第395話 そろそろ暴れたくてウズウズしている頃

 セーフティーゾーンを離れて、9階へと続く階段に向かうところ。

 そして、ゲイントを無事発見したことで極端に急ぐ必要もなくなったこともあり、戦闘の大半は使用人たちに任せることにした。

 まあ、使用人たちもここまでずっと回収作業ばっかりだったからね、そろそろ暴れたくてウズウズしている頃だったんじゃないかなという気がしなくもない。

 じゃあ、そのあいだ俺は何をするのかというと、それはもちろんスリングショットに挑戦だ。

 見た感じのなんとなくでやり方も分かるだろうとは思ったが、一応ゲイントに軽くレクチャーを受けといた。

 身近にプロ級の腕前を持った人がいるのなら、聞かないのは損だもんね!

 というわけで準備は整った、あとは実践あるのみ!!


「ふむ、あのスライムを狙うとするか……」


 適度な距離にいるスライムを見繕い、狙いを定める。

 そして、もともと全身に魔力を巡らせてはいるが、今回は眼に魔力を多めに集中させる。

 ……なるほどね、狙うべき核がクッキリと浮かび上がってくるように感じる。

 そういえば、ソレバ村の泥遊びが大好きなカッツ君も無意識のうちに眼に魔力を込めていて、魔力の色を認識していたんだっけ。

 もしかすると、ゲイントやカッツ君みたいな職人気質な人ほど自然とそういった能力を磨けているのかもしれないな。

 また、そういう人こそ天才と呼ぶにふさわしいのではないだろうか、なんてことも思ってみたりする。

 それはともかくとして、スライムの核という狙うべき的は視えた。

 あとはその狙いに向けて鉄球を放つのみ。


「……そこ!」

「オウッ、ノォッ! ……惜しいなぁ」


 ……ゲイントはいい奴なんだが、リアクションのクセがちょっと強めなんだよなぁ。

 まあ、いいんだけどさ。

 いや、それよりもだ、俺が放った鉄球は残念ながら外れてしまった。

 狙うべき的は視えていたはずなのに外れてしまった……ということは、やはり俺の技量に問題があったということだろうな。


「まあ、最初はそんなものさ。俺だって、何度も外して悔しい思いをしながら上達していったんだ」

「ああ、そうだな……俺もまだスリングショットを始めたばかりなんだ、地道にいくよ」

「それがいい。さて、それじゃあ俺も一発いかせてもらおうかな」

「よし、改めて見学させてもらうことにしよう」

「それなら、参考になるよう一層気合を入れなきゃだな」

「フッ、期待しているぞ」

「おうとも!」


 そしてゲイントは手頃なスライムに狙いを定めて、鉄球を撃った。


「ピギィッ!!」

「ビッグヒット! ハッハーッ!!」


 ……やっぱりクセが強いんだよなぁ。

 それはそれとして、改めてゲイントのフォームから見て学び、そのイメージを脳内に写し取った……つもりだ。

 あとはそのイメージを反芻しながら俺の身体に落とし込むだけ。

 まあ、それが難しいんだけどね。

 それに、同じようにレミリネ師匠の身体操作もあれからずっと折に触れて脳内で反芻しているのだが、いまだに満足できるほど己のものにできていないんだ。

 まあ、レミリネ師匠の領域は遥か彼方に在り過ぎるというのもあるけどね……


「それにしても、守られながらっていうのはとても心強いし……何よりも楽だな」


 そういいながらゲイントは、スライムのドロップ品であるグミを食べて魔力を回復させている。

 ゲイントの保有魔力量では、スリングショット一発でグミ一粒が必要って感じかな。


「うむ、そうだろう。加えて、自力で魔纏を展開できるようになるとかなり便利だからな、ダンジョンから無事帰還したら、その練習もお勧めしておく」

「そうだなぁ、実戦で使えるぐらいの強度となると先はだいぶ遠そうだけど、やってみる価値はありそうだ」

「まあ、全ての基礎は魔力操作だ、魔力操作に習熟すれば自ずと道は開けるさ」

「……そうか、彼女たちも魔力操作で道を開いたんだろうなぁ」


 そういいながら、ゲイントは3人娘に視線を向ける。

 というのも、俺たちがスリングショットを一発一発確認しながら撃てるぐらいのんびりしていられるのも、3人娘が大暴れしているからみたいなところがある。

 ノムルは俺が教えた風歩でスライムに急速接近し、問答無用のメイスの一撃でスライムを原形も留めないほど破裂させている。

 そしてヨリは、同じく風歩で急速接近するのだが、こちらはレイピアによる刺突で上手く核を刺し貫いている。

 もちろん2人とも魔纏を展開しながらなので、飛び散った酸によるダメージは受けないし、武器も傷んでいない。

 それからサナは、ドヤ顔先生ことギドの指導を復習するつもりなのか、ストーンバレットでスライムの核を狙い撃ちしている。

 それでおそらく、弾力あるスライムボディを障壁魔法に見立てているんじゃないかなって気がする。

 そうした実験としていろいろ試しているのだろう、威力を抑えたストーンバレットを同じ位置に続けて連射して最終的に核を破壊とかやっているし、かと思えば、ギンギンに魔力を込めた一発を撃ち込んだりしているのだ。

 それで、そのあいだギドは何をしているのかというと、メインはドロップ品の回収作業。

 まあ、ノムルやヨリはスライムの核を破壊直後に再度風歩による移動を開始して次の目標へ接近しているからね、ドロップ品を拾う暇がないんだ。

 サナはサナで、ストーンバレットによる遠距離攻撃を主体にしているから、いちいち拾いに行ってられないっていう感じだろうか。

 そしてギドはたまに、3人娘が対応するとタイムロスになりそうな位置にいるスライムにファイヤーボールをひょいっと放り投げて蒸発させるなんてこともしている。

 いやぁ、全くもってギドのサポート力は大したもんだねぇ。

 とまあ、こんな感じで8階を攻略したのである。

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