第466話 福音となったかもしれない
自滅魔法の解除に失敗した……この結果は重く受け止めねばなるまい。
まあ、成功確率が低いことは最初から予想していたことではある。
しかしながら、漠然と上手くいくのではないかと考えていたのも正直なところだ。
一応、やれるだけのことはやったつもりだし……
例えば、廃教会のスケルトンにもらった首飾りなど、光属性を強めてくれる装備品を身に付けることによる聖者(仮)へのフォームチェンジ。
その際、魔力操作に支障をきたさないように平静シリーズも5つ装備していた物のうち3つを外した。
その辺に抜かりはない。
また、ダメ元ながら母上や転生神のお姉さんたちにも祈るまではいかないものの、上手くいったらいいなって願掛けのようなものはしていた。
いや、「それじゃ想いが足らん!」といわれるかもしれないが、さすがに「この男を助けたいんです!」って祈るまでいくとウソっぽくなっちゃうからね。
それから、この男に対する怒りに燃えていた腹内アレス君であったが、戦闘によってボコボコにしたことである程度スッキリしてくれたのか、特に自滅魔法の解除を邪魔してくるようなこともなかった。
まあ、邪魔しないだけで協力してくれるわけではなかったが、それは普段と変わるものではない。
結局のところ、俺の実力不足だったってことだね。
平静シリーズによってかなり魔力操作のレベルもアップしていたつもりだが……それでも、まだ足りなかったということなのだろう。
だが、今のところ同時に装備できているのは5つだけで、まだ重ねる余地は豊富にある……つまり、伸びしろはまだまだあるってことだ。
そして今回失敗こそしたが、もう少しという手応えみたいなものがないわけではなかった。
少なくとも一進一退という状態には持って行けたのだからね。
とはいえ、あと一歩っていうのが至難の業かもしれないので、気を抜くわけにはいくまい……精進あるのみだな。
ちなみに、コイツの持っていた情報とかそういうことについてはあんまり気にしてない。
どうせ末端の奴にたいした情報など持たされていないだろうからね。
魔族に共通する情報ならギドに聞けばいいし、コイツならではっていうのは畑を荒らし回った活動範囲と上役が誰かってことぐらいなはず。
その上役っていうのも、より覚悟のキマってる奴だと思われるので、自滅魔法うんぬん以前の問題でソイツから情報を取り出すことなど不可能に近いだろう。
とまあ、そんなことを思いつつギドに戦闘終了の合図を送る。
ギドについては防壁魔法に出入り自由の設定で展開してあったからね、いつでも入ってこれるんだ。
「終わったようですね」
「ああ……そしてこの男に施された自滅魔法の解除を試みたのだが、失敗に終わった」
「そうですか……とはいえ、族長クラスの魔族にしか解けないようになっている高度な魔法でしたからね、そう簡単に解除されては魔族の立つ瀬がなくなってしまいます」
「まあ、そういわれればそうだな」
「ですが……安定して解除に成功できるようになれば、私のように己の行動に疑問を持ち始めていた方にとって福音となったかもしれない……そう思うと残念ではありますね」
「う~ん……手応えみたいなものはあったんだけどなぁ……」
「それはさすがですね。そして、今の私の実力では解除不可能ですが、いずれは私もできるようになりたいものです」
「お! ギドも燃えてきたか?」
「はい、そうでなければ、胸を張ってアレス様の筆頭使用人とはいえなくなってしまいますからね」
「フフッ、そうか」
それにしても、今さらながら俺ってギドの前で同族を始末したんだよな……そう考えると、悪いことをしてしまった気がする。
「この方が命を失ったことについて、私に気を遣う必要はありません」
「そうなのか?」
「はい、横のつながりは上位の方たちにしかなく、我々のような末端の者に面識などほどんどありませんので……そして、魔族は個人主義の方も多く、大きくても部族単位が精々といったところであるため、同じ魔族といっても同族意識は意外と希薄といえるかもしれません」
「なるほど、ギドからすればコイツはほぼ他人というわけか」
「冷たく聞こえるかもしれませんが、特に感情を揺さぶる相手ではないというのが正直なところです……それに魔力の痕跡に迷いみたいなものも感じなかったので、なおさらですね」
「迷い、か……そういう奴っていうのは、自分の意思で動いているわけじゃないのか?」
「そうですね、一概にはいえませんが、部族の意向でという方も少なくありません……もちろん、活動中に関わった人々との触れ合いによって意識が変化する方もいらっしゃるでしょうが、そういった意識が変化しやすいのも部族の意向で動いている方だと思われます」
まあ、だからこそ自滅魔法で縛る必要があるということになるのだろうなぁ……
そしてギドもまた、部族の意向で動かされていた魔族の1人かもしれんね。
なんてことに思いを馳せつつ、戦闘によって荒らしてしまった土地を地属性魔法で整備する。
ちなみに、ソリブク村の畑に埋まっていた魔力の塊は、俺とマヌケ族の戦闘中に全てギドによって処理されてしまったようだ。
ほかにも俺たちの手が届いていない村もあるかもしれないが、それについては学園都市に到着したあとエリナ先生に報告して王国の魔法士にでも動いてもらえばよかろう。
というわけで、念のため干からびたマヌケ族の亡骸も回収しておく。
「……その方も決して弱いわけではなかったと思いますが、アレス様に存在を認識されてしまったのが運の尽きでしたね」
「そうか? 前に『私より練度の低い魔族』と評価を下していなかったか?」
「何をおっしゃいます……私がアレス様によってどれだけ鍛えられているとお思いですか」
まあ、確かにギドは上位層に届きつつあるみたいだもんな……それに比べたら並の魔族では練度不足となってしまうのも当然か。
「ま、それはそれとして、さっさと小屋に戻ってもう一眠りするか」
「そうですね」
そうして防壁魔法を解いて小屋に戻ると……入口の前に3人娘が立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます