第119話 気長に取り組め

 朝食後の軽い休憩を終え、心身ともに準備が整ったところで出発だ。

 村の入り口には村長はじめ村人たちが集まっていた。

 その中には今回の同行者の男たちもいる。

 人数としては4人だ。

 村長としてはもう少し頑張って集めようと思ったようだが、あまりこっちに人数を割きすぎると村の防備に問題があるかもしれないので、人数を絞ってもらった。

 ……この前のゴブリンとの戦闘で村の戦える男たちが激減してるからさ。

 そもそも、俺としては単独でも問題なかったわけだし。

 それで、なんで4人なのかってところだが、それは俺がこれから野営研修で5人パーティーを組むので、5人で行動するっていうのはどういう感じかを掴む参考にでもなればいいかなと思ってのことだ。

 まぁ、ロイターたちと村人では戦闘能力という面ではレベルが違いすぎるので、連携とかの参考にはならないかもしれないけどね。

 それからこの4人であるが、成人したての20歳以下の若者ばかりである。

 本来ならそろそろ村を出て冒険者になろうかと思っていたところだったらしいが、今の村の現状では……って感じで残ってたみたい。

 そんなお預けを食らってる若者たちが少し不憫にも感じるので、今回の冒険を通して彼らに学園都市の冒険者のレベルってやつを見せてあげられればなって思う。

 そして、そこから何らかの刺激や学びを得てもらえると嬉しい。

 そんなことを思いつつ、村人たちに出発の挨拶をする。


「それでは、行ってきます」

「気をつけてくださいね」

「アレス兄ちゃん! 頑張ってね!!」

「アレス殿、よろしく頼みましたぞ!」

「あんたたちも、アレス君の邪魔だけはすんじゃないよ!」

「もっちろん! わかってるって!!」

………………

…………

……


 こうして村人たちの見送りを受け、村を出た。

 村の若者たちに怪我をさせるわけにはいかないので、彼らにもしっかりと魔纏をかけた。

 これで、俺のレベルを超えた奴でも出てこない限り大丈夫なハズ。

 そんな感じで安全面にも配慮したところで、盗賊らしき反応に向けて森の中を歩いていく。


「あれ? 森の中を歩いて結構経つのにゴブリンが全然出て来ないっスね?」

「ああ、それはたぶん俺のせいだ。あいつら俺の魔力を感じると逃げ出すんだ」

「え!! マジっスか!? アレスさんってパないって聞いてましたけど、マジヤベェっスね!!」


 すげぇ若者感のある話し方だね、なんか最高に同年代って感じがしちゃうよ。

 そして、当然と言えば当然かもしれないが、重めな話も出てくる……


「アレスさん……この前のゴブリンの件、俺の親父の仇を討ってくれて、改めてありがとうございます」

「僕も……兄の遺品まで持って帰ってきてもらって……本当に、ありがとうございます」

「……感謝」

「礼はこの前既に受けているが……君らの気持ちは改めて受け取った」

「……いやいや~これから盗賊かもしんねぇ奴らと戦うってときにシンミリしすぎっしょ。もっと気分アゲてこっ!!」


 聞いた話では、コイツも父親を失ってるはずなのに……気丈なものだ。

 だがそうだな、テンションが低すぎるのもよくないよな。


「確かに言う通りだ、ここから気合を入れてくぞ!!」

「「「「オウ!!」」」」


 こうして気合を十分高めて、さらに森の中を進むこと数時間、遂に盗賊らしき反応のある場所に到着。


「見えるか? あの洞窟に盗賊らしき人間の反応がある」

「え? 洞窟なんかないっスよ?」

「いや、アレスさんの言う通りで確かこの辺に洞窟があったはずだが……なんでないんだ?」

「う~ん、見当たりませんね」

「……あそこ」


 4人のうち、口数の少ない青年が洞窟の入口を指差す。


「ほう、気付いたようだな。あそこに認識阻害の魔法がかかっている」

「え!! マジっスか!?」

「そうだ、そうだった! あそこだった!!」

「えぇ、全然わからない……」

「……魔力を感じればわかる」

「その通りだ、やるねぇ」

「……妹がリッドから魔法を教わって来て……よく練習を付き合わされる」


 うんうん、わかるよ! 妹は可愛いもんね!!

 そしてリッド君、君ってやつは……凄い影響力じゃないか!!

 この村、そのうち一流の魔法士を多数輩出するようになっちゃうかも!?

 わぁ~そう考えるとメッチャ楽しみになって来たよ!!


