第716話 いつでも機会があると思ってはいけない

「お、おい……今のシュウの話、聞いたか?」

「ああ、ハッキリと……」

「あの魔力操作狂いが『この学園を卒業することなく途中で去る』とか……マジかよ……」

「う~ん、魔力操作狂いって、ヤバいぐらいに魔力操作狂いではあるんだけど……かといって、学園を追い出されなきゃならんような問題児ってわけじゃないよな?」

「まあ、性格のクセは強めだけど……逆にいうと、それぐらい?」

「そうだなぁ……前期の成績もそうだし、この武闘大会決勝の舞台で試合をしている姿からも考えると、むしろ思いっきり優等生といえるだろうさ」

「それに魔力操作狂いって……教師に限らず、たぶん全てのバ……じゃなかった、女性職員たちからも評判がいいみたいだもんなぁ?」

「正直、侯爵子息ともあろう者が、その辺の掃除婦とかにまで愛想よく挨拶したりしているのはどうかとも思うことがあるけどな……」

「……知ってっか? 魔力操作狂いのそういう姿勢って学園内だけじゃなくて、街中の平民相手にまで同じ調子なんだぜ?」

「そうそう、僕も目にしたことがあるよ……しかも、割と頻繁にね……」

「おう、それなら俺も、ちょくちょく見た記憶があるぞ!」

「奴の熟女狂いぶりは……なかなか本物だから……」

「とはいうものの、彼は女性だけではなく、男性相手にも気さくに接しているみたいですよ?」

「うん、今日だって試合の前後で、身分や性別に関係なく声援を送ってきた人たちみんなに丁寧に応えていたもんねぇ?」

「……まあ、それがマズいといえばマズいのかもしれんな……御偉方の中には、そういった身分の違いを蔑ろにした態度を問題視されている方も居るようだし……」

「なるほど! そっちね!!」

「そういえば……前期の頃、奴の振る舞いについて苦情がときどき学園に入ってたって聞いた気がするな……」

「ああ、そんなこともあったっぽいね……」

「……とはいうものの、その程度で学園を追い出されるまでいくか?」

「確かに……っていうか、見る人によっては懐の広い人物として好意的に評価されてそうだし?」

「つーかよ、その辺のところは抜かりなしみたいだぜ? なんたってアイツは、この夏休み中に結構な数の貴族家夫人を味方に付けたらしいからな」

「あ……そうだったッ!!」

「まあ、それは彼のお母上から引き継いだ支持も多いみたいですけどね……もちろん、彼自身の努力による成果を否定する気はありませんが……」

「実は俺さ……夏休みに叔母に会ったとき急に『何かあったとき、アレス様のお力になりなさい』とかいわれたんだよなぁ……そのときは適当に返事しといたけどさ……」

「え、君も? 相手は叔母じゃないけど、僕もいわれたんだよね……」

「フッ、何を隠そう……私もだ」

「へぇ……結構いるみたいだなぁ……」

「そう考えるとさ……シュウ君の視た未来って、もう既に外れてるってことかな?」

「さあ、どうなんだろうな……これから魔力操作狂いが何かやらかすって可能性もないわけじゃないし……」

「う~ん、何かやらかすっていってもよ……学園の職員はもちろん、夫人方にも庇われるだろうからさ、よっぽどのことじゃないとあり得ないだろ……」

「なんだろう、そうなった場合って……王国が割れるレベルのことが起こってそうだね……?」

「おいおい……冗談でも、そんな恐ろしいこというんじゃねぇよ……」


 もしかしてシュウの眼には、断片的にでも原作ゲームのシナリオが視えてたりするんじゃないだろうか……

 思わず、そんなことにまで思考を巡らせてしまったじゃないか……


「……変に驚かせてしまったようで、すいませんでしたね」

「いや……まあ、うん、大丈夫だ……」

「そうして、もともとは機が熟すのを待つのもいいかなと思っていたのですが……そんなヴィジョンが視えてしまってからというもの、いつでも機会があると思ってはいけないと思うようになりまして、ちょうどこの武闘大会という機会を利用して一度手合わせしておこうと考えた次第です」

「なるほど……確かに武闘大会だと、気分的にも模擬戦よりずっと本気で臨める感じがするもんな!」

「ええ、そうですね……そしてさっきも話したように、僕自身ようやくこの眼の制御がそれなりになってもきましたからね……」

「そうか、その辺のタイミングもよかったってわけか!」

「まあ、眼の制御が追い付かなかった場合……目を閉じて武闘大会に参加するって方法もなくはなかったと思いますが……さすがにそれだと、決勝まで残れてはいなかったでしょうからねぇ……」


 ああ、本戦における対戦相手がそれぞれソイルにサンズ、そしてロイターだもんなぁ……

 そんな猛者たちを相手に目を閉じて挑むっていうのは……うん、厳しいなんてレベルじゃないよね!

 ただ、シュウなら予選突破は余裕でこなしただろうなって思わせてくるところが恐ろしいところだ。

 そして……シュウが日々浮かべている、のほほんとした笑顔の裏にはそんな事情が隠されていたなんてね……

 とまあ、そんなこんなでシュウが武闘大会の参加を決めた理由の全てが明らかになったって感じかな?


「……よし! そんなお前の想いに応える意味でも、こっからさらに気合を入れていくぞ!!」

「ええ! 望むところです!!」

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