第120話 もうひとつの故郷

 盗賊どもを村へ護送しているときのこと。

 彼らが俺に悪態をついてくる。


「てめぇ! 覚えてろよ!!」

「……覚えてないだろうなぁ」

「なんだと、この野郎! クソが!!」


 ……覚えてないというのは、俺ではなく「彼らが」である。

 この王国では、犯罪者に対する刑罰のひとつとして強制労働がある。

 軽罪の場合はそのまま罪の重さに応じた労働をするだけ。

 だが、重罪の場合は闇属性魔法によって日常生活を送るのに必要な部分以外の記憶を消されたうえで労働が課される。

 おそらく盗賊の場合は一発アウト。

 特にこんな徒党を組んでいた場合、どんな悪事をしでかしていたのやらといった感じだし。

 まぁ、名前や顔の売れすぎた極悪人の場合は死刑もあり得るわけだが……

 しかしながら、この記憶を消されるという処置……なかなかにエグイものがあるなと思わずにはいられない。

 だって、記憶を消されるってことは自分を失うってことだと思うから……

 それはつまり、肉体的な死刑を免れたってだけで、精神的な死刑を課されたって言えるだろうから……

 とはいえ、そうされても仕方ないようなことを彼らはしてきたってことなんだろうし、統治者ではない俺が刑罰の内容についてとやかく言うのもな……

 領地を持つようになると、こういう難しい問題にも関わらざるを得なくなるのだろう……

 うん、俺にはそういう責任の重い仕事は無理だ。

 やっぱ俺は一介の冒険者として気ままに生きていきたいって思ってしまう。

 それから、刑罰絡みの話として、この前ナミルさんに吸命の首飾りを渡してしまったテグ助のその後について、昨日村長に聞いた。

 宮廷魔法士の取り調べに対し包み隠さずすべてを話し、テグ助も騙された側の人間と判断されたことや、ナミルさんも被害届を出さなかったこともあり、厳重注意で済んだらしい。

 まぁ、魔族の暗躍を表沙汰にしないためっていうのもあるかもしれない。

 ただ、テグ助はナミルさんに合わせる顔がないということで、家屋等の資産をナミルさんに譲り、村を出て行ったらしい。

 それに対し、ナミルさんはテグ助のことを許しており、引き止めたらしいが、それを奴は聞かなかったらしい。

 それでナミルさんは「いつでもテグが帰ってこられるように」と言って、奴の家を定期的に掃除等の管理だけしてそのままにしているらしい。

 ……テグ助、お前の気持ちはわからんでもないが……ナミルさんに迷惑がかかり続けているぞ……まったく、仕方のない奴め。

 しかしまぁ、魔力探知で居所を探ってみたところ、テグ助もナミルさんのことが気になるのか、言うほど遠くへは行っていない。

 なので、学園都市に戻る際に会って、家に帰るよう言ってやろうと思う。

 ちょっとばかり遠回りになってしまうがな! サービスだぞ、この野郎!!

 そんな感じで、盗賊たちの悪態をBGMとしながら、昼を少し過ぎたあたりで村に戻ってきた。

 今回の冒険によって村の若者4人衆には、なにか得られるものがあっただろうか……あったらいいな。

 そして村に入る前、盗賊を村の外に設置された檻に放り込む。

 拘束しているとはいえ、盗賊を村の中に入れるわけにはいかないよね。

 あとは村の自警団のみなさんにお任せしよう。

 まぁ、既に馬を走らせているようだから、数時間後……遅くとも明日にはこの村を管轄する領の兵士が引取に来るだろう。

 この盗賊どもにどの程度の懸賞金がかかっているのかは知らないが、それらは村への寄付とした。

 是非とも村の防備を強化するのに役立ててもらいたいものだ。

 ちなみに、この盗賊どもがなぜ今回この村を狙おうとしたのかということだが、この前のゴブリンとの戦闘で多くの戦死者を出したという噂を聞いてのことらしい。

 これにより盗賊どもは、村には戦士と呼べるレベルの男が激減していること……仮に戦士が残っていたとしても、ゴブリンごときに敗れるような弱者しかいない村と判断して襲撃を計画したようだ。

 また、期間が1カ月ほど空いているのは、情報の伝達速度によるものもあるが、領兵の見回りが手薄になるのを待っていたというのもあるらしい。

 ……このタイミングで村に来ようと思ってよかった、ちょっと時期がズレてたらどうなっていたことか。

 そんなことも思いつつ、盗賊関係のアレコレを済ませ、村に入る。


「おかえりなさい、アレスさん」

「お帰り! アレス兄ちゃん!!」

「ただいま戻りました、これでもう盗賊の心配はありません」

「アレス殿! 今回もまた大変お世話になりました! 村を代表してお礼申し上げる!!」

「いや、俺もこの村が気に入っているのでな、当然のことをしたまでだ」

「おお、アレス殿! なんとも嬉しいことを言ってくれる!!」


 ナミルさんやリッド君の出迎えに加え、村長はじめ多くの村人に感謝の言葉をかけられる。

 なんとなく、俺にとってこの村はもうひとつの故郷みたいな感じになってきているからね、みんなに喜んでもらえるのは嬉しいもんだよ。

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