「それじゃあ、認識阻害の魔法を解く。俺としては、君らにはここに残ってもらいたいところではあるが……」

「なに言ってんスか! 俺らも行くっスよ!!」


 まぁ、もともと冒険者を目指している若者たちだし、無理に抑えるのもな……

 一応魔纏もしっかりかけているし、連れて行ってやるか。

 ……いや、こんな言い方しといてなんだけど、実際のところ危険さよりもどっちかと言うと、盗賊に対する手加減をさらに慎重に行わなきゃなって感じなんだよね。

 だってほら、壊しすぎちゃったらさ……ね?


「わかった……だが、基本的には俺が戦う。君らは身を守ることを第一に考えてくれ」

「はい、アレスさんの邪魔にならないようには気を付けます!」

「そうしてくれると助かる、じゃあ行こうか」


 こうして、へったくそな認識阻害の魔法を解いて洞窟に向かう。

 カスみたいな魔法ではあったが、一応盗賊の中に魔法士がいるってことには注意をしておくべきか。

 とはいえ魔力探知で調べた感じ、一般的な平民より少し魔力があるかなって程度なので、たいした脅威でもないだろうが……念のため。


「やぁ、君たちに質問なんだけど、ここでなにをしているのかな?」

「て、てめぇら! どうして!?」

「ん~? 村の近くの洞窟に見知らぬ人間が大勢集まってたら気になっちゃうよね?」


 盗賊の彼が言いたいのは、認識阻害の魔法がかかっていたのにどうしてってことなんだろう。

 でもまぁ、そんなの知ったこっちゃないので、煽っていくスタイルを選択。


「それでさ、君たちってあれかな? 盗賊ってやつなのかな?」

「ヘラヘラしやがってこの野郎! だったらどうだってんだ、コラァ!!」

「おお、アッサリ認めてくれてありがとう。それじゃあ捕縛させてもらうね!」

「ぎゃぁぁぁぁ!!」


 そんなわけで、洞窟に潜伏していた男たちの手足に氷塊をぶつけまくる。

 つららで貫いてもよかったんだが、俺の回復魔法の練度だと下手したら出血多量で死んじゃうかもしれないからね。

 これが俺なりの手加減ってわけ。

 まぁ、結構なサイズの氷塊を勢いよく飛ばしているので、骨折程度は我慢してもらいたいところ。

 こうして洞窟内にいた男たちは皆、地に伏すこととなった。

 うん、あっけないものだったね。

 ちなみに今回はトレントブラザーズの出番はなし。

 氷塊をぶつけるだけですべての片が付いた。

 まぁ、たとえトレントのマラカスだったとしても、加減をミスったらグチャグチャってなってた可能性もあったからね……使わないで済んでよかったよ。

 この前の決闘はロイターの耐久力……いや防御力かな? とにかくそういうものがあってのものなんだってことを忘れちゃいけない。

 それから、一応警戒していた魔法士だが、どうやらそいつが盗賊の頭だったみだいだね。

 ……俺からしたらザコでしかないが、それでも真面目に冒険者でもやっていれば一目を置かれる存在ぐらいにはなってただろうに……馬鹿な奴だよ。

 いや、そいつなりに事情があったとか言うのかもしれんが、そんなのは知らん。

 そういうのは裁判権を持った奴にでも言ってくれ、俺の管轄ではない。


「……アレスサン、マジパネッス」

「……これが本物の冒険者の実力、そういうことなのだな……」

「あわわ」

「……強すぎる」

「これでもう抵抗してくる奴はいないはずだ。あとは歩けるようにだけして縛り上げよう。ああ、足が折れてる奴がいたら教えてくれ、治すから」

「「「「はい!」」」」


 5人で手分けして盗賊ども49人を拘束する。

 この49人の中には、尋問によって判明した洞窟外にいた奴も含まれる。

 魔力探知で見つけてささっと捕まえることが出来たんだけどさ、距離的にそんな遠くじゃなかったから助かったって感じ。

 というわけで、盗賊の捕縛完了。

 あと、盗賊の足の骨を治す際、村の若者4人衆が回復魔法に興味を示したので、練習方法も含めて教えてあげた。

 まぁ、やはりと言うべきか、引かれたね。

 でもま、冒険者をやるならポーションを使う機会も多いだろうし、そのうち感じを掴める日が来るかもしれないので、気長に取り組めと言っておいた。

 こうして洞窟内での作業をすべて終え、村へと帰還する。

 帰るまでが遠足、これ前世での常識。

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