第827話 このコンビはそうして上手く機能してきたのだろうな

「ふむ、そろそろ2時間か……」

「おぉ、もうそんなに経ったのか!」

「なかなか集中できていたようで、あっという間でした」

「よし、今日の勉強はこれぐらいにしておくか……それじゃあ、このいい流れのまま魔力交流をするぞ!」

「よっしゃ! やってやるぜ!!」

「明日に活かせるよう、少しでも上手くなっておきたいです」


 そんなわけで俺たちは勉強を終え、教本をマジックバッグに片付ける。

 そして左右の手をそれぞれ相手に合わせて、円になって座る。


「今回はウインドボードに乗っていないので、基本的なやり方でやろうと思う。それで、やること自体は普段おこなっている魔力操作と極端に変わるわけではないが、手を合わせている相手と魔力を同調させる必要があるぶん難易度が一段階上がるといえるだろうな」

「まっ! 受け取った魔力に自分の魔力を同調させるってことに関しては、昼間かなり練習させてもらいましたよ!!」

「ただ、残念ながら、こちら側から送り返す余裕はありませんでしたが……」

「まあ、俺から受け取った魔力を使って飛行を継続できていたのだから、それでじゅうぶんだったといえるだろう」

「とはいえ、今日はアレスさんの魔力をどうにかこうにか使うのに精いっぱいで、スピードのほうはまだまだでしたからねぇ……」

「我々はもっともっと魔力操作を磨く必要があると痛感致しました」

「その見つかった課題が自身の伸びしろだと思えば、やる気も湧いてくるというものだろう……といったところで、まずは時計回りで左手から相手に魔力を送り、右手で相手から魔力を受け取る。それをひたすら続けよう。そしてしばらく経ったら逆に右手から魔力を送り、左手で受け取るという流れにしよう」

「オーケーです」

「承知しました」

「くれぐれも独り善がりな魔力とならず、お互いを尊重し合った魔力になるよう心がけてやろう! まあ、これは自分自身に言い聞かせる意味合いのほうが強いがな!!」

「ハハッ、アレスさんの魔力の濃厚さは昼間の移動で思い知らせてもらいましたからねぇ!」

「ええ、まったくです」

「フフッ……さて、おしゃべりはこれぐらいにして、そろそろ本格的に始めようか……」


 こうして俺からワイズへ、ワイズからケインへ、ケインから俺へという流れで魔力交流がおこなわれる。

 ……ふむ、ケインから送られてくる魔力は粗削りではあるものの、なかなか活きがいい。

 そして、それなりに滑らかな魔力となるよう気を遣おうとしているのも感じられる。

 この調子で魔力の勢いは残しつつ、丁寧さを磨いていくといいんじゃないかな。

 また、俺は俺でワイズへ扱いやすい魔力を心がけて送っている。

 そうして、しばらく経ったところで今度は流れを逆にする。

 ……ほう、ワイズの魔力は落ち着きがあるな。

 ただ、俺の言葉を受けてのことか、少々相手に気を遣い過ぎている部分があるようだ。

 そのため、いくらか勢いが弱めかもしれない。

 とはいえ、まだまだ魔力交流をやり始めたばかりなんだ、続けていく中でちょうどいいところを探して行ってもらいたいね。

 こうしてまた、ある程度時間が経ったところで感想を語り合う。


「フゥ……普段はあんまり魔力の形っていうか質みたいなことに意識が向いてませんでしたけど……こうやって他人と魔力交流をやってみると、自分との違いとかも感じられて、なかなか勉強になりますね」

「そうですね……私の場合は、魔力の勢いが弱かったかもしれません」

「ふむ、確かに少々遠慮がちだったかもしれないな……ただ、それは俺が相手を尊重した魔力を送れと言ったからでもあるのだろうと思うが……」

「まっ! ミカルって子のこともそうだけど、ワイズは他人に気を遣い過ぎなんだって!! もうちっと我を出してみても悪くないと思うぜ!?」

「我を出す……そうか……そうかもしれないな……」

「とはいえ、その気質がワイズの良さでもあるのだろうから、そこも大事にしつつ……つまりはバランスということだな!」

「そう、まさしくバランス! アレスさんの言うとおりだぜ!!」

「なるほど……それが私の課題であり、伸びしろ……」

「ああ、伸びしろいっぱいだ! やったな!!」

「そこんところ、俺はもっともっと丁寧に魔力を扱うところが課題って感じかなぁ? その辺の雑さが、2人の魔力を感じて浮き彫りになった気がしますよ」

「まあ、そもそも私の課題は、自分とケインの魔力の勢いに差があることを感じてのものだったからな……」

「確かに……2人の魔力は対照的だったかもしれないな」

「要するに! 俺とワイズの魔力を合わせるとイイ感じになるってことですね!!」

「互いに補い合うということか、なるほどな……」


 おそらく、このコンビはそうして上手く機能してきたのだろうな。


「……よし! ここからは少し難易度を上げて、魔力に属性を付加していってみようか!!」

「ああ、さっき光属性の話をしてましたもんね?」

「ありがたく学ばせて頂きます」

「まあ、まだ時間もあることだし……いきなり苦手な光属性から始めるより、お前たちの得意な属性から始めようか」

「おぉっ! そいつは助かります!!」

「得意な属性で感じをつかんでから……はい、お願いします」


 こうして、俺たちの魔力交流は寝る直前まで続くのだった。

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