第373話 俺からひとつ提案がある

 俺の身バレによりズクードの魂からの訴えが、やや中途半端な形で中断されてしまった。

 というわけで、いくらか責任を感じつつ俺なりに軌道修正を図ろうと思う。


「ズクード、そしてお前たちもだな……先ほどもいったが、ソエラルタウト領はこれから文化力の底上げに尽力していく予定だ。その中で、もしかしたら何かしら熱中できるものが見つかるかもしれない、保証はできないが……だが、いざその何かが見つかったとき、全力で取り組めなかったらどうする? ちょっとした能力不足に悩まされるかもしれない……そんな場合に備えて、俺からひとつ提案がある」

「て、提案だとぉ?」

「な、何をするっしょ?」

「……ゴクリ」

「あっ、またアレスが輝き始めた……」


 たまたま居合わせた周囲の客も含めて、オーディエンスの注目が俺に集まる。

 いいねぇ、この感じ……やはり悪くない。

 そんなことを思いつつ、俺がこの世において最も信じられると思う行為の名を告げる……


「それは……魔力操作だ!!」

「……はぁ!?」

「え、えっと……」

「なんだろう……この拍子抜け感は……」

「アレスがまぶしい……」


 ズクードをはじめ、オーディエンスたちが呆気に取られている。

 トディはトディで、なんか変なものが見えるようになっちゃったみたいだし……


「くくっ、アレックスさんらしいですねぇ」

「そうねぇ……でも、本気だという気持ちはよく伝わってくるわぁ」

「アレス様は魔力操作に対し、いつでも真摯」

「あなたたち! 何をポカンとなされているの? 魔力操作こそが全てを解決するのですわよ!?」

「……なんてーか、このコの表現はちょっとヤベェ奴感があるけど、魔力操作をやっといたらイイコトあるよ?」


 なんて、今回屋敷から一緒に来たみんなが意見を述べた。


「フッ……お前たちが魔力操作になじみがないことぐらいは俺も理解しているつもりだ」


 まあ、貴族ですらサボりがちなものだからな……


「だが、魔力操作をやっていれば、本当に……ほんの少しずつだが、それでも確実に魔力は増えていく! そうすれば、魔力が必要な何かを始めるときに必ず役に立つ! それに、魔力操作は体力の回復手段になる……それどころか、熟練すればケガを治すことだってできる! こんなふうに!!」

「キャァァァ!!」

「……なッ!! 何やってんだよぉ!!」


 あのファティマ式の……手のひらに刃物で穴を開けてから、回復魔法で治療するっていう流れを見せた。


「す、すげぇ……」

「もしかして……回復魔法ってやつか?」

「えっ? 回復魔法って……えげつないほどの苦行を積んだ高僧が身に付ける御業だって聞いたことがあるぞ?」

「マジかよ……ウチの領の次男様は天才か?」

「まあ、ここまでやると魔法になっちゃうわけだが、これも魔力操作の延長線上にあるものだ。ああ、そうそう、魔力操作はアンチエイジングにも役立つから、美を求める者にも効果バツグンだ!」

「えっ、ホントに?」

「今の、聞いたかしら?」

「ええ、シッカリと!」

「確かに、アレス様のお顔を見れば、説得力がこの上なくあるわよね?」

「ええ、あり過ぎるほどに……」


 とはいえ、この世界の女性のみなさんは基本的にみんな美しいからね、そこまで大きな差にはならないかもしれないが……


「ほかにも、飽きやすいからこそ、集中力が磨かれるともいえる! 何事も集中力がものをいうことは、みんなも日々の生活の中で実感していることだろう?」

「そりゃ、あんなつまんねぇのを続けられたら……なぁ?」

「そうだ……な」

「今挙げたのはちょっとした例でしかないが、魔力操作には無限の可能性が秘められている! さあっ、みんなも一緒にやろうぜっ!!」

「アレス! オレやるよ! いや、ちょっと前から魔力操作のことを聞いて軽く始めてたけど、もっと真剣にやるよ!!」

「何か見つかったときのためかぁ……そっか……なるほどなぁ」

「ま、基本暇だからやってみてもいいっしょ!」

「お金も特にかからないみたいだし!」


 こうして、雪山に集っていたみんなに魔力操作の素晴らしさを語って聞かせた。

 ここにいる全員が魔力操作にハマるかは分からないが、少しでもこれからの人生をよりよくしていくきっかけとなってくれれば嬉しい限りだ。

 ……といいつつ、意外とこの中に魔力操作こそが一生をかけて為すべきことと思い定める人が出てきたりして……なんてね。

 その場合はもう、仙人だね!

 こんな感じで結局、スノーボードの時間が魔力操作教室になってしまったが……こんな日があってもいいだろう。

 そして日暮れの時間が近づいてきたので屋敷へ帰ることに。

 今日は精神的になかなかエキサイティングな一日だったなぁ。

 そんなことを思いつつ、フウジュ君をかっ飛ばす。

 夕食までもうちょっとだから腹内アレス君! それまで待っててくれよなっ!!

 ただ、空を飛びながら改めて考えてみると……ズクードの悩みが完全に晴れたわけではないんだよな……

 何かが見つかるまでは、もがく日々が続いてしまうのかもしれない。

 いつか見つかってくれるといいよなぁ。


「……やはり、坊ちゃまのお人柄であればこそですね」


 なんてギドが後ろでボソッと呟いていたが……

 その呼び方、原作アレス君に怒られちゃうぞぉ?

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