第213話 君のおかげだ

「せいッ!」

「そうはさせませんッ!」

「……そこまで! 時間切れにより、両者引き分けだな」


 くぅ~っ! いい感じだったとは思うんだけどなぁ……でも、一本を取るまでには遠いか……


「ふぅ……ダンジョン攻略帰りは一味違う……というべきでしょうか、今日のアレスさんの剣は一段と鋭さが増していましたね」

「いやいや、動きに翻弄されることも多かったからな……サンズの技量に追いつくまで道のりはまだまだ遠そうだと改めて感じていたところだ」

「いえいえ、僕のほうこそアレスさんの成長速度に驚かされてばかりですよ」

「そうか? フッ、そういってもらえると嬉しいものだな」

「そろそろいいかしら? 私とパルフェナの模擬戦を始めたいのだけれど」

「「あっ、はい」」


 俺とサンズで先ほどの魔法なしの模擬戦における互いの健闘を称え合っていたところ、絶妙なタイミングでファティマさん。

 うん、ちょっとばかり恥ずかしさを感じてしまう。

 それはサンズも同じようで、横で苦笑いをしている。

 こうして、今日の模擬戦の時間が過ぎていく。

 そして、俺の魔法なしの模擬戦による戦績としては、全戦引き分けという結果に終わった。

 俺自身の実力が伸びてきたというのもあるが、一戦ごとの制限時間が短めに設定されているというのも大きい。

 かといって時間無制限だと、最終的に体力勝負みたいなことになりそうな気がする。

 ただ、このままだと制限時間の短い戦い方に変に慣れてしまうかもしれないからな、ある程度時間に制限のない形式の模擬戦があってもいいかもしれない。

 そんな感じのことを考えたりなんかもしながら模擬戦を終え、反省会へ移行する。

 そしてこの場で、改めてスケルトンダンジョン攻略の報告をした。


「わぁ、頑張ったねぇ! おめでとう!!」

「まぁ、実力的に当然のことでしょうけれど……おめでとうといっておくわ」


 パルフェナはストレートに、ファティマは若干回りくどく祝福の言葉をくれた……この辺は性格が出るねぇ。

 それから必要もないかと思いかけたが、貴族家出身のアホなギルド職員に絡まれた話も一応しておいた。

 ついでに、あのうさんくさい導き手が出現した話も含めてね。


「それは災難だったな、というべきか……」

「そうですねぇ……とはいえ後継者争いに敗れたものの、その道を諦めきれず……という方もやはりいらっしゃいますから……」

「でもその人、よくアレス君にそんなことをしようと思ったよね? まさか侯爵家の子息だってことを知らなかったわけじゃないでしょ?」

「……その『まさか』かもしれないわね」

「えぇっ!?」


 パルフェナは驚いているが、あの感じだとあり得そうなんだよな。

 それに、相手の実力を読み取る能力も壊滅的っぽかったし。

 じゃあ、あの男が俺を平民と判断した根拠となると……


「……そういえば、冒険者ギルドに登録するとき家名を記入していなかった気がするな……もしやそのせいか?」

「えぇ……なんでそんなことを……」


 パルフェナよ……異世界転生者はみんなそうするんだ。

 ……偏見強めかもしれんがな。


「……そういえば、お前とソエラルタウト家当主の不仲説というのもあったな」

「いわれてみれば……ありましたね」

「えっ!? それが理由で家名を登録しなかったの!?」

「……アレスのことだから、それがカッコいいとでも思っただけよ……おそらくそれ以上の深い意味はないわ」

「ああ……そっか……」


 あれ、なんかアッサリ納得しちゃったぞ?

 もっと、凄い理由があるはず! ってなんないの!?


