第717話 なんで攻撃魔法を使わないんだろう……?

「そりゃぁッ!!」

「なんのッ! ハァッ!!」

「そんなもの! フンッ!!」

『アレス選手の袈裟懸けの一閃を巧みに捌き、そのまま距離を詰めて一撃を叩き込もうとしたシュウ選手でしたが! アレス選手も上手く対応し、さらに木刀を一閃!!』

『お互いに相手の動きをしっかりと視えていますね、実に見事な攻防だと思います』

「ふぅむ……ならば! 身体強化をもう一段階強めるとするか!!」

「そうですか! 存分にどうぞ!!」

「こいつめ! 余裕綽々だな!?」

「フフッ……先ほどのロイター君との試合を経験したことで、どうやら僕の魔臓や魔力経全般が一回りも二回りも成長できたみたいですからね! そのぶん余裕はありますよ!!」

「ほう! それはよかったじゃないか!!」

「ええ! 最高の経験をさせてくれたロイター君には感謝です!!」

「ハハッ! 今頃ロイターの奴、ほのかに顔を赤らめつつ何でもないような表情を作っていることだろうさ!!」

「ほほう! それはそれは!!」


 俺が身体強化を強めるのに合わせて、シュウも高速戦闘モードを加速させていく。

 また、シュウの体から発せられる魔力の雰囲気的に、先ほどのロイター戦よりも強くなっているのが感じられるので、確実に魔臓等がバージョンアップしているのだろうと思う。

 まあ、それをゲーム的に表現するのであれば、ロイターというボスクラスの強敵から大量の経験値を得ることでレベルアップしたって感じかな?


「あ~あ……全っ然、動きが目で追えねぇよ……」

「ホント、速過ぎ……」

「しかも、あの速さでお互い武技をしっかり使いこなせているんだろ? 信じらんねぇよ……」

「2人の奏でる音に余計な雑味がないことからして、術理に則った攻防になっているはずだよ」

「ふぅん……奏でる音ねぇ?」

「まあ、来年の武術大会なんかも見据えると……音でもなんでも、とにかく奴らの動きが認識できて、さらに体が追い付けるようになんなきゃいけないんだろ? 厳しいよなぁ……」

「俺さ、去年とかその前の大会を観戦してきてるけど……その記憶に照らし合わせても、あいつら異常過ぎだよ……」

「もう、何度同じことを思ったか分からんけど、今年の本戦に残った奴ら、全般的に強過ぎだな……」

「たぶんだけど、今年の2年や3年じゃあ、このレベルの試合は無理だろうねぇ……」

「ああ、きっと明日も明後日も、今日と比べて見劣りしちまうんだろうなぁ……」

「そう考えると、先輩方もかわいそうだなって思えてくるぜ……」

「おいおい、そういう話はもう少し小さな声でしとけって……耳聡い先輩に聞かれたら面倒だぞ?」

「おっと、そうだったな……」


 ……うぅむ、かなり身体強化のレベルを上げているのだが……それでもシュウには、キッチリと対応されてしまっているといった感じだ。


「セイッ! ヤッ!!」

「まだまだ! その程度でやられるわけにはいきませんよ!!」

「……クゥッ! ラァッ!!」

「おっと! 今のは鋭さこそありましたが、少々肩に力が入ってしまっていたようですね!!」

「チィ! 俺としたことが、お前に指導をする余裕を与えてしまうとはなッ!!」

「フフッ! 今の状態のほうが脳も活性化されて、普段よりも言葉が出やすくなっているかもしれません!!」

「フンッ! お前が饒舌なあいだは、まだまだ余裕があるということか……であれば、なんとしても黙らせてやりたいものだな!!」

「そういうアレス君だって! まだまだ余裕があるじゃないですか!!」

『こ、これほどまでにハイスピードかつ激しい攻防を繰り広げておいて、まだまだ余裕があるとは……なんとも恐ろしい……この2人は一体どこまで行ってしまうのでしょうか……』

『おそらく、余裕があるというより……全力以上の力をぶつけても大丈夫な相手ということに、お互いテンションが上がり続けているのだろうと思いますね』


 まあ、こっちがどんな斬撃を繰り出しても、シュウにはどれもこれも華麗に対処されてしまうという状況……これに面白みを感じてしまっているのは確かだね……


「アレス兄ちゃんを相手にあそこまで互角に渡り合える兄ちゃんがいたなんて……凄いや……」

「というか、技術面では互角どころか、若干アレスのアニキが押されてるように見えるもんな……」

「こうやって観てると……やっぱり世界は広いんだなぁってことがよく分かるね……」

「もうっ! 感心してる場合じゃないでしょ!? もっとお兄様の応援をするのよ!!」

「男の子たちときたら、これだからまったく……」

「でもさ……あんちゃんはまだ、攻撃に魔法を使ってないでしょ? そう考えたら、まだまだあんちゃんのほうが引き出しがあるっていえそうじゃない?」

「おう! それもそうだな!!」

「とはいえ……アレスあにぃは、なんで攻撃魔法を使わないんだろう……?」

「う~ん……アレス兄ちゃんは、シュウって兄ちゃんにレミリネ流剣術だけで勝ちたいのかも……」

「ああ! そっか!!」

「そういえば、シュウって人は物理戦闘が凄いって解説されてたもんねぇ?」

「なるほど! そんな人に勝てれば、レミリネ流のこれ以上ないアピールになるってわけだな!?」

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