第396話 ブーム

「8階で新登場のドロップ品はタピオカドリンクか……」

「ああ、これによってこの1週間、水分補給もバッチリだった」

「なるほどなぁ……」


 というわけで先ほど8階の攻略を終え、現在は9階へと続く階段を上っているところ。

 ここでも毎度のように、スライムのドロップ品によるリフレッシュタイムである。

 ただ、8階では使用人たちも大暴れして体力も魔力も相応に消費している。

 そのため、スライムのドロップ品がもたらしてくれる体力や魔力の回復効果はバカにできないものがあるといえるだろう。


「……ふぅ、いっぱい動き回ったから、喉もからっからだったけど、これで楽になったぁ~」

「ええ、タピオカミルクティーの優しい甘さが体の隅々まで行き渡り、まさに全身をリフレッシュしてくれているようですわ!」

「……それはドロップ品の回復効果を感じているだけ」

「そんな細かいこと、今はどうだっていいじゃ~ん」

「ノムルさんのおっしゃるとおり、結局のところわたくしたちの血となり肉となるのですから、同じことですわ」

「……まったく」

「まあまあ、それよりタピオカドリンクをもう一杯いかがですか?」

「じゃあ、私はコーラで!」

「では、わたくしは……アップルティーをくださいな」

「……イチゴミルク」

「は~い、では、どうぞ」


 3人娘の注文を受けて、ギドが用意してやる。

 それを飲んで3人娘は……


「「「おいしいぃ~!」」」


 なんてニッコニコである。

 やはり、タピオカドリンクはみんなを笑顔にしてくれるステキドリンクなんだね。

 そんなことを思いながら、俺は抹茶ミルクでいただいている。

 フッ、安定の焔好みさ。

 しかしながら、前世でも大人気なタピオカがここで登場とはな……ダンジョンさんも「理解ってる」のかもしれないね。

 前世日本でも、定期的にブームになるタピオカ……俺がいない日本で、次にブームがくるのはいつだろうか。

 いや、ちょっと前に起こったブームがまだ終わってないとする識者の見解もあるかもしれない。

 ま、いずれにせよ、今となっては遠い世界の話だな。


「それにしても、お菓子とはいえ、これだけ回復力のある食べ物がそろっていてセーフティーゾーンもあるとなれば、ここに住めちゃいそうだよねっ?」

「スライムを倒せるだけの実力さえあれば、可能ではありますわね」

「ただし、飽きなければ」

「あ~っ、確かにそうだよねぇ」

「ええ、美味しいお菓子でも、毎日それだけだと少し厳しいものがあるでしょう」

「よって、飽きのこないお菓子ローテーションを組む、これが鉄則」


 とかなんとか、3人娘がワイワイやっている。

 そんな3人娘に、ゲイントが優しい眼差しを向けている。


「娘さんのことを思い出しているのか?」

「ああ、こんなふうに待たせることも覚悟はしていたが、それでも1週間となるとやはり寂しいものがあるからな」

「今向かっている9階、そして10階の中ボスを倒せば転移陣で帰れる。もう少しの辛抱さ」

「そうだな……そして、これから向かう9階や10階で上級ポーションが出てくれると、なお嬉しいのだが……」

「きっと出るさ」

「ありがとう……でも、本当にいいのかい? 上級ポーションが出たとき俺がもらってしまって」

「もちろんだ。既に自分たちで必要なぶんは確保できているからな、気にすることはない」

「本当に、恩に着るよ」

「いいって、それより俺たちはスリングショット仲間だろ?」

「スリングショット仲間……ああ、そうだな! 俺たちは仲間だ!!」


 こうしてゲイントとの友情を確かめ合ったところで、ちょうど9階までの階段も終わりを迎えた。

 さて、ここからは9階、張り切っていこう!

 というわけで、9階に足を踏み入れると……


「そりゃそうだよなぁ……」

「8階は繁殖が本格化する前に俺がコツコツ狩っていたからそうでもなかったのかもしれないが、やっぱりこれが大繁殖なんだなぁ……」

「私たちが8階でゆっくりしていたあいだに、さらにたくさん繁殖したのかもしれませんね」

「それにしたって……天井までスライムで埋め尽くされちゃってるじゃ~ん!」

「なかなかに壮観な眺めですわね……」

「……とかいっているうちに、スライムが酸を飛ばしてきた」

「ま、この程度大した問題ではないが、足の踏み場ぐらいは欲しいよな……というわけで、俺が多少間引くとしよう、少し下がっててくれ」


 そうして光弾を連射、とにかく連射した。

 8階でのスリングショットの練習で核を狙う感覚がいくらか養われたのであろう、いくらか狙いやすくなった。

 なんか、スライムの核のほうから「ココだよ!」ってアピールしてくれている気がするぐらいだ。

 そうして、ほどよく数を減らしたところで光弾の連射をストップする。


「とりあえず、これぐらいでいいかな」

「……な、なんじゃそりゃ……魔法に詳しいわけじゃないけど、アレスさんの魔法がとんでもないってことだけは、俺にだって分かるぞ……」


 先ほど鉄球を生成して見せたことで、俺の実力もある程度は理解していたのだろうが、それでもこれだけの瞬殺劇には驚いたみたいだ。


「さて、それではドロップ品の回収をしてくるとしましょう。ああ、あなたたちはドロップ品を踏まない自信があるのでしたら、スライムの討伐を始めてくださって結構ですよ」

「そう? それじゃ、遠慮なく行くよっ!」

「ドロップ品を踏むのが心配なら、空を踏めばいいだけのことですわ!」

「私は遠距離魔法で仕留めるから、そもそも一歩も動かない」


 こうして、9階の攻略がスタートした。

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