第715話 この眼に視えるヴィジョン

「へぇ……シュウの野郎が今まで大会の類に一切参加してこなかったのは、そういう理由があったからなのか……」

「てっきり、『そんなお遊戯会なんぞに興味ねぇ』とでも考えていたのかと思っていたぜ……」

「うん、そんな感じでお高くとまってるんだろうなとは……きっとみんな思ってただろうねぇ?」

「まあ、出場すりゃ余裕で優勝できるって思っちまうと……なかなか出る意味が見出せなくなるかもしれんよな……」

「実際、さっきの試合でロイターさんにも勝ちやがったもんなぁ……」

「それはそれとしてだ……なんとなくシュウの視線に恐れを感じさせられた理由が分かったって感じだよな?」

「だねぇ……まさか、本当に特別な眼を持っていただなんて……」

「でも、ウークーレン家って……別にそういった特別な遺伝的体質を持った家ってわけじゃないよな?」

「たぶんな……少なくとも、俺は聞いたことがねぇ……」

「ということは……たまたまシュウにだけ備わった能力ってわけか……」

「そんな能力も、一族の中に扱い方を熟知している人がいないってなると……さぞかし、いろいろと苦労したんだろうなぁ……」

「もしかしてだけど……シュウの奴があっちこっちの武術関係の知識を集めまくってたのって、あの眼の上手い扱い方を探すためでもあったりしてな?」

「なるほどねぇ、その可能性はありそうな気がするね……もちろん、シュウ君自身が武術を愛しているっていうのもあるんだろうけどさ!」


 そういえばシュウは、1回戦でソイルから阻害魔法を受けてたときなんかは特にだったけど、魔力とは似て非なる力を使うなんてことをしていたっけ……

 まあ、眼の制御で魔力が大幅に消費されてしまうのなら、それに代替できる力を求めたとしてもおかしくはないだろう。

 そういった観点から考えると、余計な魔眼持ちとなってしまったことも悪いことばかりではなかったのかもしれない。

 また、これによってシュウが、レミリネ師匠の姿を視ることができる理由も納得がいったって感じだ。

 というわけで、思ったままを述べてみる。


「つまり、お前には特別な眼があったからこそ、レミリネ師匠の姿を視ることができていたってわけだな?」

「ええ、おそらくは……」

「それを聞くと……正直、羨ましい気持ちが湧いてきてしまうな……」

「まあ、アレス君のほうがよりこの眼を必要だと感じたでしょうし……もっといえば、保有魔力量の豊富さや魔力操作能力の高さなどから、僕よりずっと上手く制御できたでしょうね」

「う~ん、それはどうだろうな……」

「おやおや、アレス君ともあろう方が謙遜ですか」

「フッ……お前ほどの実力者が相手なら、こちらもそれなりに謙虚にもなろうというものだよ」

「ハハッ! アレス君にそういってもらえると、なかなか嬉しいものですねッ!!」

「フンッ! 危ない危ない、相変わらず鋭い突きを放ってくるものだな……」

「いえいえ、アレス君のほうこそ上手く対処するものですよ!」

『ここにきてシュウ選手の秘密が明かされましたが! それはそれとして、両者の攻防が激しさを増しています!!』

『ええ、口も動いていますが、それ以上に体がよく動いていますね』


 まあ、おしゃべりに夢中で攻撃を喰らいましたじゃ、情けなさ過ぎるからな。


「まっ! シュウの眼のことを知ったからといって、それでどうこうなるもんでもねぇかんな!!」

「ええ、それどころか知ってしまったことによって、いくらか意識が持っていかれるでしょうからねぇ……むしろ、知らなかったほうがよかったりして?」

「どっちみち、シュウには敵いっこないわ!」

「そう! ホントそう!!」

「さあっ、シュウ様! そろそろ本格的に攻められてはいかがでしょう!?」

「そうね、さすがに持久戦となってはアレス・ソエラルタウトのほうが有利になってくるでしょうからね……」

「行っけぇ、シュウ! お前の圧倒的な強さを見せつけてやれぇッ!!」

「そう! 遠慮はいらないわ!!」


 ふむ……シュウの周りを熱心に取り巻いているだけあって、武闘派令嬢たちは眼のことも知っていたみたいだねぇ……

 まあ、俺からしたら、その辺のところはどっちでもいいんだけどさ。

 それはいいとして……


「正直なことをいうと、お前とこんなに早く対戦する機会が訪れるとは思っていなかったぞ? そして、なんとなくその機会っていうのは、俺自身がレミリネ流剣術を納得できるぐらいまで修めてから……そんなふうに思っていたものだ」

「そうですね……実は僕も、そんなふうに思っていました」

「ほう、お前もか?」

「はい……ただ、これも僕の眼のことなのですが……ときどき、あるヴィジョンが視えるときがあるのです……」

「……あるヴィジョン?」

「ええ、それは『アレス君が、この学園を卒業することなく途中で去る』というものなのですよ……」

「な、なん……だと?」

「まあ、この眼に視えるヴィジョンというのは確定した未来というわけではなく、外れることもよくあるんですけどね……それに、きちんと一緒に卒業できるヴィジョンが視えることだってありますし……」

「ふぅむ、そう……なのか……」

「ええ、そうです」

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