第397話 誰しもが経験することさ

「えいやっ!」

「ピギッ!」

「もう一発っ!」

「ピャッ!」

「まだまだぁっ!」

「ノムルさん、大ハッスルですわねぇ……あ、その方向にはドロップ品が落ちてますわよ、気を付けてくださいまし」

「分かってるって!」

「ピ……ピギャァ!」

「落ち着いてそうな物言いのヨリだけど、暴れ具合はノムルと大差ない」

「「アンタも大概でしょっ(ですわ)!!」」

「ピギャァッ!!」


 まあ、2人のいうとおり、サナもストーンバレットをバンバン撃ちまくりだからねぇ。

 それに、スライムもたまらず抗議の声(?)を上げているぐらいだし。

 それはさておき、俺もスリングショットの練習を始めるとしますかね……でないと、3人娘にスライムを狩り尽くされて的がなくなってしまう。


「ふぅむ……よし、君に決めた!」


 手頃な距離にいたスライム、そして魔力を眼に集中させることで浮き上がって見えるその核に狙いを定めて鉄球を放つ!


「……チッ、外したか……ならばもう一発!」


 だが、再度放った鉄球もスライムから外れてしまった。


「ピィ~!」

 

 あ、スライムの野郎! 俺を今バカにしたのか!?

 舐めやがって! 今度こそ当ててやる!!


「アレスさん、肩に余計な力が入ってるよ」

「……おっと、これはいけない」

「まあ、思わずアツくなってしまうのは、俺たちスリングショッターの誰しもが経験することさ……でも、そこであえてクールになるのが、俺たちの目指す在り方ってもんだ」

「クールか……そうだな、それは忘れちゃいけない心の在り方だった……ありがとう、思い出させてくれて」

「ハハッ、アレスさんならそのことにすぐ気付いただろうし、俺がわざわざ口出しする必要もなかっただろうけどな!」

「いや、それでもしばらくは頭に血がのぼって何発か無駄に撃つことになっていただろう」


 それはクール道に身を置く者として恥ずべき行為だったろうな……

 いや、別に失敗が恥ずかしいというわけじゃないんだ。

 ただ、クールさを忘れて感情のままに撃とうとしたのがいただけない。

 たぶん、ここまでなんの苦もなく光弾で始末できていたから、無意識のうちにスライムを格下と侮っていたのだろう。

 要するに、俺のほうがスライムを舐めてたってことだ……これは反省だな。


「とはいえ、本当はそうやって何発も無駄にしながら徐々に感覚を研ぎ澄ませていくものなんだけどな!」

「確かに、そうなんだろう。だが、もう気付いたのだからクールな意識で撃つことにしよう……そのほうが上達も早いだろうしな!」

「ああ、違いない!」


 こうして、クールな意識を保ちながら再度スライムへ照準を定める。

 そして、放つ。


「……ふむ」


 キッチリと命中はしなかったものの、鉄球がスライムの向かって左上側の端をかすって飛んでいった。

 なるほど……今より右下側を狙えばいいということだな。

 そしてまた集中を高め、狙いを修正して……放つ。


「ピッ!」

「……ッ!」

「……今のは右下過ぎたか」


 スライムのボディにヒットはしたものの、核には当たらなかった。

 そのため、少々左上側に狙いのポイントを戻して……もう一度、放つ。


「ナイヒッ!」

「……いや、まだ完璧に芯を捉えられていなかったみたいだ」

「……ピッ……ギィ!」


 核のど真ん中に命中はしなかったものの、スライムにとってはそれでじゅうぶん致命傷となったようだ。

 奴は時間をかけてゆっくりと原型を崩壊させながら酸性の水たまりとなり、やがて黒い霧となって姿を消した。


「やったな! アレスさん!!」

「ああ、ようやくスリングショットで1体討伐といったところか」

「しっかしながら、スリングショットで狙いを定めて放つ瞬間、あのヒリヒリとした緊張感がたまらなくいいんだよな! 横で見ているだけでも、それがすっごく感じられてスリリングだったぜっ!!」

「ああ、着弾点を確認しながら修正を加えていく作業、そして一発を放つたびに無心でゾーンに没入していくような感覚、これはやみつきになりそうだ」

「ハハッ、そうだろう? ……だけど、さっき見た凄い魔法からして、アレスさんの本職は魔法士だろ? スリングショットを気に入ってくれたのは嬉しいが、実際のところあまり必要ない技術だったりしないか?」

「う~ん……確かにそうかもしれないが……」


 そういいながら、手のひらに乗せた鉄球に魔力を纏わせ、そのまま魔力で弾丸のように飛ばしてみる。


「ピギャッ!!」

「まあ、魔力を使えばこんなふうに討伐も可能ではある……だが、魔力を封じられるなどして、使えなくなった場合のことも考えておきたくてな……だから、魔法のほかに剣術の練習もしているし、スリングショットも何かと役に立つ場面があるかと思ったんだ」

「そっか、なるほどなぁ」

「というか、既に役に立ったぞ? 8階でスリングショットの練習をしたあとに放ったさっきの魔法、いつもより狙いを定めやすかったからな……ま、これは眼に魔力を集中させた結果でもあるけどな」

「なんと、それは凄い!」

「おそらくだが、逆にゲイントがバレット系の魔法を撃つときも、かなり高い命中率になるんじゃないかと思う」

「そうなのか」

「ああ、イメージは完璧だろうからな。あとは保有魔力量を増やすだけって感じだろう……とはいえ、ゲイントの基本はスリングショットだろうけどな」

「もちろん、そのとおりだ」

「まあ、いろいろと相乗効果が期待できるだろうから、たまには魔法の練習もやるといいさ」

「ああ、そうしてみるよ」


 こうして、少しだけスリングショットの技量が向上したことを喜びつつ、9階の攻略を進める。

 といいつつ、既にスライムのほとんどが3人娘に狩り尽くされているので、ドロップ品を拾いながら階段に向かって歩くだけって感じなんだけどね。

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