第857話 あの安いってのが何よりも問題っすね!

「いやぁ……遅れちまって、すんませんでした!」

「いやいや、俺も今到着したばかりだ」

「私もそんなに待っていないし……それに、それぞれ到着するタイミングに差があるだろうと明確に集合時間を決めていたわけでもありませんからね」

「ま、まあ、そう言ってもらえると、俺としても気が楽になるってもんですけど……」

「フッ、3人ともちょうどいいタイミングで集合できた、それでいいじゃないか! それより昼だ! 早く食事にしよう!!」


 いやまあ、俺は一食ぐらい抜いたところでどうということもないが……腹内アレスが黙ってないからさ……

 それはそれとして、お腹が空いているからといって、飯屋に直行できないのがツライところといえるだろう。

 だって、おそらくどこの飯屋もベイフドゥム商会の調味料を使っているだろうから……

 まあ、そうしないと、利益を出すのが至難の業になってしまうだろうからね……

 そんなこんなで、さっさと街に入る手続きを済ませて、適当な広場に向かった。

 そこで、今しがたテイクアウトしてきましたって雰囲気でマジックバッグに保存していた料理を出し、食べ始めた。


「ハァ~ッ……アレスコーチに出してもらった料理自体は文句なしで美味しいですけど……現状のことを考えると、気分が滅入ってきちゃいますねぇ……」

「そのことは、メイルダント家の一員である私が一番痛感しているよ……」

「まあ、これからしばらく領内で混乱が続くことになってしまうだろうが……いずれ元どおりの日常を取り戻せるはず……それより、もっと深刻な事態になってから気付くことにならなくてよかったと思おうじゃないか」

「まっ、そっすよね! 一応、俺が見てきた街の様子としても、とりあえず今のところ原因不明の体調不良で苦しんでる人がいるって話も出てませんでしたし……」

「私も……その点についてだけはよかったと思っています……とはいえ、全てはこれからですが……」

「うむ、そうだな……」


 まあね、「今すぐ危ないわけじゃないなら、安い調味料を使わせろ!!」って反発も一部から上がる可能性もあるし、その辺の対応も大変になるだろうなぁ……

 さすがに俺としても、吸命の首飾りの粉末が体に蓄積していき、実際に健康被害が表面化するまでどれぐらいの期間を要するのか正確なところまでは分かんないからなぁ……


「そんじゃあ……早速! 調査報告といきますか!!」

「よし……ではまず、ケインから聞かせてもらおうか……」


 このとき、念のため俺らの会話を盗み聞きされないよう、周囲に認識阻害の魔法を施してあるのはいうまでもないことだろう。

 まあ、この広場は誰でも来ることができるパブリックなスペースだからね。


「え~っと、俺が行った左回りルートの街の状況としましては……特に危険な反応を示さない商品を扱っている店が多かったんですけど……でもやっぱ、トードマンのところはダメっすね! 値の張る調味料はそうでもなかったんですけど、安いやつは確実に反応アリでした!!」

「やはりか……というのも、私が行った右回りルートの街も同じような状況でした……なんの問題もなさそうな店が多くあった中、ベイフドゥム商会が扱っている安価な調味料からだけは、あの魔力を吸収される感じが必ずありました……」

「ふむふむ……どうやら状況はどこも同じようだな……当然、俺が行った中央ルートの街も、ベイフドゥム商会が扱っている安い調味料に例のブツが混入されていたよ……」

「いやぁ~っ、街を回りながらずっと考えてましたけど……あの安いってのが何よりも問題っすね! 街の住民たちが積極的に買ってましたもん!!」

「ええ、その影響でベイフドゥム商会以外の店はなかなか厳しい状況のようでした……もちろん、調味料以外も扱っているなど規模のある店や、特色ある商品を扱っている店なんかは、ある程度耐えることができているようでしたが……」

「そうだな……そしてベイフドゥム商会がまだ出店していない街なんかは、比較的マシって感じだったか……まあ、ベイフドゥム商会の看板がかかっていなくても、その傘下に入らざるを得なくなっていた店もあったようだが……」

「そう! そうなんですよねぇ~っ……トードマンのところが出店していない街なんて、自分の体のことを考えたらラッキーなぐらいなのに、むしろそれで悪態をついていた住民が多いのなんの……」

「我々はアレス殿のおかげで気付くだけの能力を養うことができましたが……特に訓練をしていない平民では、そのことに気付くのが難しかったでしょうね……」

「……実は平民の中にもな、その正体こそ分からなくとも、ベイフドゥム商会が混ぜ物をしていると見破っていた商人がいたんだ」

「へぇ! そいつはやりますね!!」

「それは見事……」

「だろう? ただ、その商人はもともと味覚が優れていたとか、長年の経験と勘で培った冴えとかいろいろいえるだろうが……その者も含め、なかなか注目に値する人材がメイルダント領にもたくさんいるなぁと街を回っているあいだ感じたものだよ……とまあ、これは調査とは直接関係ないことではあるが……」

「そうかもしんないっすけど……それでも、明るい話題にホッとした気持ちにはなりますねぇ……」

「ええ、まったくです……」


 こうして、3人の調査報告が出揃ったって感じだね。

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