第9章 軟弱な精神

第214話 知的探求

『アレス! タタカイゴッコ、スルゾ!』

『……おお、ごめんごめん、よっしゃ! いっちょやりますか!!』


 ゲンのことを無視していたつもりはない。

 だが、レミリネ師匠との再会は、周りのことが見えなくなってしまうぐらい、俺に強い驚きと喜びを与えた。

 まぁ、ゲンにもその辺のところがなんとなく伝わっていたのか、空気を読んでしばらく待ってくれていたみたいだ。

 そんなわけで、再会による感激がある程度収まってきたところで、ゲンのリクエストにお応えすることに。


『イクゾ!』

『おう!』


 そんな掛け声とともに、たたかいごっこが始まる!

 フッ、レミリネ流剣術を学び始めたニューアレスの強さ、思い知るがいい!!

………………

…………

……


「……まぁね、そうだよね、わかってた……夢だとわかってはいたけど……でも、嬉しかった」


 目が覚めるとそこは、いつもどおりの学生寮の自室。

 そして目に入るのは、青々として生命力に満ち溢れたキズナ君の姿。


「おはよう、キズナ君……君はいつまでも元気でいてくれよな!」


 そういって、朝の挨拶をする。

 加えて俺にとって都合よく、何より幸せだった夢の話をキズナ君にした。

 ……都合よく?

 まぁ……都合がいいといえば、都合がよかったけどさ……

 それなら、レミリネ師匠の姿がスケルトンボディじゃなくて、生前の姿だとさらによかったんだけどなぁ……

 いや! それは欲張り過ぎというものだろう!!

 ……ふぅ、危ない危ない。

 もう二度と逢えなかったかもしれないレミリネ師匠に夢とはいえ逢えたんだ、それでいいじゃないか。

 それにしても……いくらお姉さんセンサーが働いていたとはいえ、スケルトンナイトという鎧を装備した骸骨の姿でしかないレミリネ師匠に、あんまり違和感なく好意を持っていたのが、今更ながらに自分を凄いと思ってしまうね。

 こっちの世界ではゲームによる補正の影響か、大人の女性の見た目に年齢の差がほとんどなくなっていて、いくつになってもみんな美人かカワイイって感じだ。

 だから俺自身、前世感覚も加味して年齢的ストライクゾーンが広がったのだと思っていた。

 だが、スケルトンという見た目に対してまでお姉さんセンサーが働いたという事実、よく考えるとこれは驚くべきことだったかもしれない。

 ……いや、見た目じゃないんだ……レミリネ師匠はそれだけ魅力的な女性だったということなのだろう。

 それに、ちょっとしたしぐさにも愛嬌とかがあって、なんとなく生前もこんな感じだったのかなっていうイメージが自然と湧いたからね。

 俺のお姉さんセンサーは、そういうところを余すことなく拾っていたのかもしれない。

 あと、もしかしたらだけど……原作アレス君も「お姉さん属性」持ちだった可能性があるな。

 原作ゲーム知識からすると意外にも感じるけど、王女殿下に対する恋愛感情も原作アレス君の記憶にほとんど見当たらなかった……というより、地位に対する執着がメインだったね。

 といいつつ……お姉さん好きっていう感情的記憶も特には残っていないんだけどね。

 でも、改めて考えてみると、なんとなくそんな感じがするんだよなぁ。

 なんというか、無意識に求めてしまう……魂の部分で、みたいな?

 そんなわけで、俺がアレス君の体に転生してきたのはそういう共通項があってのことなんじゃないかって、そんなふうにも思うんだ。


「ま、結局のところ何がいいたいのかっていうとだね、キズナ君……俺は『お姉さん大好き!!』ってことになるわけだよ」


 そんな感じで、朝の冴え渡る思考力を存分に使い、「お姉さん」に対する想いを知的探求しながら、それをキズナ君に語って聞かせていたのだった。


「……ふむ、これはそのうち『お姉さん論』として、周囲に啓蒙していってもいいかもしれないな……そうは思わないかい、キズナ君?」


 いやまぁ、返事をするわけもないことはわかっているんだけどさ、その辺はノリということで……ね?

 さて、脳の朝活はこれぐらいにして、体のほうも鍛えよう。


「というわけで、そろそろ朝練に行ってくるよキズナ君、またあとでね!」


 そうしていつものコースに向かう。

 先ほど脳をしっかり働かせたおかげか、周囲の光景が一段と輝いて見えるよ。

 そんなすがすがしい朝に、気分も自然とアガってくる。

 そして、いつもどおりファティマもいる。


「ちゃお! 今日はいい朝だな!!」

「おはよう……そして今日は一段と元気ね」

「フッ、元気印のアレス君とは俺のこと!」

「そう、よかったわね……その元気、朝のパルフェナにも分けてあげて欲しいぐらい」


 おっと、ここでファティマ式ジョークが飛び出したぞ!


「フッ、お前も今日は機嫌がいいみたいだな」

「あら、私はいつもと同じよ?」

「そっか! まぁ、朝のパルフェナを元気にするのは無理だろうが、スッキリ目覚められるよう俺も祈っておいてやろう!!」

「通じるといいわね……主に私のために」

「ハハッ、そうだな!」


 こうして、挨拶と小粋なジョークを交わして、朝練開始!

 今日も素晴らしい一日の始まりだ!!

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