「そして、また導き手とやらが出てきたわけか……」

「……前回と今回の話の内容からして、導き手と名乗る者は王政の打倒が望みといったところでしょうか」

「う~ん、確かにそんな感じもするね」

「まぁ、アレスは良くも悪くも、いろいろな存在を引き寄せる力があるもの……だからこそ、これから気を付けるようにしてもらわないとならないのだけれど……」

「お、おう……」


 とまぁ、そんなわけで怪しい奴には気を付けろって話だったね。


「それで話変わるけどアレス君、もしよかったら宝箱に入ってた銅貨を見せてもらってもいいかな? デザインの花っていうのがちょっと気になったんだ」

「おう、いいぞ……これだ」


 パルフェナが銅貨に興味を示したので、見せることにした。

 プラウさんにもらったスラブケース効果によるものか、銅貨が凄い高価なものに見えてくるよ。

 そしてこの銅貨、もともとの予定としては「アレスの鉄板ネタ」として笑い話にするつもりだったが、レミリネ師匠の功績を称えるものだとわかった今となっては、大事な思い出の品だ。


「へぇ、これが……ふむふむ……この花……たぶん『イキシア』だねぇ」

「ほう、わかるのか」

「うん、レミリネさんにピッタリのステキな花だよ」

「そうか……そうだな……レミリネ師匠に相応しいステキな花だな……」


 パルフェナの話から、改めてじっくりと銅貨に描かれている花を眺めていると……ふいに気付いた。


「なぁ、もしかしてこの花もイキシアか?」


 そういって、子供スケルトンにもらったドライフラワーを取り出す。


「そう! そうだよ!!」

「やはりな……」


 このドライフラワーにもっと意識を向けていれば……宝箱の中の銅貨を見た瞬間に気付けたかもしれないのにな……

 そしてあの子供スケルトン……本当にレミリネ師匠のことを慕っていたんだなぁ。

 ……その剣を俺は受け継いだのだ、これからさらに精進を重ねていかねばらなんな!!

 そう決意を新たにしたのだった。

 こうして今回は、俺のダンジョン攻略が話題のメインとなりつつ、反省会を終えて解散。

 そしていつもの流れで、大浴場でゆったりして自室に戻る。


「キズナ君、ちょっと遅くなっちゃったけど今日はね……」


 そうして、日課の筋トレや精密魔力操作をこなしてから、今回のダンジョン攻略に関する話をキズナ君に語って聞かせた。


「それじゃあキズナ君、今日はこれぐらいで……おやすみ!!」


 話を終え、キズナ君に挨拶をして眠りにつく。


『オマエ、ツヨイナ!』

『……』


 ……え?

 オーガの……ゲンと……見覚えのある……あり過ぎるスケルトンナイト……

 それはもちろん……レミリネ師匠……レミリネ師匠だ!!


『レミリネ師匠!!』

『……? ……!!』


 俺の存在に気付いたレミリネ師匠……ただ、ばつが悪そうというか、少し恥ずかしそうにしている。

 たぶん……別れの瞬間が劇的だったからだろうね……

 でも、そんなことは関係ないとでもいうように俺の体は勝手に動き出し、レミリネ師匠へ駆け寄っていた。


『レミリネ師匠! もう……もう逢えないかと思っていました……』

『……』


 スケルトン語がわからないことに、もどかしさがないわけではないが、レミリネ師匠の気持ちは伝わってくるからいいのだ。

 いや、それよりも、レミリネ師匠にもう一度逢えた、それだけで十分幸せだ。


『……あ、そういえばこれ……レミリネ師匠の剣を持っていたら、街の子供がくれた花です……』


 そういって、ドライフラワーをレミリネ師匠に手渡すと……


『これはイキシアだね! 私、この花好きだったんだ~』

『え!?』


 レミリネ師匠の言葉が……わかる。

 ……さっきは、言葉がわからなくてもいいなんて、やせ我慢したが……やっぱり、わかるほうがいいに決まってる!!


『あれ? 私の言葉、わかるの?』

『はい……わかります……わかりますよ! レミリネ師匠!!』


 ひたすらに嬉しさが込み上げてくる。

 ありがとう、子供スケルトン……君のおかげだ。

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