閑話8 エリナの出る幕

 野営研修が終わって今は、教師たちによる生徒のみんなが収集した物品の成績評価会議をしている。


「この薬草……いいじゃないか! 実に素晴らしい!! 皆もそうは思わんかね!?」

「学園長のいうとおり、技術としてはなかなかのものだとは思いますが……かといって、その多くは最下級の薬草ばかりですよ?」

「いやいや、何をいっているのだ……そもそも魔力許容量の少ない普通の草に魔力を込めて薬草にするのは、すぐ枯れてしまうこともあって意外と難しいことを忘れてはいないかね? それにほとんどの薬草が、魔力をあと一込めで許容量の満杯になるところでピタリと止めてある……そういった、ただ魔力を込めて薬草にしただけとは違う丁寧な仕事……これこそが称賛に値するといえるだろう!」


 可能性としてあり得るとは思っていたけれど、学園長のアレス君の……いえ、ファティマさんのパーティーへの評価が高いわね。


「ですが学園長、シュウ君のパーティはオークキングを討伐したのですよ? やはり1位とすべきはシュウ君のパーティーではないかと思います」

「確かに、1年生のこの時期にオークキングというインパクトには俺も少なからず驚きがある……だが、ここはやはり王女殿下のパーティーを1位にすべきではないか? しかも、王女殿下のパーティーの収集物だって量と質の両方を高水準で満たしているのだし」

「しかしながら、高水準ではあっても……ファティマさんのパーティーやシュウ君のパーティーのように、突出したものがないということも事実ではありませんこと?」

「いや、それは……そうだが……」


 こうして、今日のところは各々の意見を出し合ったままで会議は終了となり、続きは明日となった。

 ちなみに私も学園長と同じく、ファティマさんのパーティーを一番に評価している。

 ほかの先生がいうように、シュウ君のパーティーが討伐したオークキングは確かに強い印象を与えることだろう。

 ただ、おそらく派手な戦い方をしたのだろう……素材としては損傷度合いが大き過ぎるのだ。

 それにオークキングの王冠も回収されてはいるが、壊れてしまっている……これでは魔道具職人の修復が必要になり、それだけ収集物としての価値が下がってしまう。

 また、王家に配慮して王女殿下のパーティーを1位にすべきという意見もあるが……おそらく国王陛下はそのようなことをお望みにはならないだろう。


 日付変わって今日、再び成績評価会議が開かれる。

 そしてまず、学園長が口を開いた。


「国王陛下から書簡が届いた……それによると、我々の王女殿下への気遣いは無用とのことだった」


 ……やはりね。

 その後は昨日と同じように話し合いが続けられる。

 そして最終的に、学園長が強く推したこともあり、ファティマさんのパーティーが1位となった。

 とはいえ、学園長の独断というわけでもない。

 ほかのパーティーが討伐に寄り過ぎたのに対し、ファティマさんのパーティーはモンスターの討伐だけではなく、薬草を筆頭にいろいろな物品を幅広く収集したことの意味を多くの教師が認めたからだ。

 このようにして、各パーティーの順位が確定し、会議は終わった。


 それからしばらくして……ダンジョンに通っていたアレス君の様子が、心ここに非ずという雰囲気になっていった。

 ダンジョンで何かがあったのかもしれない。

 心配にはなるが、これがアレス君の成長の機会かもしれないと思うと、すぐ私が関わるのもどうかという気がしてくる。

 それに今は、学園に入学したばかりの頃とは違ってパーティー仲間という信頼できる味方が周りにいるのだ……なおさら私の出る幕ではないだろう。

 だから、本当に危なくなるまでは……


「センパ~イ、そんなに心配ならこんなふうに陰から見守るなんてこと、やめたらどうですか~? しかもご丁寧に魔法で姿まで隠して……」

「……ミオン……今日はどうしたの?」


 運動場で模擬戦をしているアレス君たちパーティーを観覧席から眺めていたら、ミオンが声をかけてきた。


「センパイの心配を増やすことになっちゃうかもなんですけど……アレス君絡みの話です」

「そう……どんな?」

「センパイもどっかから、アレス君が学園都市近くのゴブリンダンジョンを攻略したのを聞いていると思いますけど……」

「そうね、冒険者ギルドの知り合いから聞いたわ……確かエンペラーが出たのよね?」

「そうです、そのエンペラーのことなんですけどね……どうやらアレス君がエンペラーのドロップアイテム……特に帝冠を所持しているっていう話が広まり始めてるみたいで……」

「……なるほど、それが狙われているってわけね」

「まぁ、端的にいえば……それで一応、王国騎士団の中ではアレス君のことを『センパイとアタシのお気に入り』といっておいたので、下手に手を出そうとするバカはいないと思いますし、頭のある文系貴族ならアレス君と揉めることのリスクを理解しているでしょう……でも……」


 間違いではないけれど、「私のお気に入り」だなんて……

 まぁ、それはこの際置いておこう。


「それがわからず手を出そうとする貴族家の人間がいるだろう……ということね?」

「はい、残念ながら……」

「まぁ……アレス君ならその程度のこと、苦もなく跳ね返せるでしょうけれど……」

「そうですねぇ……でも、今はマズいかもですね」

「そうね……念のため明日、このことを話しておこうかしら……」

「それがいいと思います! そのときにでも一発ハグっと抱き締めてあげたらいいですよ! そしたらアレス君、一瞬で元気イッパイになっちゃいますよ!!」

「またミオンは適当なことを……」

「え~男子にはそれが最高の『そりゅーしょん』じゃないですかぁ?」

「無理して使い慣れない言葉を使う必要はないと思うわよ?」

「うっ……」

「それに、今にして思えばミオン……男の人を抱き締めたのはアレス君が初めてでしょう? 魔纏を展開していたアレス君だったから問題なかったけれど、ほかの人が相手だったらたぶん……怪我をさせていたわよ?」

「えぇっ! そんな!? でもアタシ、センパイとかにも抱き着いてますよ!?」

「だから『男の人を』といったのよ……あのときは力加減がおかしかったもの」

「……あ、あはは~」


 まったく、ミオンときたら……

 でも、抱き締めてあげる、か……

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