそれしかないんだ!!」


 だが、いかんせん俺自身に想いのパワーが不足しているのか、徐々に男の肉体が崩壊し始めている。


「よし、回復魔法もサービスしてやる! だから、もうひと踏ん張りだ!!」

「ぎぃっ……が、あ……」

「大丈夫だ! どんどん治してやる!!」

「そのッ、回復魔法をやめろォ! ……痛ぇんだって! ……マジで!!」


 まあね、回復したそばから崩壊、そしてまた回復の無限ループだからね。

 でも、未成年のロイターだって似たようなことで耐えることができたのだから、それぐらいコイツにも乗り越えてもらいたいところだ。

 それからしばらく……どれぐらいの時間が経っただろう、一進一退を続ける自滅魔法の解除。

 そのギリギリのせめぎ合いにマヌケ族の男は耐え切れなくなってきたのか……


「もう……やめでぇ……いでぇよぉ……」

「お前は誇り高き魔族だろ! お前が蔑む劣等種族の前でそんな泣き言をいっていいのか!?」

「ぞんなごどぉ……どうだっでいいぃ……!」

「よくない! 諦めんな!!」

「もう……なんだっでずるがらぁ……ゆるじでぇ……まぞぐなんが、うらぎっでもいいがらぁ……!」

「……あっ!! だめっ! じゃ……ないか……」


 心が折れた。

 そういうことだったのだろう……

 俺の回復魔法を受け付けることもなく、最期は一瞬で男の肉体は萎びてしまった。

 それは植物の枯れた姿によく似ていた。

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